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八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる

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第十二話 気さくなタイ人その二

「あとはな」
「ええ、そのままね」
「押し切られてだ」
「逆転しかねないわね」
「阪神だ」
 とにかくこれが留美さんの言う根拠だった、阪神であること自体が。
「いざという時はだ」
「打たれるからね」
「そして打たなくなる」
 本当にここ一番で打たない、ピッチャーは打たれ打線も打たなくなる。そうして正念場で負けていくのだ。
 これまで数え切れない位そうなった、そして今も。
「そうなるのか」
「折角四点取ったのに」
「普通は勝てるが」
「阪神だからね」
「頼む、黒きオーラなぞだ」
 留美さんはそれこそ祈る様な顔になってこうも言った。
「吹き飛ばし勝ってくれ」
「本当にここで打ってくれれば」
「いえ」
 だが、だった。ここで。
 小夜子さんがだ、切実な顔で言って来た。
「ここで打ってくれたら」
「あっ、小夜子さんは広島ファンだから」
「この場合はだな」
「皆さんには申し訳ありませんが」
 それでもとだ、小夜子さんは小さい声で僕達に答えた。
「この試合はです」
「広島に勝って欲しい」
「そう言うのだな」
「はい」
 まさにその通りだとだ、小夜子さんは僕達にこうも答えた。
「心から願います」
「そうよね、こっちが負けても」
「あちらが勝つ」
「スポーツはそういうものだから」
「小夜子殿にとってはいいことだな」
「勝たせてもらいます」
 小声のままだったがだ、小夜子さんの声は今は毅然としたものがあった。
「必ず」
「ううん、じゃあその時は」
 広島が打ったその時はとだ、詩織さんは息を飲んでから小夜子さんに答えた。
「お祝いさせてもらうわね」
「広島をですか」
「そして小夜子さんもね」
「私もですか」
「だって。お友達でしょ」
「だからですか」
「阪神ファンは巨人以外には怒らないのよ」
 このことはとにかく徹底している、阪神ファンは巨人は嫌いだ。しかし他のチームには極めて寛容なのだ。
 それでだ、広島にもなのだ。詩織さんが小夜子さんにそのことを言う。
「その時は広島の勝利をお祝いしましょう」
「それでは」
「勝って欲しいけれどね、阪神に」
 実に、という言葉だった。
「それでもその時はね」
「はい、私もです」
「阪神をお祝いしてくれるのね」
「阪神ならです」
 このチームならとだ、小夜子さんも言ってくれた。
「お祝い出来ます」
「じゃあ巨人なら」
「無理です」
 まさに即答だった。
「あのチームだけは」
「小夜子さんも巨人が嫌いなのね」
「阪神になら選手を獲得されてもいいですが」 
「兄貴や新井さんね」
「しかし巨人には」
 このチームだけには、というのだ。
「許せないものがあります」
「選手を獲られたら」
「はい、断じてです」
 やはり穏やかだがそれでいて強い口調での言葉だった。 
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