突如出現した謎のハンター・螺鬼。
二匹の神獣を粉々に消し去るという離れ技を披露し、ステータスも驚異の数値だった。
ゲームシステム上ありえない数値を表示しているステータスを見て、銀子たちはその凄さを再確認させられる。
【なんちゅう強さだ】
【まさかMより限界突破している者がいるとは(驚)】
【おかしい。なんで8桁もあんだ?】
【つまりマダオ以上のマダオってことネ。部屋中ティッシュだらけのショボイ男に決まってるアル】
カグーラの発言に螺鬼はムッとなって、ピシッとMを指差す。
【ちょっと~!螺鬼ちゃんをそこのマダオと一緒にしないでよ○×★ていうか螺鬼ちゃんはとびきりキューティな女の子なんだょ~♪】
自分の頬に指を当て、螺鬼は無垢な笑顔で宣言した。
だが銀子は疑いの目で見続ける。
【女だァ?嘘つけ。ネトゲーとリアルの性別はほぼ正反対なんだよ】
【嘘じゃないんらよ~☆螺鬼ちゃんは螺鬼ちゃんなんだょ♪わかった?糖分中毒ちゃん】
【誰が糖分中毒だ!ただの糖分依存症だ】
【はぅわわ~★もっと悪くなっちゃった~♪】
【つーか、オメェ何もんだ?なにやってんだ?】
銀子は追求の眼差しで螺鬼に詰め寄る。
だが螺鬼は待ってましたと言わんばかりに、くるりと回転して答えた。
【ハッカーやってます♪】
【【【【【へっ?】】】】】
表示されたメッセージウィンドウに全員の目が点になる。
何言ってんだ?と首を傾げる銀子たちに、螺鬼は歌うような口調でネタバレした。
【ハッキングは簡単にできちゃうよ~❤ちょいちょいとプログラム書き換えれ~ば~ステータスもこのとおり☆フッフ~♪】
ニコ~っと笑顔の口から語られるのは、犯行手口そのものだった。
【プログラムって何!?ハッキングって犯罪じゃねェか!】
【ハッカーだ。まさか本物のハッカーに会えるとは!(よし弟子にしてもらおう)】
【あんたは既に()の使い方間違ってんだよ。それ感情じゃなくて願望だろーが!!】
激しいボケツッコミが飛び交い、さっきまで沈黙に包まれていた周囲が急に騒がしくなる。
その様が楽しいのか、螺鬼の口ずさむリズムはどんどん上がっていく。
【モンキーが出てきても★プログラム消せばすぐ倒せちゃうんだよ~❤】
【データ消してるゥゥゥ!!さっきの倒したんじゃなくてモンキーデータ抹消したのかよォォ】
【ネットゲームの《プログラム(内容)》をリアルタイムで書き換えているとは尊敬に値する(憧)】
【犯罪者が犯罪者を尊敬すんなッ!】
“ゴッ”
【ぐはッ!(血)】
大剣で銀子に思いっきり頭を殴られ、フルーツポンチ侍Gは卒倒した。
ややこしい奴が黙ってから、ぱっつぁんは銀子に耳打ちする。
【僕たちとんでもない人に出会っちゃいましたね】
【ああ。魔女に出会っちまったよ】
溜息ついて銀子とぱっつぁんは螺鬼に目を向ける。
【♪私は~かわいい~モンキーハンター☆イェイ!
