劇場版・少年少女の戦極時代
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天下分け目の戦国MOVIE大合戦
月花・レジェンドアームズ!
あの後、気がつくと、咲は野外劇場――つまりは元の世界に戻って来ていた。
目覚めた時、ヘキサ初めとするリトルスターマインの仲間たちが、ステージの陰で倒れている咲を取り囲んでいた。ヘキサとナッツは涙目だったので、咲は何度も謝った。
(あたしを連れ帰ったのがだれかはわかんないけど。きっと舞さんも紘汰くんもミッチくんもまだ戦極時代にいる。助けたいのに、どうしてあたしだけ、もどって来ちゃったんだろう……)
俯いたところで、ヘキサから声をかけられた。
「しんぱい?」
「うん――でも、みんな強いし、きっとダイジョウブっ」
咲は今出せる精一杯の明るい声で答えた。いなくなったのはヘキサの兄たちもなのだ。咲以上に、ヘキサは光実たちを心配しているはずだ。ここで咲が、自分が一番彼らを心配なのだという顔をするわけにはいかない。
「お~い。二人とも、はじめるぞ~」
「おっけー」
「はーい」
モン太に呼ばれて、咲もヘキサも野外劇場の舞台に上がった。
ナッツがCDラジカセのリモコンを押した。流れ始める、スローテンポの明るいBGM。咲たちの動きも曲に合わせてスローに。これが意外と筋肉を使うのだが、これしきで音を上げるキッズダンサーは、あのダンススクール生にはいない。
観客であるちびっこたちが曲に合わせて拍手する。
やはり心地よい。
だが、そんな咲の気持ちをぶち壊すように、客席の最後尾に「裂け目」が開いた。
客席にいた児童が舞台下に雪崩のように逃げて来る。野外劇場は客席の最後尾に出入口がある。つまり、そこに怪物が現れる裂け目が開けば、必然的に児童は逃げられない。
さらに、裂け目から現れた怪物は、インベスではなかった。
(あの緑のやつって、あっちの世界で武神鎧武が連れてたやつ! 裂け目もいつもとちがうし)
――咲は知らない。戦極時代でレジェンドアームズとなったバロン、龍玄、斬月が有象無象の怪物と戦っている真っ最中だと。それらの有象無象が逃げ道を求めて、こちらの世界に湧き出たのだと。
(ワケわかんないけど、ここにアーマードライダーはあたしだけ。あたしがやらなきゃ!)
咲は戦極ドライバーをセットし、舞台から飛び降りた。咲を避けるように児童が波状に散る。
「へんし…っ」
手にしたドラゴンフルーツの錠前が、怪人の攻撃で手から弾かれた。咲自身も転んだ。
唯一守り手となりうる咲が怯んだことで、ちびっこからも悲鳴が上がった。
「咲! ――だいじょうぶ?」
「あたた……うん、ごめん、ヘキサ……あ」
転んだすぐ後ろ、舞台の階段の裏で、咲とヘキサは「それ」を――たわわに実った毒紫色の果実を見つけた。
視界を白が掠めて顔を上げた。
階段の上に、白い装束をまとった女が立っていた。
「 その果実が あなた方を選ぶなら あなた方は生き残れる 」
咲とヘキサは果実を凝視し――やがて、肯き合い、果実を一人一つずつむしり取った。
取った果実の内、咲が持つほうの果実がオレンジの錠前に変化した。
果実とオレンジの錠前が光り、融合する。
「これって……」
咲の手の中にあったのは、アーマードライダーの顔が刻印されたロックシード。
試しに開錠スイッチを押してみた。
《 ガイム 》
いつものチャックが頭上に開く。だが、降ってきたのはドラゴンフルーツでもオレンジでもなく、鎧武の顔を模した鎧だった。
その時、自分でも何を感じたか分からない。ただ、使え、と。全身の血が沸騰するように熱かった。
咲はそのロックシードを戦極ドライバーにセットし、カッティングブレードを叩き落とした。
「変身ッ!!」
《 鎧武アームズ 花道・ユア・ステージ 》
鎧が展開し、咲を装甲する。アーマードライダー月花へと変える。
しかして、そこに立ったのは、月花でありながら、月花でなかった。
「「咲が鎧武になったぁ!?」」
ナッツとトモが互いの両手を握り合い、驚きの声を同時に上げた。
「すっげえ、咲! まさにレジェンド!」
「……おれたちの、レジェンドライダー」
月花はぺたぺたとフェイスマスクを触り、自身の体を見下ろした。ドラゴンフルーツアームズでさえ背が伸びるのに、今はもっと地面が遠い。オレンジの鎧。手には大橙丸。
(紘汰くん、だ。あたし今、紘汰くんといっしょにいるんだ。リクツじゃない。きっとそうなんだ!)
月花は大橙丸を肩に担ぐように構え、腰を落とした。
『ここからはあたしのステージよ!!』
月花・鎧武アームズは、迫り来るインベスの群れに突っ込んだ。
月花は月花としてではなく、「鎧武」として戦った。鎧武がするように、大橙丸を力強く揮い、ナギナタモードにしたダブルセイバーを振り回し、蹴り、殴り、ぶつかり。月花が知る「鎧武」はこうだと信じ、がむしゃらに怪物を倒し続けた。
『これでぇ、ラストぉ!!』
《 オレンジスカッシュ 》
『せい、はーっ!』
ステンドグラスを模したような怪物を、自身の全力とアームズのパワーを使ってキックし、爆散させた。
一拍置いて、劇場は沸いた。
『がいむ! がいむ! がいむ!』
「ちょ、これじゃあたしらじゃなくて、鎧武がホメられてるみたいじゃん!」
「がんばったのウチの咲なのにオーボーだー!」
まあまあ、とナッツとモン太を宥めるだけの余裕もない。フェイスマスクの下で荒い呼吸をくり返す。
そうしてしゃがみ込んでいる間に、オレンジの裂け目が閉じていく。裂け目の向こう側、掠めたのは鮮やかなオレンジ色。
紘汰くん、と呼ぼうとしたのだ。だが、後ろにいるちびっこの歓声は「鎧武」を讃えるから。
「がいむー!」
手を伸ばした先で、オレンジの裂け目は閉じた。
――「「「がいむ! がいむ!」」」――
同じ「鎧武」がいることで時空が繋がったのか。その声は、戦極時代にいた鎧武の鼓膜を打った。
――「がいむー!」――
(咲ちゃん、ヘキサちゃん、みんな――!)
『おおおおおぉぉ!!!!』
吼えてキックの推力が増すではないが、鎧武は吼えずにはいられなかった。
例え呼びかけてくれたあの子たちが観ていないステージでも、最高に格好いい「ヒーロー」で在りたかった。
鎧武渾身のライダーキックは、ウィザードの燃え盛るライダーキックと合わさり、御神木と一体化した武神鎧武を貫いた。
後書き
きっと賛否ある展開だろうなァ、むしろ賛否の否しかないだろうなァ、と思います。
咲を途中退場させたのは、ものすごく単純な理由――「かさばる」。
あの人数+咲(あるいは咲ヘキ)を書くだけの筆力が自分にはない。そう判断したので、自分はあえて咲を戦極時代から外しました。
ですがレジェンドライダーの登場を望む声も多く、ここで終わりというのもあまりに呆気ないので、作者、頭をひねってみました。そうして生まれたのがこの展開です。
月花・鎧武アームズ。
「もう俺得でしかないだろ作者」とお思いの読者様、
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