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霹靂の錬金術師

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PROLOGUE

私は夢見る少女だった。
この世界には愛が満ち溢れていて、どんな人でも幸せだと思っていた。世界の至る所で今日もまた愛が育まれている。そしてそれをみんなが祝福している。そんな世界だと思っていた。
故に夢見る少女。
けど今はもう違う。世界はそんなに素晴らしい世界ではないと知った。ううん、知らざるをえなかった。なぜならそれは私が国家錬金術師になった瞬間から目の前に突き付けられていたのだから。



汽車のコンパートメントの一つで座って本を読んでいた私に声が掛かる。

「あれ?ソフィアさんじゃん」

見知った声に眼鏡を指であげながら本から顔をあげる。
そこには背の小さい、金髪を三つ編みにして金色のつり目をした少年が立っていた。

「あ、エドワード君。久しぶりね。前にあったのは去年の査定の日だったかしら?」

エドワード君は、確かそんくらいと言って私の向かいに座った。足の前に置いていたトランクを座りやすいように脇にずらす。

「あ、ども」

だいぶ急いでいたのか、若干息が切れている。どうしたのだろうか。
あれ?そういえばいつも一緒にいるアルフォンス君がいない。

「アルフォンス君は?」

「アルはオレ達の師匠んトコ。今年の査定忘れちまってオレだけ南方司令部に」

「フフ、また何か探し物?」

エドワード君とアルフォンス君は兄弟だ。兄の方のエドワード君は私と同じ国家錬金術師だ。年齢と背丈に似合わない『鋼』なんて二つ名を背負っている。まぁ、私の『霹靂』も私には全然似合わないのだけれど。
そんなことはさておき兄弟は賢者の石を探している。目的は自身の腕と足、弟の全身を取り戻すため。マスタング大佐から書類不備で詳しくもない生体錬成に詳しい術者として紹介され、二人から二人に纏わる話を聞いたときは心底同情したものだ。
二人は一日でも早く元の体に戻るために日夜調べごとをしている。それが少々派手になってしまった話はよく聞く。そんな二人だから調べごとをしている時は他を忘れてしまうのだ。だから今回もそれで査定と言う大切なものを忘れてしまったと思った。

「あ〜、少しだけ進めたって感じだな。ソフィアさんは何でここに?」

「私も南方司令部に用があるの」

「へぇーなに?」

「私も査定忘れちゃったの」

ペロと舌を出す。
エドワード君が大きくズッコケる。相変わらずリアクションが凄い。感情と身体が本当に直結してる。

「なんだよ、オレと一緒かよ」

素早く立ち直ったエドワード君が若干不貞腐れたように椅子に座りなおす。

「うん、だから今からレポート書かなきゃ。一緒に書きましょ?」

エドワード君はせっかちだから査定を忘れたことに気づいたら一も二もなく出てきたことだろう。きっとレポートはまだ書いてないはずだ。
エドワード君は観念したような顔で自分のトランクから数枚レポート用紙を出し、トランクを膝の上に置きその上に用紙を置いた。私もそれに倣った。
そこからはポツリポツリとたまに互いの意見を交わしながら、レポートを書いた。そして何とか駅に着くまでに書き終え、南方司令部に向かった。
事務所で手続きを受け、技術研究局に向かう。しかし南方司令部には二人とも初めて来たのですぐに迷いかけてしまう。仕方が無いのでエドワード君が道を聞こうと提案する。すぐに同意した。

「すんませーん。技術研究局ってどこ………」

エドワード君が廊下の曲がり角にちらりと袖が見える人に話しかけ、固まってしまった。
後ろを歩いていた私は何だろうと見てみるとアームストロング少佐がちょうどエドワード君に抱きつかんとしているところだった。
……人の骨ってあんな音がしながら折れるんだ。
でも何でアームストロング少佐が南方司令部なんかに?たしか中央勤務じゃなかったっけ。



その謎はすぐに解けた。

「わっはっはっはっはっ!!元気そうで何より!」

この元気な声の持ち主はこの国のトップ、キング・ブラッドレイ大総統のものだ。

「はぁ…」

「どうもお気遣いありがとうございます」

思わず固い声になってしまった。はっきり言って私はこの人が苦手だ。
この陽気そうな左目に眼帯をしたダンディな人があのイシュヴァール殲滅戦を指揮していなければ私はもう少し好きになれただろうか。

「大総統の南部戦線視察に我輩が護衛を務めることになってな!」

「タイミング悪ぅ……」

胸を張って誇らしそうにするアームストロング少佐の横でエドワード君がゲンナリとしている。二人のあいだに何かあったのだろうか。

「査定に来ておったそうだが」

「うん、有効期間が過ぎてるから手続きに時間がかかるってさ」

「どれくらいかかるんですか?」

事務所の人が手続きが大変と言っていた。凄く時間がかかるとしたらちょっと困ってしまう。南方司令部なんかに縛られたくはなかった。

「査定か。どれ、書類を貸したまえ」

ブラッドレイ大総統が私とエドワード君から書類を受け取る。そして後ろの部下から大総統印を受け取り、合格!と言いながら印を押した。

「これにて査定終了!」

「よかったな、エドワード・エルリック、ソフィア・キャンベル」

書類を差し出すブラッドレイ大総統と何故か誇らしげなアームストロング少佐。
何と言うか適当です。
エドワード君なんかは地面に手をつき、全力で呆れている。私も心境としては近い。

「君達の各地での活躍を見る限り問題はない。これからも期待しているよ霹靂の錬金術師君、鋼の錬金術師君」

その後は少しだけ雑談したあと開放され、今は駅にいる。

「エドワード君はこの後どうするの?」

「オレはダブリスにとんぼ返り。いろいろやることもあるし」

「そっか、じゃあお別れだね」

「ソフィアさんはこの後どうすんの?」

「私はラッシュバレーに行こうかなって」

「あそこに?なんでまた?」

エドワード君は若干苦い顔をする。ラッシュバレーで何かあったのだろうか。いえ、彼が行く所では必ず騒動があるから、きっとラッシュバレーでも何かしら起こしたのだろう。

「あそこは機械鎧技師の聖地なんて呼ばれているでしょう?だから」

「そういえばソフィアさん機械鎧好きだったっけ」

「えぇ、何か無骨でかっこいいじゃない?男の、って感じかな」

その時、蒸気の音と共に汽車がホームに滑り込んできた。ラッシュバレー行きだ。

「じゃあ、エドワード君頑張ってね」

「ソフィアさんも」

私はありがとう、と言いながらトランクを持ち上げ汽車に乗り込んだ。

 
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