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【銀桜】3.モンハン篇

作者:Karen-agsoul
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第3話「時効寸前の犯人はご近所さんだったりする」



 『モンキーハンター』――通称・モンハン。
 プレイヤーはハンターとなり凶暴な《モンキー(怪物猿)》をハントして狩猟生活を楽しむゲーム。
 家庭用テレビゲーム機から始まり携帯用ゲーム機、そして今やオンラインゲームへと派生し銀河中で遊ばれている大人気ゲームである。
 オンライン版はあらゆる星の天人とパーティを組んでハントできる事が特徴の一つなのだが――
【……どうすんですか】
 万事屋一行はパーティも組めないままジャングルの奥地をさ迷っていた。ろくな装備もなしに歩き回るのは、殺してくれと言っているようなものである。
 本来なら集会場に戻って売店で装備を揃えるべきだ。しかし銀子とカグーラの暴挙のせいでできなくなってしまった。
【あんなことしたんじゃもう街に帰る事できないですよ。どうやって強い人とパーティ組むんですか。しかもこんなフィールド出ちゃっていつ襲われるか分かったもんじゃないですよ】
【バカだなぁ。かえってこっちの方が好都合じゃねぇか】
【あのですね。ゲーム管理者に追われるってことは、いっぺんゲームオーバーになったらもうアクセスできないんですよ。金儲けもクソもねーんだよ】
 オンライン版には多額の賞金をかけられているモンキーが存在する。そのモンキーをハントして得た賞金を現実に換金できるのがこのゲーム最大の魅力。
 そのシステムを利用して金儲けする為にゲームをプレイしているのに、状況は全く好ましくない。
 それ分かってんのか、という目でぱっつぁんは銀子に言う。
【わかってるつーの。だからよ、集会場にいる奴らなんたぁ初心者ばっかでなんの戦力にもならねぇ。だがフィールドに出ればベテランハンターがうろちょろしてる。そいつら仲間にすりゃ戦力強化な上、金儲けしやすくなる。一石二鳥ってもんじゃねぇか】
【さすが銀ちゃんアル】
【アンタらハンターの前にモンキーに出会ったら……】

“ブーブー”

 突然警報音が鳴り響く。それは集会場で鳴っていたものと全く同じだった。
【そこの三人組。ルールを犯した可能性があるので取り調べを受けなさい】
 嫌な予感が的中した。さっきの警備兵たちが自分達を追ってきたのだ。
 しかも集会場の時より大幅に人数が増えている。
【ゲッ!まだ追ってくる!!】
【ヤベ!逃げるぞ】
 銀子たちは大急ぎで走り出す。だがその時、大地を揺るがす轟音が鳴り響いた。
 全長数メートルはある巨大なモンキーが銀子たちの前に出てきて、雄叫びを上げた。

“ガアアアアア”

〈バンディットが現れた〉

【ゲゲッ!こんな時に】
 バンディットは鋭い歯を剥き出して、今にも襲いかかってきそうだった。
 ただでさえレベルもろくな装備もしていない。一度でも攻撃をくらったら即ゲームオーバーだ。
 しかしカグーラ=ジャスアントはバンディットの前へ立つ。
モンキーの凶暴さに怯まず、逆に迫力のある眼光で睨み上げ――
【すいませんアル。私たち無実の罪で追われてるネ。よかったら警備兵たちを足止めしてほしいヨ】
【違うだろォォォ!!敵!コレ敵ィィィィィ!!】
【しょうがねぇ。さっき剥ぎ取ったシビレバナナ!食らいやがれェェ!!】
 食べれば痺れてマヒ状態にさせるアイテム。捕獲の手段としてよく使われるが、逃亡手段でも役に立つ。足止め程度だが逃げる為の時間を稼ぐには十分だ。今は大量の警備兵を相手にするより、一匹のモンキーを片づけた方がはやい。
 バンディットめがけて銀子はシビレバナナを勢いよく投げつけた!
 それをカグーラ=ジャスアントが食べる!!
【ぐふっ……】
【なんでお前が食べてんだァァァ!!】
 銀子の《ツッコミ(絶叫)》が炸裂し、シビレバナナを口にしたカグーラの顔は見る見るうちに青ざめていく。
【ゲームの中でいいからお腹一杯になりたかったアル】
 聞けば涙をそそるような一言だが、同情している暇はない。
 たった一つの逃亡手段ですらなくなってしまったのだから。
【どうすんですかァァァ!後先考えずに進むからァァァァ!!】
 目の前にはモンキー。後ろは警備兵。
【もうダメだァァァァ】


