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寄生捕喰者とツインテール

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赤と青、そして紫

 
前書き
今回新技登場&変身後のモンスター娘に名前がつきます。 

 
 遡ること十数分前。


 マスコット……もとい正義のヒロイン・テイルレッドこと総二と、同じく正義の味方なのに蛮族と称されているテイルブルーこと津辺は、教室にて昼食をとっていた。


「んぅ~……」
「だからやめろってんだろ!!」
「うごっ!」
「……ホント、何で懲りないのかしら……?」



 テイルレッドの待ちうけにキスをしようとしたクラスメイトへマグカップを投げつけ(実はこのやり取りは三回目)制止させて、口論とも言えない微妙な会話の後で、疲れた溜息を吐いて総二は席に座り食事を再開する。


 ……現実的な話をすると、携帯電話は公衆便所よりも菌が居るといわれるキーボードに勝るとも劣らない程の菌の巣窟なので、日常的に洗浄している手は兎も角、物を食べ空気を吸う口などは触れさせない方が賢明である……どうしてもやりたい方は自己責任でどうぞ。


 席へ座っても暫く嫌悪感がとれなかったか、深呼吸を数回繰り返してようやく落ち着きを取り戻してから、総二はミートボールを口へ放り込んだ。その時、ちょっと腰の位置を変えた時に何かが当たったのを感じ、それである事を思い出してポケットから取り出す。



「そういや……トゥアールからこれをもらってたんだったか」
「ああ、簡易的なワープ装置ね。でも往復一回しか使えないし、あらかじめ設定していた場所にしか飛べないしで、失敗作なんでしょ?」
「試してみろとは言われたけれど、大丈夫なんだろうか」
「止めた方がいいと思うわよ、どうせ私はジャングルとかサバンナとかに放り出されて、そーじは家に飛ぶだけだし」
「……そうならないと言いきれないのが怖いな……」



 トゥアールが要所要所で総二へ対して変態行為に走ろうとし、それを津辺が止めようとして暴力をふるうというお決まりの―――それがお決まりになっている時点で中々に恐ろしいが―――やり取りのほかに、もう一つ津辺が暴力を振るう原因となっている物がある。


 それが、津辺へのあからさまな嫌がらせや馬鹿にした言葉の数々、である。


 どうもトゥアールは自分の目的行使の為に津辺が邪魔なようで、一見気遣っているようでいて実は帰って欲しいだけという内容の言葉、睡眠薬や無駄に発達した科学技術による物理的な妨害を、それこそ日常茶飯事行ってくるのである。


 その度に振るわれる津辺の技も、摩擦で削ろうとしたり豊満な胸を捩じり切ろうとするなど中々にエグかったりはするが、半分以上はトゥアールの自業自得だったりするので、実際にはどっちが悪いのだとはっきりは言えない所だ。


 まあ、最初は二人ともそれなりにマイルドだったが、回数を追うごとに段々過激になっていくので、総二がそうはならないと言いきれないのも仕方が無い。


 唯一の救いは二人とも犬猿の仲というよりは意地張りの遥か延長線上みたいなものなので、お互いに加減を一応ながら知っているのが救いなところだろうか。


 弁当を食べ終えて蓋を閉じた総二は、ふと表情を曇らせてここ最近問題になっている事を口にした。



「……本当、何者なんだろうな、あの子」
「あの紫少女ね。胸でかいってのは明確だけど、他は謎だらけだわ」
「いや、そこは気にする所じゃ……」



 胸関連の話は津辺にとってどうして譲れ無いらしく、総二の尤もな意見をスルーして鼻を軽く鳴らす。
 しかし、彼女も本当に気にすべき部分は分かっているようで、眼を僅かに伏せた。



「同じくアルティメギルの奴等を倒してるみたいだけど……メディアへの露出が殆ど無いし、私達より早く目的地に付いて速攻で食べちゃうから、以前正体が掴めずじまいなのよね」
「味方になってくれれば心強いんだけどなぁ……敵じゃあないのは分かってるんだしさ」



 戦闘員(アルティロイド)含めて二分足らずで倒してしまうその実力は、総二よりも強いのはいわずもがな、戦いに最近加わったばかりなのに妙に頼もしい強さを見せる津辺と比べたとて、勝るとも劣らない。


