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バカとテストと白銀(ぎん)の姫君

作者:相模
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sceneⅡ バカと塩と生きる知恵

「代表、Bクラス浅井君から今日食堂で話し合いをしたいという申し入れが有りましたが、如何しますか?」
如何も何も今のFクラス絶対不利な状況では選り好みすることが出来ないのだから、最終的には受け入れるしかないのだけれど
「くっ…食堂…か」
「どうかなさったのですか?」
代表殿の様子を見ている限り場所を変更してもらえるよう返答した方がいいのだろうか。
「どうしましょうか、場所の変更をお願いしますか?最も受け入れられる可能性は低いですけれど…」
「いや…今のBクラスの状態だと食堂が妥当だろうな…むしろ積極的に動いてくれる事に感謝しなきゃならないだろうよ」
そのときの代表の表情はと言えば、苦虫を百匹ぐらいかみ殺したような表情をしていたけれども、その理由は案外すぐに僕にも分かった。

 浅井との会談は13:00からと指定されていた、こちらからは了承を伝えているからそれまでについでなのだから食堂で昼食を取ろうという事になった。
当然と言えば当然の流れだろう、代表殿と秀吉君以外のいつもの面々は食堂に行くことにむしろ賛成だった。
多くの場合を僕らは屋上で食べているのは全員がお弁当を大抵持ってきているからだ。
(吉井が二日に一度は塩水しか飲んでいない日があるのは目を瞑る)
何故か今日に関しては持ってきている人の方が少なく、それじゃあ食堂でみんなで食べようと言う流れになったのだ。
僕と代表殿は日替わり定食A(揚げ物が主菜と成っている)を、美波さんと瑞希さんが親子丼を、秀吉君とムッツリーニがラーメンを頼むためにそれぞれ厨房に面した引き渡しのカウンターに並ぶ。

「参謀、お前は時々、こっちに来ているみたいだな」
何が言いたいのだろうか
確かにDクラス戦の次の日、食堂に降りると友香さんとばったりと出会い、そのまま一緒に食事をしたことはある。
そのことを代表殿に一言も触れたことはない。
Fの参謀に任命された人間が、Cクラスの代表と並んで食べるという行為を裏切り行為にでも見えたとでも言いたいのだろうか。
もしそうだとすればネタ元はおそらくムッツリーニ君だろう。
そもそも触れていないのはそういう話が出なかったからなのだから到底隠す気はない、痛くもない腹を探られるのはごめんだ。
「そうですね、友香さんと何度かご一緒させていただいたことがありますね。」
「……お前のその神経にうっすらと恐ろしさと同時に感心を覚えそうだな。何だってわざわざCクラスの頭(小山)の名前を…」
面白くなさそうな代表殿に、少しばかり言い過ぎたと慌てて反省する。
ここは前の学校じゃないのだから、そんなに尖っていてはいけないじゃないか…
「失礼しました、そのつい言い過ぎてしまいました…」
「まぁ、別にその程度のことはどうだっていいんだ。それよりも、いやそれ以上にな…」
そう言って代表殿が指さす方を見ると何故か吉井が定食のコーナーに来ていた。
「吉井君は定食でしたか?」
何も買っていなかったはずだけれど…
僕の質問にため息で返す代表殿、つまり否だろう。
「俺が食堂に近づきたくないのは…」
「近づきたくないのは?」
「……明久のな…あぁ言うことをしているのを直接見るのが情けなくてな…」
「あぁ…」
再び彼の方に視線を投げると彼は500mlのペットボトルを手にしていた。そこから彼は備え付けられている塩をまず最初に入れ、次に定食に添えられるサラダにかけるためのドレッシングを少し混ぜ入れ、最後にセルフサービスの水を入れて満タンにし、最後によくかき混ぜソルトウォーター(改)を作り上げた。

「分かるだろ…俺がメシを持ってきていないときでも絶対に食堂では食うまいとしている理由が…」
「えぇ…確かに、すごく衝撃的なものを見せられてしまい…否定しようにも全く材料がありませんね…」
哀愁漂うその光景であった。
しかしまるで熟練の職人が一つの製品を作るかのようななめらかさで全行程を軽々こなした当の吉井は、さも嬉しそうに僕らが先に取っておいた席に駆けていってしまった。
「前に秀吉の奴に見せたときにも同じようなことを言っていたな…決定的なものを見せられて納得したとかなんとか…」
代表殿の言葉を聞きながら、そういえばいつだったか吉井が楽しげに食堂について語っていたことを思い出す。
『食堂っていいよね。家で作るよりも遙かにバリエーション、いやフレーバーが増えるんだよ。一番ノーマルな塩味だとかペッパー風味とかは良いけど…』
(なるほど、あのときに吉井が言っていたのは水の味付けの事だったのか…)
そんな姿を思い出すともう、心の中には驚嘆する気持ちしか残っていない、そのことが一層清々しく感じるけれど…
「姫路さんにお知らせした方が宜しいでしょうか?」
「お前は吉井を殺す気なんだな?」
「いえ、そうでもしないと直らないかと存じます。」
「そうだよな…お前が姫路と談笑しているときにでも明久を突っついてみよう。参謀は何とか姫路に本当ですか、みたいなことを言わせてくれ。うまく行く確率が増えるだろうからな」
「承知しました」
初めて見えた光にすがりつく代表殿の姿に、きっと一年の頃からつきあわされていたのだろう事をうっすらと読みとった僕だった。
 
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