♪キュートで~カワァイイ~モンキーハンター螺鬼ちゃんですッ★イェイイェイ!】
『魔女』と評された幼女は大鎌を振り回しながら自作の歌に合わせて踊っていた。
見た目は無邪気な子供。
しかしよく考えればこのゲームのハンターは現実のリアルさを引き出すため八頭身キャラで構成されており、子供サイズのキャラパーツなどなかったはずだ。
ということは、この『螺鬼』の外見もプログラムを書き換えて作ったオリジナルなのか。
だがその容姿は服装を始め、このモンキーハンターの世界観とまるで合っていない。
銀子たちは冷めた視線を送るが、螺鬼は全く気づいていないらしく軽やかに踊っている。
【銀さん、これからどうします?】
【金儲けに決まってんだろ。性格アレだが螺鬼は最強だ】
【最強ってあの子完全に犯罪者だよ。仲間にしたら僕ら共犯者になっちゃいますよ】
【バカヤロー。そこを上手く出し抜くんだよ】
【嫌アル。あの喋り方聞いてるだけでイライラするヨ。自分から『可愛い』とかウザいネ。ハッカーって何アルカ?ゲームがブチ壊しアル。私があの子ブレイクしてくるヨ】
【神楽ちゃんやめなって!】
猛攻しようとするカグーラを止めようとするぱっつぁん。二人の小競り合いが始まろうとした時、ずっと黙っていたMが口を開いた。
【おい、周りが騒がしくなってきたぞ】
気づけば、いつの間にか周囲にはたくさんのハンターが集まっていた。
【すげー奴がいるらしいな】
【Mより凄いって!?】
【新伝説誕生??】
ハンターたちの注目を浴びて、少女の頬はさらに赤く染まった。
【うひょ!可愛い】
【萌えー!!】
幼女の照れ笑いに心打たれるのか。他のハンターたちから黄色い悲鳴がもれる。
【どうしてこんなに人が……】
【螺鬼ちゃんが呼んだの~★】
【あ?お前なに言ってんの?】
【どうやらランキング表を見たプレイヤーがここにワープされるようシステムに手を加えたようだ】
いつの間にか起き上がっていたフルーツポンチ侍Gがランキング表を眺めていた。
するとぱっつぁんたちの画面にも同じものが表示された。
【おい、『∞』ってなんだよ?無限ってことか?最強通り越してっぞ!!】
銀子は文句を飛ばすが、当の本人は笑顔を振る舞うだけ。
【Mは生活のほとんど費やして伝説になったのに、螺鬼さん一瞬でなったんですね】
【しょせんはデータ★時間をかけて伝説になる方がバカバカしいょ~】
【バカバカしいとは侵害だな】
そう螺鬼の前に立ちはだかるのは『伝説』と呼ばれた男――Mだった。
彼は澄んだ瞳で螺鬼を見据える。
【あんたがどんな手を使って最強になったのかは知らねぇ。だがそんな卑怯な手でチヤホヤされても嬉しくねェだろ】
どんなに努力したとしても、利益のある結果が出なければ意味がない。
勝利の喜びを知っているからこそ、誰もがそれを求めるのだ。
求めるあまり道を外れてしまう者もいる。だが例えそれで勝利を得たとしても、残るのは空しい気持ちだけ。
【リアルじゃ価値はないかもしれねぇが、ただ一つ言えんのはココに俺の『生きた証』が残ることだ】
【生きた証?】
【そうだ。ハンターは俺の生き甲斐。この伝説は俺が苦労して積み上げた結晶。データはその『証』だ。どうしたって誰にも崩せねェよ】
それがゲームであろうと、現実に反映することはないとしても、彼が一つの事をやり通したことに変わりはない。
そうして得たモノは伝説という形になる。偉大な功績は噂として広がり、このゲームで彼を知らないハンターはいないほどだ。
深々と語るMを螺鬼は上目遣いで見ていたが、次第に目線を落としていく。
Mは俯く幼女を見てフッと笑みをこぼした。
【わかってくれとは言わないさ。ただ、この証は永遠に残【なら教えあげるぅ♪この世界で積み上げた『証』がどれだけもろいかをさぁ!】
突拍子もない明るい声がMの演説をブチっと強制終了。
いきなりのテンションの切り替わりに誰もが戸惑い、彼女のリズムについていけない。
【お楽しみをはじめるよ♪】
大鎌を手に螺鬼はふわりと宙に舞い上がる。
そして笑みは黒く染まる。
彼女が高らかに宣言した直後、Mの――ゲームをプレイしていた長谷川のパソコン画面は砂嵐に乱れていく。
「え?え!?ちょ、何これ??」
事態の急変に追いつけず、パニック状態になる長谷川。
【★☆ブレイクターーイム☆★】
パソコンから聞こえる螺鬼の声。
そして画面一杯に映し出されるドス黒い微笑み。
【バイビ~♪】
直後、画面はモンキーハンターの大地に立つMを映し出した。
だが安堵したのもつかの間。Mが粉々の粒子となり消えたのだ。
「はっ?!Mが!俺が消えた??!」
慌ててモンキーハンターのスタートメニューを開く。
しかし、そこにMのセーブデータは一切なくなっていた。
文字通り『消えた』。
「オレのデータがァァ!オレの生き甲斐がァァァァァ!!!」
その悲鳴を最後に、長谷川は動かなくなった。
真っ白に燃え尽きた抜け殻のように。
=つづく=