 しかし、一方で問題点もある。



 紫色の少女はエレメリアンの血肉を糧としているようでいて、実際は彼等の体を構成している属性力(エレメーラ)を食べている事は、総二達も初見での考察で理解している。だからこそ、普通の人間にまで手を出さないかという心配が常に付いて回るのだ。


 他にも、周りに一切考慮していないのか、彼等が到着時に嫌でも見てしまう戦いの跡が、それこそくっきりと残ってしまっているのである。地面は嵐がそこだけ通ったかの如く抉れ、樹木が存在していれば破壊もいとわない。

 現時点では街近くで迎撃しているから助かってはいるのだが、もし彼女が街中に堂々と出てきたら、何も知らないギャラリーはツインテイルズの新メンバーかと勘違いするかもしれない。

 結果警戒が疎かになり、怪我人が大勢出る可能性も否定できないのだ。



 と、二度目の溜息と共に発せられた総二の台詞に、津辺が食ってかからんばかりの勢いで身を乗り出してくる。



「ダメッ!! あの子は敵でいいの!! これ以上味方増やしちゃダメ!!」
「え、いやでもあの子は元々戦ってんだし、一般人を巻き込んでいるのとは違って……」
「ダメなモノはダメなの!! あの子のちょっと一味違うツインテールが気に入ったとしても!」
「う……」



 どうやらツインテールが気に入った点も、仲間へ入れられないかという考えを抱かせる一端を担っていたらしい。

 敵か味方かも分からないのにツインテールを重視する……ツインテールフェチにもほどがある。



(なんだろうな……あの子はいやいやツインテールをしているというより、最早何かを諦めたみたいな雰囲気と、悲しみを感じたんだけどな……ツインテールから)



 訂正、フェチなんてレベルでは無い。こいつはツインテールから一体何を感じ取っているのか。


 考えごとをし始めた総二へ津辺がまたツインテール関連で何かあったのかと、呆れた調子で乗り出した身を椅子へと戻してから口を開く。



「あんた―――」



 だが、いざ文句を言おうとしたその時、二人の携帯電話が同時に鳴り、中断せざるを得なくなった。味気ない音だったが、まだ着メロを設定していないことから差出人がトゥアールである事を、二人とも即座に理解し通話する。



「どうしたんだトゥアール?」

『アルティメギルが現れたんです! けれど運がいいですよ、出現したのはたまたまワープ位置に設定していた場所ですから!』

「……そう言ってあんた、ジャングルとかに設定してんじゃないの? 私を未開の地へ放り出そうとしてないでしょうね?」

『いえ、そうしようとも思ったのですが、戻ってこられてからが怖いので……それに、よりパワーアップして帰ってきそうですし』

「何言ってんのよ! 毒虫にやられたら私だって倒れるわよ!?」
「いやそこは猛獣にしてくれよせめて」
「猛獣? あんな奴ら倒せるだけましでしょ。それよりも何時の間にか刺されるってのがヤバいのよ」
「……あ、そう」



 思いっきり危惧すべきところがねじ曲がっている返答に、総二は平坦で簡単な言葉しか返せなかった。
 予想していてもなれるものではないか、トゥアールも数秒黙っていたが、すぐに慌てた声が返ってくる。



『それよりも! 冗談でも洒落でも無く本当に現れたんです! だからすぐに出動してください! 正義の味方、ツインテイルズの出番ですよ!』

「おう!」
「ええ」

『あら? 愛香さん妙に機嫌が……あ、そうか! テイルブルーは正義じゃなくて蛮族の―――』



 そこで総二の携帯電話もろとも通話を切り、ポケットへ忍ばせて津辺は立ち上がった。



「さっさと終わらせましょ、授業も半殺し(おはなし)もあるし」
「……おい、今何か不吉な単語にルビ振らなかったか……!?」



 悪寒が止まらないまま、総二と津辺は人気の無い場所まで移動して、手首にあるブレスレッドを軽く掲げる。



「「テイルオン!」」



 一瞬赤と青の閃光が炸裂した後に立っていたのは、ツインテールフェチ(もとい変態一歩手前)な観束総二と、対話という術を知らないが如く口より手が先に出る津辺愛香では無かった。

 炎を操り剣を振るう(弱弱しい姿しか映して貰えずヒロイン扱いですらない)ツインテールを愛する戦士・テイルレッドと、水を操り槍を振るう(意外と真面目に敵を倒しているのに評価してもらえない)勇猛なる戦士・テイルブルーだった。



