Fate/Fantasy lord [Knight of wrought iron]
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他が為に生きる者達
前書き
言い回しが優秀な小説とかあったら教えて、勉強するから
白狼天狗との別れを終えた後、直ぐさま下山して村へと一直線に足を運んだ。
これ以上面倒が拡大しない為の行動だったが、彼女の仕事熱心さを思えば無駄な気がしなくもないが、予防線は貼っておくに超したことはない。
本来なら脅してでも口止めをするべきだったのだろうが、強行手段に出て絶対に成功する保証はないし、失敗したリスクを考えれば可能な限り友好的に接した方が安全と判断し、今に至る訳だ。
まったく、余計な事をしてくれたものだ。誰の仕業か判明した暁には、相応の待遇でお返しをしなければいけないな。
因みに外套は直ぐに作り直した。一度作ってしまえば、構造は完全に把握できる為、再構築は容易である。
作り直したのだってこれで何回目やら。
戦いの中に身を置いていれば防具が破損なんて常だ。それをいちいち聖骸布の段階から自作なんてやってられる筈もなく、職人としてはなんとも味気ない複製品を量産するのが当たり前だった。
こだわりがある訳ではないが、投影による複製品ばかり作っていた反動か、たまに何でも良いから手製のものを作りたくなってしまうのだ。
今までは気の迷いだと一蹴してきたが、戦場に立つ毎日に比べたら圧倒的に平和な現状に身体を埋めていると、それも難しくなってくる。
心の余裕が出来たとも言うべきか。そういった娯楽にかまける暇ができた時には、抑えていた分を発散させたいところだ。
兎にも角にも、まずはその余裕を作る必要がある。
望まない面倒事に巻き込まれてしまった事で、かなり遠のきはしたが、それに関してはもう諦めるしかない。
無血開城の精神で敵対勢力と対峙している内に、芋蔓式に面倒が増えていきそうな気もするが、その時はその時だ。
戦うこと自体は吝かではないが、そうなると後からほぼ確実に個人と複数という構図が出来上がってしまう。
今の私は、幻想郷内での知り合いが皆無に等しい。更にはそんな数少ない中から頼れる存在はゼロという悲惨さ。
支援も後ろ盾も期待できない、四面楚歌な現状。まずはそこから脱する必要がある。
せめて幻想郷に造詣が深い人物と友好関係を築きたいところ。
そういった意味でも、あの村に向かうのは重要な問題となる。あれだけ広大な土地を有しているのであれば、一人ぐらい知識人がいても不思議ではない。
そんな打算を抱えながら、ようやく村へと到達する。
上から観察していた時点で分かっていたことだが、住人の数がとても多い。
土地の規模から想定しても、相当の人間がここに詰め込まれているのがわかる。
恐らくは、妖怪に対抗すべく人間が知恵を絞った結果なのだろう。少なくとも、同程度の規模の村は二つとないだろう。あればあの時に見つけているだろうしな。
村と定義付けてはいたが、外壁は丸太をふんだんに使用しており、普通ならば超えるのも困難な頑丈さを誇っている。
しかし、妖怪の強さの幅を理解出来ていない現状、もしかするとこの要塞まがいの外壁も大して意味を持たない可能性もあるため、安心はできない。
妖怪は白狼天狗としか出遭っていないし、戦闘能力、メンタル面を考慮しても彼女が上位の存在とはどうしても思えない。その考え自体が固定概念に繋がってしまうとしても、警戒はするに越したことはない。
なにはともあれ、まずは入ってみることにした。
一瞬通行人が此方に視線を向けるも、直ぐさま何事も無かったかのように各々の作業に戻っていく。
どこからどう見ても不審者な見た目をしている筈なのだが、幻想郷ではさして珍しくもないのだろうか。
………まぁ確かに、目玉のついた帽子だの、胸部に鏡がついた服だの、そういうのと比較すると私のそれはまだ普通と言える、のか?
