オズのムシノスケ
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第十幕その三
「僕だってするし」
「貴方もなの」
「喧嘩をしなかったことのない人っていないんじゃないかな」
「まあ私もね。あまりね」
「いつも喧嘩をしている訳じゃないっていうんだね」
「ええ、そうよ」
ヘラジカは言い訳めいて神宝にお話するのでした。
「あまりしないと自分では思ってるわ」
「確かにあまり喧嘩っ早そうじゃないね、君は」
「そう、だからね」
それでだというのです。
「今回はたまたまなのよ」
「たまたま喧嘩をして」
「そう、家出したのよ」
「家出したのはこれまで何度あったのかな」
ジョージはその数も尋ねました。
「一体」
「これがはじめてよ」
「あっ、はじめての家出だったんだ」
「これまで二回位喧嘩はしたけれど」
「あれっ、案外少ないね」
「だからあまり喧嘩はしないのよ」
普段はそうだというのです。
「私だってね」
「そうだったんだ」
「それよりも寝たり草を食べたりする方がずっと多いから」
「そうしたことの方が好きなんだ」
「そうよ、私だってね」
普段はそうだというのです。
「平和にしているのよ」
「それで今回はなんだ」
「あくまでたまたまだから」
「だといいけれど」
「何か私いつも喧嘩している様に思われてない?」
「何となくね」
そうだと返したのはトトでした。
「だって僕達が君と会ったのは君と喧嘩した時じゃない」
「それでっていうのね」
「喧嘩している時の人に会えばね」
「いつも喧嘩している様に思われるのね」
「そう、誰でもね」
「それは心外よ」
ヘラジカさんは口を尖らせてトトに抗議で返しました。
「私はあくまで普段は平和だから」
「そうだとしてもね」
「喧嘩した時の私に会ったから」
「しかも最初にね」
「初対面だから余計になの」
「そう、思ったよ」
いつも喧嘩している様にというのです。
「それが違うのならいいけれど」
「だから違うわよ」
「そうなんだね」
「だからそうって言ってるでしょ」
「だったら本当にそうであって欲しいよ」
「そのことを今から見せてあげるから」
ヘラジカさんは少しムキになってそのうえで先に進むのでした。
そしてなのでした、皆で森の中に進んでいってです。
ヘラジカさんは一行にです、こう言いました。
「そろそろよ」
「群れだね」
「ええ、皆がいる場所よ」
その場所に入るというのです。
「もうすぐね」
「わかったよ、それではね」
教授がヘラジカさんに応えてです、そのうえで。
一旦服の懐から懐中時計を出して時間をチェックしてからです、あらためてこうしたことを言ったのでした。
「群れの皆と会う前にね」
「何かあったの?
「お茶の時間だからね」
それでだというのです。
「ちょっと休もう」
「あっ、もうそんな時間なの」
ドロシーも教授から聞いて言うのでした。
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