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小さな勇気

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第一章


第一章

                          小さな勇気
「何ていうかなあ」
 クラスの中で黒い詰襟の少年達がぼやいていた。
「あの先生何とかならねえのかな」
「全く。口喧しいよなあ」
「ああ」
 彼等が話しているのは先生に対しての不満である。学生がよく話す先生への愚痴話だ。これは何処の学校にもあるものであろう。職場ではこれが上司になったりするのもまた同じである。
「ちょっと見たら美人なんだけどな」
「スタイルもいいしな」
「そうそう、脚なんかな」
 何時の間にかスタイルの話になっていた。仲間内の一人の机の前に椅子を持って来てだべって話をしている。
「黒いストッキングが似合っててな」
「タイトのミニスカでな、あれたまんねえよな」
「そのスカートが黒でブラウスが白でな」
「そうか?俺ズボンが一番いいぜ」
「何でズボンなんだよ」
「キュロットだよ。この前履いてただろ?」
「ああ、あの時か」
 その中の一人の言葉に皆思い出したように頷いた。
「あれもよかったな」
「髪形もいいんだよな」
「黒のロング」
「男の夢だぜ」
 周りの女の子達が顔を顰めるのも気にしない。あくまで男の世界に入っていた。
「あれがいいんだよな」
「まあな」
「そそるっつうか何つうかな」
「また変なこと話して」
 案の定女の子達はそんな彼等を白い目で見ているがそんなものは無視している。これもまたまるで予定調和であるかの様であった。
「あれだけいいもん揃ってるのにな」
「きついもんな性格」
「特に授業中な」
「そうそう、宿題忘れた時なんかはな」
 彼等はさらに話を続ける。
「厄介だよな」
「全く。誰にだって間違いはあるっての」
「おめえはその間違いってやつが多過ぎるんだよ」
「別にいいじゃねえか」
「この前も怒られてよ」
「俺もな。あの時は参ったぜ」
 彼等が話をしているのはこの学校の現国の先生である真子恵理子先生である。彼等の話通り顔もスタイルも髪も奇麗なかなりの美人であるがいかんせん性格がきつかった。そのきつさのせいで人気はどうにも複雑な状況なのであった。これは彼等の話にもよく出ていた。
「教科書で頭ひっぱたかれてよ」
「まあ授業中にパン食ってたらな」
「腹へってたんだよ」
「おまけに宿題まで忘れて」
「たまたまだよ」
「そこまで続けば嫌でも怒られるって」
「そうそう」
「ちぇっ」
 その授業中にパンを食べていた悪ガキは椅子の上でふてくされた顔になっていた。彼は馬場康則、このクラスきっての悪ガキである。悪ガキといっても別に不良ではない。酒はこっそりとやっているが煙草はやらず、茶髪にしていてもそれは普通の長さであったりする。要するに今時の少し悪い高校生であり不良とかそういうものではないのだ。なお成績は見事なまでに不良であり追試や補習の常連である。

 
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