【もぅ仕方ないな~★】


“ピッ”“ドオオン”

 爆発と轟音。
 光の球が直撃して生気を失ったバンディットは、ゆっくりと地に倒れた。

【あれは……】
 砲弾が放たれた場所――崖の上を見上げると、人影があった。大砲を抱えこちらを見下ろしているハンターがいたのだ。

「キタぁぁぁぁぁ!!ハンターキタァァァ!!」

 嬉しさのあまり叫ぶぱっつぁんだったが、警備兵たちのことを思い出して後ろを振り返る。
 だがそこには無人のジャングルが広がるだけだった。
【あれ?警備兵たちは?】
【さっき粉みたいになって消えたヨ】
 マヒ状態は解けたらしいが、カグーラの発言は意味不明だ。
 いつものボケなのか。どこをツッコめばいいかよく分からないので、とりあえずぱっつぁんは白い目で見る。
【神楽ちゃん、嘘言っちゃダメだよ】
【嘘じゃねぇヨ。それに私はピンチに陥ると第二の人格が覚醒し冷徹な戦士となるカグーラ=ジャスアントだ】
【なんだよ、その中二設定??】
 ツッコミを入れたところで、ぱっつぁんはハンターに目を向ける。
 今やるべきことは他のハンターとパーティを組むことだ。
 しかしこんな弱小チームと組んでくれるだろうか。さっきは助けられたと思ったが、単にモンキーをハントしたかっただけかもしれない。
 そもそも警備兵たちに追われるようなヤバイ奴らと組むハンターなど、普通に考えればまずいない。
 そう思っていたが、勧誘は意外にも向こうからやってきた。
【友達とはぐれてしまったもので独りじゃ寂しくて。よろしかったら一緒に狩りに行きません?(笑)】
【ああ是非よろしくお願いします】
 ぱっつぁんが気にしていたことを相手は口にしなかった。どうやらジャングルの木々に隠れて警備兵たちは見えなかったらしい。
【よかったぁ(安)。すいません()つけるのクセなんです。以前ネットで色々とモメまして。自分の 感情をわかりやすくしてるんです。あっ、自己紹介が遅れてしまいましたね】
 ガイコツの兜に強面の人相。見た目は怖い印象だが、いい人そうである。
 パソコン画面を眺める新八は人知れず安堵していた。
 ようやくまともなハンターに巡り合えたと。
【フルーツポンチ侍Gです。よろしく(桂)】
 メッセージウィンドウが表示された途端、三人はフルーツポンチ侍Gの正体がわかった。
 狂乱の貴公子・桂小太郎だと。



 ハンドルネームは《バーチャルリアリティー(仮想現実)》に入るための《キー(鍵)》であり、己の正体を隠すための仮面である。互いに本当の正体を知らないからこそ楽しめることができ、同時に正体不明ゆめの危険性も生まれる。
 だがこの男にとってそれは全くの無駄であった。いや、無駄にしたという方が正しいのかもしれない。
【即行で正体バラしたよこの人!!何やってんの】
【ヅラ、何してんだ】
【ヅラじゃない桂だ。ん!もしや、お前は銀時か。奇遇だな(ネットでも出会えるなんてやはり俺たちは運命の糸で繋がってるんだな)】
【その糸今すぐブチ切ってやる】

“ゴッ”

 銀子は容赦なく背中にかついでいた大剣でフルーツポンチ侍Gをブッ叩いた。
【あの、桂さん。ネットゲームで何してんですか?てか攘夷活動しろよダメテロリスト】
【攘夷活動も金がなければ成り立たんからな。資金稼ぎだ】
【たんに現実逃避してェだけだろーが】
【現実逃避じゃない攘夷活動だ。他の攘夷浪士と組んでいたがはぐれてしまってな。しかし心強い味方ができた。諸君、我々と一緒に日本の夜明けを……アレ?】
 真剣な表情であれこれと語り出すフルーツポンチ侍G。
 しかしもう三人の姿はなかった。銀子たちはさっさと先に進んでいた。
 せっかくの期待も台無しにされ、銀子とぱっつぁんの口から自然と溜息がもれる。
【ダメだ。あいつは切り捨てて他のを捜すぞ】
【僕らこれからどうなるんだろう……】
【とりあえず足ひっぱるなヨ(という憎まれ口を叩くがカグーラは絶対に困っている人を見捨てない)】
【だからやめろ中二設定!】

=つづく= 
 
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