「よし! 行くぞ!」
「とっとと倒して帰りましょ!」



 二人は気合いを入れてからワープ装置を取り出して、スイッチを押し目的地へと一瞬でワープした。

 そして、彼等が一番最初に目にしたモノは、近辺の街並み……ではなく生物をモチーフとするの怪人(変態)、アルティメギル……でもなく―――――






「あ、あああっ!? あの子は!?」
「あいつ……また来たの!?」


「……ん?」






 先程まで話題に上げていた、紫色のモンスター少女であった。















 叫んで指差した二人を少女もちらと見たのだが、数秒と経たずに目線を外して鼻を寸スンと鳴らし始める。

 端から彼女らなど眼中にはない様だ。恐らく大声を出したから振り向いただけだろう。


 と、少女がバネ仕掛けの様に首を勢いよくある方向へ向けたのを見て、総二と津辺……テイルレッドとテイルブルーは驚きつつも、何かあったのかと同じ方向を見やる。


 するとそこには……御馴染の異形の怪人たちが、戦闘員を連れて立っていた。少女が鼻を鳴らしていたのは、彼等の匂いを嗅ぐためだったのだ。




「現れたかツインテイルズ! そして我らを狙う捕食者の少女よ!」
「今回は我らはちぃと本腰を入れてきたぞ! こちらは二人だ!」



 進行宣言のあった日に現れたタトルギルディというらしい怪人の色違いと、鶏と人間を掛け合わせた化け物が、ツインテイルズと紫の少女を指差し、声高に言い放った。



「私の名はトタスギルディ! タトルギルディと同じく体操服属性(ブルマ)を極めんとせし者!!」
「そして私はチキンギルディ! 我が同胞たるホークギルディの意思を次ぎ髪飾り属性(ヘッドドレス)を探求する者だ!!」



 片方が何だか美味しそうな名前ではあったが、放つ闘気は本物だった。その気迫は決して弱いという先入観を持たせない。

 更に、普通は自尊心が強く自分が一番だと言って憚らない彼らだが、髪飾りと体操服という、被ってもお互いを損なわず、組み合わせ方によってはむしろ引き立ててくれる、そんな属性を組み合わせた所を見ても、ちぃと本腰入れてきたというチキンギルディの発言が張ったりでは無い事が窺える。

 すると、トタスギルディは襲いかかろうとする戦闘員を象にも似た腕で制し、指を差すように掌側を紫色の少女へ向けた。



「捕食者の少女よ! 今一度名を聞こう、そなたの名前はなんだ!! よもや散るとしても、倒される相手の名を知らぬのは未練が残るのでな!」



 今までの傾向からするに例え振り向いても、答えず飛びかかって喰いついてくるのが関の山であろう……そう、テイルレッドもテイルブルーも考えていた。


 が、その考えに反して、少女は予想外の行動を取った。



「……名前?」




 ちゃんと律儀に答えたのである。


 彼女が今まで相手してきたゴリラに鷹に蛙の三体とも、振り向いても碌に返答すらしなかったのがこれは如何いった事だろうか。

 驚くツインテイルズに対して、トタスギルディは答えてくれたのが嬉しかったか、大きく頷いた。



「そうだ名前だ! まさか本当の獣ではあるまいし、存在しないという訳ではあるまい!」
「……ん~……ん~? ……んぅ?」
「あるのだろう? ……名前は、あるのだろう? あっ、な、無かったら考えてもいいぞ!!」
「うむ! そうだ、時間はやるぞ!!」



 どうしても名乗って欲しいのか、トタルギルディは何回かいいかえ、傍に居るチキンギルディも大きく二回、賛同の意を示し頷いている。

 本当に名前が無いのだろうか、少女はクイッ、クリッと首を傾げながら悩む。その幼げな動作に、何時の間にか集まっていたギャラリーは、生まれた初めて恋心を抱いた乙女の表情をしていた。
 
 左目や左腕に膝下から右足は、アルティメギル以上に異形の怪物ではある。だがしかし、他は美少女といっても差し支えない容姿なのだから、キュンときても仕方が無いかもしれない。……例えこの後で、一気にイメージを崩す出来事が起きるとしても。


