山の人
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第二章
第二章
「うちの人って」
「ええ」
「エスパーじゃないかしら」
「エスパー!?」
「まさかとは思うけれど」
またこの言葉を出しはする。
「ひょっとしたら」
「それはないわよ」
友人はすぐに笑ってそれを否定した。
「エスパーだなんて」
「ないかしら」
「漫画じゃないんだから」
こう言ってまた否定するのだった。
「そんなことって」
「考え過ぎかしら」
「考え過ぎっていうか飛躍してるわよ」
まだ笑いながら亮子に対して話す。
「もう漫画の世界までね」
「考えてみればそうね」
「そうよ。あのね、現実よ」
友人は今度はこのことを強調してきた。
「現実。いいわね」
「ええ。それはわかってるわ」
「わかっていたらよ」
また亮子に対して話す。
「いい?エスパーとかそういうのは有り得ないわよ」
「そうよね」
友人の言葉に対してあらためて頷いた亮子だった。
「それはね」
「そうよ。普通の人よ」
今度はこう話すのだった。
「普通の人。けれどね」
「けれど?」
「感性が鋭いとかはあるのかもね」
友人は目を右斜め上にやったうえでこうも話した。
「やっぱりね。それはね」
「感性が鋭い?」
「旦那さんそういうところないかしら」
今度尋ねたのはこのことについてであった。
「どうかしら、そこは」
「そうね」
友人に言われてこのことを考えてみる亮子だった。考えてみるとやはり思い当たるふしはあるのだった。そこに先入観がないと言えば嘘になってしまうにしろだ。
「言われてみればね」
「あるのね」
「雨がわかるみたいなのよ」
まずはこのことを言うのだった。
「どうやらね」
「雨が?」
「そうなのよ。何かもうすぐ雨だって言えばね」
「雨になるのね」
「他に雪も」
それもであった。
「曇りとかもね。天気は大体わかるみたいね」
「ふうん。そうなの」
「他にもよ」
亮子はさらに語るのだった。考えてみれば思い当たるふしが次から次に出て来る。何ごとも考えだすと止まらないがこの時の亮子もそうであった。
「民間療法とかにも詳しいし」
「民間療法ね」
「野生の草とか茸とかあるじゃない」
「ええ」
話はさらに深いものになってきていた。
「そういうのもわかるみたいなのよ」
「それってかなり凄いと思うけれど」
友人は思わず言った。
「そこまでって」
「凄いのね」
「かなり凄いわ」
亮子に対してこうも返した。
「もうね。かなりね」
「そう思うのね」
「ええ。かなりね」
このことをまた言う友人だった。
「少なくとも私はそう思うわ」
「エスパーじゃないとして」
またこのことを話には出しはする。
「けれど。何なのかしら」
「自然に強いみたいね」
友人はふとこのことを指摘した。
「どうやら」
「そうね」
また言われて考えだす亮子だった。いささか流され易いというか乗り易いようである。
「どうやら。毛深いし」
「毛深いの」
「まずは髭よ」
夫婦だからこそわかる話だった。
「もうね。ちょっと剃らないとね」
「顔中髭だらけとか?」
「パバロッティみたいになるのよ」
ここで話に出したのは有名なテノール歌手であった。
「それこそね」
「パバロッティねえ」
友人も彼のことは知っていた。背快適に有名なテノールであったから当然と言えば当然である。あの髭だらけの顔は一目見れば忘れられないものがあるのだった。
「あんなふうになるのね」
「それで胸も腕も」
亮子はさらに踏み込んで話す。
「脚だってね」
「毛だらけなのね」
「髪の毛だってね」
話は全身に及んでいた。
「もうね。何処もかしこも」
「多いの」
「多くて硬いの」
硬くもあるのだった。
「凄い剛毛で。結構大変なのよ」
「ふうん。熊みたいな感じなのね」
「そういうこと。トランクスを突き破らんばかりで」
「うわ・・・・・・」
これには流石に絶句する友人だった。
「そこまでいくのね」
「いくのよ。もう凄いから」
「日本人離れしているわね」
友人は思わず言った。
「それって」
「それもあるし」
「おまけにその自然への強さね」
「何者かしら」
自分の亭主のことを腕を組んで言い出す亮子だった。
「本当に」
「熊とかみたいだけれど」
「熊ねえ」
「都会的ではないわね」
友人はこのことは感じ取っていた。
「はっきり言ってね」
「そうね。コーヒーは似合わないわね」
「私もそう思うわ」
ここでは意見が一致した。
「あの人にはね」
「自然ね」
亮子はここに注目した。
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