舞台は急転

第七章

「今更引っ込めるなんて無理だから」
「さあ言って」
「言いなさい」
「言いなさいなのね」
「そういうこと」
「その通りよ」
　皆で有美に対して答えるのだった。
「それで何が触れたのよ」
「西園寺君に触れたのよね」
「あんたが」
「そうよ」
　このことは答えることができたのだった。
「その通りよ。私が西園寺君にね」
「何だ、そんなことなの」
「別に何てことないじゃない」
　彼女達はまだその触れた部分が何処なのかわからないのでこう言い合う。
「触れた位じゃね」
「何でもないわよ」
「胸がね」
　これまで以上に小さな声になっていた。
「西園寺君の腕に触れたのよ。さわっとだけれど」
「胸がだったの」
「じゃあ西園寺君も」
「わかってると思うわ」
　こう答えるのだった。
「だって。顔が赤くなったから」
「そうだったの。胸ねえ」
「それが触れたの」
「私も思いも寄らなかったわ」
　これが有美のイレギュラーだったのである。その思いも寄らない。
「まさか。ここでそんな」
「恥ずかしいのね」
「当たり前よ」
　顔を赤くさせて皆の問いに答えた。階段を昇りながら。何時の間にかその階段も昇り詰めそうしてそこでさらに皆に話すのだった。
「だって。予想していなかったから」
「だからなのね」
「確かにやったって思ってるわ」
　それは言うのである。
「それでもね。それでも」
「恥ずかしいのね」
「こんなことまでするつもりはなかったから」
　彼女もそこまでは考えていなかったのである。
「けれど。これを」
「これをどうするの？」
「活かすの？」
「そのつもり」
　それが彼女の考えであった。
「そうだけれど。どうしようかしら」
「どうしようって」
「予想しているんじゃないの？」
「予想はしていてもね」
　有美は顔を赤くさせたうえで言葉を続ける。
「何かどうなるかわからなくなってきたわ」
「やれやれ、アクシデントに魔女様は戸惑っておられる」
「エスパーでも無理ってわけね」
「エスパーになったつもりだったわ」
　実は今の今まで有美自身もそのつもりなのだった。
「けれど。今の流れは」
「まあ。それでも予測してやっていったら？」
「ここまで来たら。そうよね」
「そうしたら？」
「予測したらって」
　皆に言われても今一つ考えがまとまらない有美だった。
「どうしたら。その」
　有美は俯いたまま言う。前に進めながら。
「もう一度冷静になれっていうこと？」
「立ち止まってね」
「ちょっとそうしてみたら？」
「立ち止まって」
　皆の言葉にふとその足を止めたのだった。
「考えてみるの？」
「って実際に立ち止まらなくてもいいからね」
「そこはね」
「あっ」
　その立ち止まっていることにも今気付く有様であった。
「何立ち止まってるのよ、私」
「いや、誰も止まれって言ってないから」
「あんたが勝手に」
「うう・・・・・・」
「大体さっきまでっていうか触れてからもちょっとは余裕ありまくりだったじゃない」
　女の子のうちの一人がそれを指摘する。
「何で急にそんなふうになっちゃったのよ」
「そういえば何でよ」
「そうよね」
　皆もその娘の言葉に気付いて言うのであった。