 少女は暫く考えてはいたが、ふと何処か明後日の方を見つめてボーっとし始め、やがて考えるのを止めたか突っ立ったまま喋らなくなっていた。



「な、何なんだろあの子。急にボーっとしちゃって……」
「何でもいいでしょ! アイツが動き出さないうちにさっさと決着付けるわよ!」



 動くか動かまいかと悩んでいたテイルレッドは、先に水の槍・ウェイブランスを構えていたテイルブルーに押され、自身もリボン状のパーツを叩いて炎の剣・ブレイザーブレイドを出した。

 相手もこちらに気が付いたか、戦闘員を差し向けるべく手を振り上げる。


 ツインテイルズが駆け出すのが早いか、アルティメギル構成員が腕を振り降ろすのが早いか……街が張り詰めた緊張感に包まれた―――――刹那、









「グラトニー」



「「「「えっ?」」」」




 まるで少女の周りだけ止まっていた時が、何かの拍子に再び動き出したか、そう錯覚するタイミングで紫色の少女は呟く。

 ビクッとして四者とも綺麗に止まり、ギャラリーは初名乗りを上げた新たな戦士に興味津々で、状況と心の中こそ違えど次の言葉を待っている。

 やがて数秒とも数分とも取れる時間が流れ、少女は再び口を開いた。



「自分、名前、自分……名前は、“グラトニー”」


「グ、グラトニー? テイルグラトニー?」
「語感は何となくいいけど、パープルとかバイオレットじゃないの?」
「えっと、グラトニーって確か……なんだっけ?」


「あの、ブルー、お前意味知ってる? それとも普通に人の名前か?」
「そんな訳無いでしょ。グラトニーって言うのは英語で“大食い”って言葉よ」

『または“七つの大罪”とも言われる罪の内一つ、“暴食”を意味する単語でもあります。今はそうでは無いみたいですけど、餌と見れば遠慮無く喰らいつく彼女にぴったりでしょうね』

「あんたにも似合いそうね。普段大概そんな感じだし」

『失礼な! 総二様以外には喰らいつきませんよ! ビッチじゃあるまいし愛香さんみたいな!』

「そーじには思考ゼロで飛びかかるでしょうが! というかあたしは違うわよ! 勝手に決めんな!」
「や、やっぱり普通じゃあないのか……!」



 予想外の名前にギャラリーは戸惑い、テイルレッドもブルーとトゥアールから説明を受けて(説明外の会話で)少しばかり震える。

 だが紫色の少女・グラトニーは表情を気だるそうなモノから変えないまま、一番初めにテイルグラトニーと称した男性の方へ顔を向ける。



「え? な、なんですか?」
「テイル……テイルはいらない、自分はグラトニー。その前も後も無い、ただの“グラトニー”」
「あ、そうですか」



 それだけ言うと顔を戻し、肩の力を抜いて再びポヤーっとし始めた。ゆったりした動きで腕と乳がブラブラ揺れ、ある意味でギャラリーの注目を集めている。……特に乳が。



「見せつけてんじゃないわよアイツっ……!! レッド! この怒りはあいつらで晴らすわよ!!」
「おう!! ……ん? い、いやいや俺まで含めんなって!? ノリで返事しちまったけど俺は違うって!?」
「そうね、あいつ等を倒したらあの子……グラトニーも十発は殴るわ!」
「そういう事でも無いっての!! 世間での人気を気にしてんならもうちょっと抑えようって!?」



 身内で言い合っているツインテイルズと、未だに虚空へ体ごと向けているグラトニーを見ながら、トタスギルディはかなり満足そうに頷いて、次にチキンギルディが声高に言い放った。



「よかろう、しかと覚えたぞ捕食者たる少女・グラトニーよ! お前の相手は私、チキンギルディがする!! 盟友ホークギルディの仇打ちだっ!!」
「そしてツインテイルズ! 貴様らの相手はこのトタスギルディが、タトルギルディの思いを背負い、受け持とう!」

「うん」



 戦闘員共々並び構え、トタスギルディとその下っ端はテイルレッドとブルーを、チキンギルディと彼の下っ端はグラトニーへ意識を向ける。

 いよいよといった感じでギャラリーも盛り上がり、さながらそこは闘技場のど真ん中だ。

 グラトニーは呆けていた状態から元に戻り簡単に肯定し、そう言うが早いか……秒速で突貫してチキンギルディの手羽先の一部を喰い千切った。



「うごああぅ!?」
「モケ!?」
「モケーッ!?」


「アグ……ムグ、ムグッ」



 軟骨でも存在していたかコリコリと小気味よい音を立てて手羽先を咀嚼するグラトニー。美味しそうに表情を歪めるが、ギャラリーは先程の盛り上がりから一転して段々と声が小さくなっていく。

