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騎士の想い

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第十章


第十章

「それをまず言っておく」
「ではまことに」
「皇帝に」
「左様」
 まことだというのである。そうしてであった。
「そしてだ」
「そして?」
「まだあるのですか」
「あの者はまだ独身だった筈」
 皇帝が次に言及したのはこのことだった。
「それならばだ」
「婚礼をですか」
「では」
「ロックベルク侯爵家のだ」
 エヴァゼリンの家である。
「エヴァゼリン姫を嫁にだ」
「何と、そこまでなのですか」
「あの姫を」
「そうだ。丁度いいではないか」
 まさにその通りだというのである。
「そうだな」
「まさかそこまでされるとは」
「彼に」
「それだけの武勲を見せてもらった」
 まずはそれを褒める皇帝だった。
「そして心もだ」
「彼の心をですね」
「それを」
「左様、帝国への忠誠心と騎士道精神をだ」
 その二つをだというのである。
「そのエヴァゼリン姫へのな」
「それをなのですね」
「まさにそれを」
「そうだ。だからこそ与える」
 まさにそれをというのである。
「わかったな。それではだ」
「はい、それではすぐに」
「彼にそう伝えます」
「その心に見合ったものが与えられる」
 皇帝は厳かにこの言葉を出した。
「それが世の中というものだ」
 こうしてイークレッドは辺境伯になると共にエヴァゼリンを妻に迎えることとなった。一介の騎士からである。それはまさに彼にとって至高の幸福であった。
 婚礼の場でだ。彼はその顔を真っ赤にさせていた。まるでこの世にいるのではないといったように笑顔でいるのであった。
「あの」
「もう少しですね」
 そんな彼を見た周りの者も流石に声をかけた。
「幾ら辺境伯になられたからといって」
「それは流石にないのでは」
「それも確かに有り難いことだ」
 イークレッドは既に礼装に身を包んでいる。その姿でこの世にあるとは思えない顔になってである。そうして彼等に対して言葉を返すのであった。
「だが。それ以上にだ」
「御婚礼ですか」
「それで」
「これで私は一生騎士でいられる」
 こう言うのである。
「このことが何よりも嬉しいのだ」
「エヴァゼリン様の騎士として」
「だからなのですね」
「そうだ。私はかつて誓った」
 微笑みを浮かべての言葉である。
「あの方に生涯を捧げると」
「では今もまた」
「そうされるのですね」
「これからもだ。そして騎士として」
 こんなことも言うのだった。
「帝国にも命を捧げるのだ」
「では今辺境伯としてもですね」
「婚礼の場に」
「赴かせてもらう。あの方の傍らで」
 こう言って今エヴァゼリンの下へ行くのだった。彼は騎士だった。その心を強く抱いてそのうえで。今婚礼の場に入るのであった。これが後にエヴァゼリンの夫として、また帝国の辺境伯として名を知られることになる彼の若き日の、今も語り継がれている話である。


騎士の想い   完


                 2010・1・12
 
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