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dark of exorcist ~穢れた聖職者~

作者:マチェテ
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第25話「キリシマの弟子」

―――【イギリス・バーミンガム 裏路地】



―――深夜 1:28


「あぁ、腰抜けた……何なのさ、全く………」

裏路地に座り込み、ぶつくさと文句と弱音を吐く一人の少年。
座り込む少年の手には、血に塗れた大型のナイフ。
少年の足元には、切り裂かれたゴブリンの死体が複数。

ゴブリン達の傷はかなり深く、一目見て即死と分かる。
一方で少年は、文句や弱音を吐く割には無傷で座り込んでいる。

「勘弁して下さいよ、アルバートさん……ボクがヘタレなの知ってるでしょ……それなのに長期の
出張任務を押しつけて………まぁ、仕事しますけどね……生きたいしお給料欲しいですし……」

ブツブツと文句を言いながら、ナイフの血を拭き取り、腰のケースに戻す。

「よいしょ………あれ? 立てない……ヤバい、本当に腰抜けた……キリシマさん助けて~……」



少年の名前は“フジムラ ハル”。
キリシマと同じ日本から来た悪魔狩りで、現在は“ルークス・ソーリエ”に所属している。
自他認めるヘタレだが、実力は確かなもので、他のメンバーに比べて長期の出張任務が多い。


「ようやく立てた……帰りますか、ボクの家に」



















―――【ヴァチカン“悪魔狩り本部 ルークス・ソーリエ”】


「皆に会うの久しぶりだ……緊張で胃が痛くなってきた……」

任務を終え、ヴァチカンに戻ってきたのはヘタレ悪魔狩り。


「えっと、ただいま………」

大聖堂のドアを開け、小さな声で呟く。
しかし、その呟き声は大聖堂内に大きく反響し、中にいた悪魔狩りの耳に届いた。

「ハルさん! お帰りなさい!」

「ハル、戻るの今日だったの? お帰り」

「……………………」

ハルの帰還を迎えたのは、クリス、アリシア、キリシマの3人だった。

「えっと………ただいま。他の皆は?」

「アイさんは任務の準備中です。僕もこれからアイさんと同行して任務に行く予定です。あとは全員
任務でヨーロッパ各国に散らばりました。……またしばらく静かになりますね」


「…………すみません。その……パトリックさんのお葬式に、来られなくて……」

「長期の任務なら、仕方ないわよ。……アイツだって、納得するはずよ」

「……………………そうだな。本当に謝るべきは………俺だ」

「キリシマさん、もう自分を責めるのはやめて下さい」


パトリックの葬儀から、もう2週間経つ。
それでも“ルークス・ソーリエ”のメンバー達の心の傷は、未だ癒えない。



「あ、ようやく帰ってきたね、ハル」

「え………うわ、アルバートさん………」

悪魔狩り達が悲しみを思い出した直後、大聖堂の奥からアルバートが姿を現した。
アルバートの顔を見た途端、ハルの表情は一気に沈んだ。

「なんだい、その顔は。ヘタレな君は上司のパワハラに耐えられないかい?」

「え、この長期任務は嫌がらせだったんですか?」

「ヘタレ克服のための“愛のムチ”ってやつさ」

「愛を全く感じない………」

上司の無茶な任務がパワハラだったと今さら気づくヘタレ悪魔狩り。
そのヘタレを克服させるためにパワハラという荒療治に出た上司。
2人の会話に、自然と場の空気が和やかになった。

「さて、戻って早々で悪いけど、また仕事が更新された」

「ちょっ………帰ってきてまだ10分………」

「今度はキリシマと一緒にロシアに向かってもらうよ」

「………」

諦めたような表情を浮かべると、クリスとアリシアが同情するような表情でハルを見ていた。

「えっと………頑張って下さい、ハルさん」

「今度はキリシマも一緒なんだから、楽勝よ」

2人なりの励ましは、ハルの心には全く響かなかった。
その理由はアルバートに無茶な仕事を任されたことだけではない。





「…………………………行くぞ、“弟子もどき”」

「ボクとうとう弟子ですらなくなったんですか、“先生(ししょう)”」















―――【ロシア・ウラジオストク】


「………………ここか、“グラーシャ・ラボラス”とやらがいた場所は」

「みたいですね………アリシアさんすごいなぁ……上位悪魔を相手に殴り合って………」

2人が訪れたのは、かつてアイリスとアリシアがグラーシャ・ラボラスと交戦した廃工場だ。
アルバートが2人に与えた仕事は「廃工場の再調査」。

実はアイリスとアリシアの帰還後、アルバートが単独で廃工場とその付近を調査した。
上位悪魔と交戦したという報告を聞き、少し気になったからだという。
廃工場付近にいた一般市民からこんな話を聞いた。
「廃工場からひっきりなしに爆発音が聞こえた。大きな爆発音の直後に壁の破片が飛んできた」

ひっきりなしに聞こえた爆発音というのは、アリシアとラボラスが暴れていた音で間違いないだろう。
しかし、その後の大きな爆発音は、アイリスとアリシアがその場を去った後の時間帯に聞こえたらしい。

アルバートはそれを「別の悪魔の出現」と考え、動ける人員の中で最強クラスの悪魔狩りを派遣した。
そして、その最強の弟子も一緒に。



フジムラ ハル。
日本出身の悪魔狩りで、キリシマ ソウヤのもとで3年間悪魔狩りとしての経験を積んできた。
臆病な性格を除けば、戦闘スキルはかなりのものだ。
“ルークス・ソーリエ”に来たのも、キリシマの推薦があったからだという。




「………はぁ……なんで別の悪魔が出ますかね……」

「………………………文句を言うな。………構えろ」

廃工場内にいる2人を囲むように出現したのは、多数のゴブリン。
別の悪魔の出現が疑われた場所に、多数の下位悪魔。

「………えっと、確定ですか?」

「……………………あぁ、そうだな。行くぞ」

キリシマが抜刀し、ハルもそれに合わせてナイフを取り出す。



「勘弁して下さいよ…………ボク、ヘタレなんですから」 
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