 ギャラリーの事など知った事かとばかりに、グラトニーは次に戦闘員に手をかけて五人程いっぺんに脚を掴むと、移動しながら振り回して叩きつけ始めた。

 よく見ると途中途中で数人入れ替えながらダメージを与えており、倒された戦闘員からは次々と靄が抜け出ていく。


 やがて数十秒で戦闘員は全員葬られてしまい、後には靄を吸い込んで美味しそうに口を動かすグラトニーだけが残った。



「ぬ、ぐぅぅ……相も変わらず容赦の無い少女よ。ならば、こちらも容赦無く本気で」
「るぁあっ!!」
「いごぞぶっ!?」



 話などのっけから聞く耳を持たず、チキンギルディの鳩尾へグラトニーの右拳が命中。吹き飛んでいくチキンギルディをグラトニーは右足から爆風を吹きださせて即座に追い越し、左手ですくい上げて振り回し叩きつけると同時に一部を喰いちぎった。



「ぬがぁぁっ!?」
「アム……うん、コリコリ」
「これは、流石に不味いか―――」
「美味しいよ?」
「そんな事とは聞いてはいがほっ!」



 自分から話しかけたにもかかわらず、理不尽にも蹴り飛ばして更に跳躍し、落下速度を活かして踏みつけた。
 コンクリートに罅が広がり狭い範囲だが盛り上がり、彼女の攻撃がどれだけの威力を誇るのかを物語る。



「あ、アイツ容赦ねぇ……ギャラリーも引いてんじゃあねえか」
「別にいいと思うけど? 変態共にはあれぐらいやんないと」

『さっすが蛮族愛香さん! 獣同士通じるものがあるんですね! 胸は真逆ですけどね! うぷぷ、同じなのに真逆とはこれいかに、うーぷぷ……』

「トゥアール、大好きな食べ物ってある?」

『へ? 何ですか急に……あるといえばありますけどね。それはもちろん総二様の―――』

「遠慮しないで? 何でも好きなものたらふく食べさせてあげるから……今生の別れになるだろうし、ね?」

『……そ、総二さまあぁぁっ!? アルティメギルなんてどうでもいいから青い獣を退治してくださあぃッ!!??』

「はぁっ!? 放っておける訳無いだろツインテールがピンチなのに!」

『ほっといてもグラトニーちゃんが全部食べてくれます! だから今すぐ青い野獣をぉおっ!』



 向こうよりも多い戦闘員を蹴散らしながら、今と名の科本気なのか分からないやり取りを交わすツインテイルズ。
 しかし、間近で再び見た彼女の戦闘には、やはり戦慄を覚えざるを得ないようだ。

 ……地味にトゥアールがグラトニーを呼ぶ際に“ちゃん”付けをしていたが、そこは今はひとまず置いておこう。



 珍妙なやり取りとは違い結構マジな戦闘を繰り広げているグラトニーとチキンギルディ。踏みつけ攻撃から次いで殴られて転がされたチキンギルディは、勢いを利用してその場から飛び退りながら立ち上がり、グラトニーを指差した。



「ぐふぅ……コレは不味いがしかし! グラトニー! 私はお前の技の弱点を知っているのぉっ!? ってのわぁぁあぶなぁいっ!?」
「外れ……」
「貴様本当に市民の味方なのか!? 不意打ちに台詞の途中でのぬおおっ!? こ、攻撃など!」
「違う、食べたいから来てる」
「あ、そうなのか……ってうおわあっ!? それでも誇りはもっとるだろうがァッ!」
「それ美味しいの?」
「何処かで聞いたようなセリフを吐くなぐほぉっ!?」



 流石に三戦目ともなりグラトニーの闘い方を覚えたか、喋りながらもちゃんと攻撃を避けている。それでも最後の一発は喰らった。
 何時の間に喰らいつかれたか、チキンギルディは体を欠けさせながら、必死にグラトニーへと叫ぶ。



「それよりも、おぉぉっっ!? お、お前の弱点を知っていると言っているのだ! 知りたくは無いのか!?」
「別に」
「アッサリ言うんじゃあな、危なぁああぁっ!?」
「それに、新技あるし」
「はぁはぁ……えっ?」



 恐らくチキンギルディが言っているのは、彼女の必殺技である“風砲暴(ふうほあかしま)”が範囲がすこぶる広い為、ギャラリーを巻き込まない措置を取らねばならない点であろうが……残念、それは彼女の技が『それ一つであった場合』の弱点であり、実際の弱点からは程遠い。


 彼女の発言が意外だったか動きを止めてしまったチキンギルディへ、グラトニーは隙を逃さず右手でアッパーカットを打ち込んで空中へ無理矢理浮かせる。


「ふん!」
「ぐ、おぉぉ、おっ……?」



 そして指と掌から現れた“指の様な”物を全て突き刺し、その腕を上に向け持ち上げた状態のまま、“風砲暴”の時と同じ吸気口が姿を現して獣の唸り声にも似た唸り声を上げて空気を吸い込み始める。

 その大気吸引が一瞬止まり、グラトニーが顔を伏せた……次の瞬間。



「コォォォ……!!」
「ぶ、ぐぶぅぅっ!?」



 ゴボン! とチキンギルディの体が少しばかり膨れ上がった。唐突な変化にギャラリーからも声があがるが、グラトニーはそれだけでは終わらせないと手に力を込め、そして―――――




「……握風科戸(あくふしなと)!」
「あぎょ――――」



 握り潰されたが如く中央が破裂し、残った四肢と頭部が勢いよく転がった。立ち上がるオーラを自慢の肺活量で吸い込んで、最後に属性玉(エレメーラオーブ)を飲み込み満足そうにげっぷをする。



「けぷっ……はぁぅ……」




 歓声を上げる者など誰一人も無い。

 当たり前だ……新しくヒーローが現れたかと思ったら、テイルブルー以上に容赦の欠片も無い、実に正義の味方らしくない戦い方をする、化け物にも近しい者だったのだから。


 グラトニーは満足そうに腹を摩ったかと思うと、取り込んだ空気を放出して飛びあがり、空中からある場所得狙いを定めた。



「このっ! 重力にはそんな使い方も……あり? いきなり影?」
「ふふふ、ブルマは伝統を重んじる由緒正しき……む? 影?」
「えっ…… あ!? ちょっ、まさか!?」



 それは未だ闘っているツインテイルズとトタスギルディのいる方向。

 グラトニーは飛びあがった際に受けた空気抵抗を利用し、吸気口からタメ無しで一気に空気を吸い込んで……忠告の一声もかけずに思いっきり足を振り上げた。



風刃松涛(ふうばしょうとう)!」
「何……がっ? じ、地面が―――ぁ」



 コンクリートにずれの無い綺麗な切り込みが一直線に走ったかと思うと、その線の上に居たトタスギルディが断末魔すら上げられず真っ二つになり呆気なく倒れた。


 重力の力を使い巧みに立ちまわっていた彼が、その奮戦すらも称えられずに。


 そこから上がったオーラもグラトニーは吸い込んで、チキンギルディよりも濃度が高かったか美味しそうに咀嚼し呑み込んだ。


 最後に残った属性玉をグラトニーが拾い上げる前に……即座にテイルブルーが拾って一旦距離を取る。



「ブルー、何をするつもりだ?」
「コレを使って交渉してみるわ。目的ぐらいは聞きださないと」



 ブルーの言葉を聞きレッドは頷いて……背筋に悪寒を感じて勢いよく振り向く。みると、グラトニーが恨めしそうに此方を見ているのが目に入った。

 彼女の眼付きはさながら、大好物を取られた子供の様な……いや、これはもはや食事目前で餌をとられた獣のそれに近い目だった。

 その眼は、テイルレッドに何時もの変態共(アルティメギル)に近寄られるような気持ち悪さから来る恐怖では無く、殺されるかもしれないという本能からの恐怖を叩きつけてくる。ブルーも平気では無いのか、眉をしかめていた。



「……取引で答えてもらうわよ。あなたが何者なのか、何を目的としてるのか」
「それ、食べるからちょうだい」
「欲しかったら答えなさいって言ってるのよ」
「……ホントにくれる?」
「答えてくれたらね」
「むぅ……うん、わかった」



 とことん『食』に忠実なのかグラトニーは大人しく頷き、自身の目的を素直に口にした。



「自分の目的、食べる事。生きる為に、食べる事、それだけ」
「本当は?」
「本当は食べる事」
「……目的が獣のそれね。まあ、下手な作戦よりはよほど説得力があるけど」



 先程の食欲を覚えていたか、ブルーは一先ずこの場ではその発言を信じる事にした。グラトニーの涎がポタポタから徐々にダラダラになり始めたのを見て、飛びかかって来ないうちにとテイルブルーは次の質問をする。



「次の質問よ、あんたは何者なの?」
「自分、グラトニー。それ以外何も無い」
「いやそうじゃなくて……私達と同じ人間? それともエレメリアン?」
「自分……自分は――――」



 そこで一旦涎を啜り、グラトニーは隠す様子も無く言い切った。



「エレメリアン、自分はエレメリアン」
「! ま、マジか……!?」
「マジ」
「なるほどね……そうじゃないかと薄々思ってはいたけれど」




 今の質問で悲鳴が上がるかとも思ったが、ギャラリーは未だ見続けているだけである。実はアルティメギルという単語の方が周知の事実で、エレメリアンという呼称は普及していないどころか知らない人が大多数なのだ。

 しかし、テイルレッド達にとっては予想していた事が事実であった為に、余計に警戒しなければいけなくなった。

 テイルレッドもテイルブルーもしかと柄を握りしめ、ブルーは最後の質問をぶつけた。



「ラストよ……アナタは人間の属性力を食べるの?」



 その質問で、ようやく目の前に居る少女・グラトニーがどんな存在かを理解したらしく、ギャラリーが段々と引け腰になっていく。だが、属性力という単語のお陰で緩和はされたようで、それが段々と何時もアルティメギルの奴等が狙ってくるツインテールがどうのこうのという件と関係あるのではないかと分かると、再び前に出てきた。


 しかし、テイルレッドも今はそんな所に興味は無く、テイルブルーが出した質問の答えが肯定か否定か分かる瞬間を、喉を鳴らし待っている。


 そしてグラトニーは……答えを口にした。



「強い人少ない、美味しくない。それに私、食べる理由無いから食べない」
「……その言葉に嘘偽りは無いわね?」
「嫌いなモノ、進んで食べる?」
「! ……へぇ、中々分かりやすい例えしてくれるじゃない」



 ブロッコリーが嫌いな人が、好きな物を食べられるバイキングでブロッコリーサラダを沢山取っていくかと言われれば、答えは当然『否』だろう。

 確かに分かり易い例えだ。



「それじゃ……はい、約束通りこれあげるわ」
「あ、あっあっ! あ~、ハクッ」
「投げた属性玉を口でキャッチした!?」
「なんか、犬に餌やってる気分になってきた……」



 中々に的を得ている意見だ。投げた物へ嬉しそうに飛びつくさまは、正にその通りと言えるだろう。

 しかし何故交渉の元とは言え、簡単に属性玉を投げ渡したのか? コレも簡単な話で、彼等にとってはかなり重要なモノかといわれると案外そうでもないからだ。

 大した属性力を持っていないのなら、生きる為の糧として本気で必要としている者に渡した方が良いだろう。

 至福の表情で飴玉を転がすように口の中で属性玉を転がし、やがて満足したか噛み砕いて呑み込む。


 そしてテイルレッドとテイルブルーの方を向くと、手を軽く掲げて小さく振った。



「バイバイ、じゃね」

「あ、ああ。バイバイ」
「え、えぇ……」



 満面の笑みで消えていく少女に、気が抜けたか二人は律儀に振り返してしまう。そしてブルーは思いだす……彼女がどんなエレメリアンなのか聞きだすのを忘れていた事を。



 こうして赤と青による紫への初対面は、何とも微妙な形で幕を下ろすのであった。








 ……余談だが、テイルレッドは何時もの様にギャラリーの老若男女問わず押しかけられて揉みくちゃにされ、とある立派な家の裏手の森の中ではとある少年がギターも無しにヘビメタの如く激しいヘッドバンギングをしていたという。


 
 

 
後書き
大丈夫か主人公よ……それじゃあモノホンの獣だよ……餌付けされてるし。 
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