気楽な観光を続けている内に、とある建物に意識が向く。
周囲の活気とはまた違った、賑やかな声が応酬する小屋。
それが子供の声だと理解すると同時に、人影が小屋の中から現れる。
「ん?見ない顔だな、ここに何か用か?」
第一印象は、凛々しい女性だった。
腰まで届くほどの白髪に、弁髪帽の派生系のような帽子が特徴的だったが、何よりも一番惹かれたのは、瞳だった。
濁りのない真摯な瞳と言えばいいのだろうか。しっかりとした強い意志を持ちながらも、決して勝ち気な訳ではなく、物事をしっかりと見極める慧眼を持ち合わせている。
事実、彼女は気さくに話しかけてはきているが、視線は私を舐め回すように観察している。
表面上は平静を装いつつも警戒は怠らない。こういう手合いは好感が持てる。
初対面の相手に対する対応としては正統だし、初見の印象ならば早苗よりも上かもしれない。
「いや、子供の愉しそうな声が聞こえたものだから、つい立ち止まってしまっただけだ」
「成る程な。ここは寺子屋だからな、子供達は授業を終えて遊んでいるのさ」
「寺子屋―――か。と言うことは、そこから出てきた君は関係者ということか?」
「そうだ。と言っても、私がこの寺子屋の責任者のような者なのだがな」
「責任者か、若いのに大したものだな」
肉体年齢だけ見ればまだ二十歳の中頃といった所だろう。
それでいて寺子屋の責任者―――校長のような階級に座しているとなると、相当な知識と常識を有しているに違いない。
「―――いや、責任者などと偉ぶってはみたが、実質寺子屋の関係者は私一人に過ぎない。だから自然に責任者になっているだけさ」
一瞬の間を置き、苦笑して答える。
「一人で運営しているのか。大変だろうに」
「確かに苦労は絶えないが、子供達の笑顔を見る度に―――ああ、やってて良かったと思えるから、割合としてはチャラだよ」
そう答える女性の表情は、どこか晴れ晴れとしている。
心の底からそう思えているからこその表情。自分のしてきたことが報われているからこそ、笑顔でいられる。
その在り方が、酷く羨ましい。
「辛いとか、投げ出したいと思ったことは?」
「それはない、が―――教師として生きるということは、終わりのない迷路を歩くようなものだ。何度も迷い、同じミスをして自己嫌悪して、やっとのことで一歩先へ進めたかと思えば、それでも自分が理想とする教師像に近づくことは出来ないまま―――そんな毎日を送っていると、時たま思うことがあるんだ。〝果たして自分のしてきたことに意味はあるのだろうか〟と」
女性は自嘲するように肩をすくめる。
「例え自覚しているつもりでも、求めている答えにたどり着けないもどかしさは、自然と悔しさや憤りへと変換されていく。ヒトの業であることは周知しているつもりだが、理解していれば対策できるという代物でもなし、本当に嫌になる」
―――似ていると思った。
彼女の抱えている負の感情は、かつて私が経験したそれと同じ根底から生まれたもの。
果てのない理想を描こうと必死にもがき、いつしか自分の行動に疑問を持つようになる。
見いだす答えは違えど、彼女の闇は間違いなく私と同じ人種だ。
唯一違うところがあるとすれば―――彼女はまだ、壊れてはいないということ。
だが、それもいつまで持つか。
教師としての面子もあるのか、悩みを誰かに打ち明けられずに段々と負担となっていったのだろう。そうでなければ、こんな赤の他人に自分の恥と呼べるべき部分を語る筈がない。
「………すまない。初対面の相手に愚痴る真似をしてしまった。普段はこんなことないのだがな、お前を―――いや、貴方を見ていると何故か自然と口が動いてしまったんだ」
彼女も無意識の内に私に―――いや、私の抱える闇に惹かれていたのかもしれない。
だから今まで抱えてきた悩みを打ち明けてしまった。どちらの事情も知っている身としては、そうとしか思えない程の偶然だ。
「いや、構わない。それと………あまり気負いすぎるな。口が悪くなってしまうが、誰も君に君自身が考える以上の期待はしていない。独りよがりな理想を持つのは勝手だが、子供達は等身大の君に惹かれているからこそ、結果として慕われているのだ。理想を目指すなとは言わない、だがペース配分を無視してまで成すことではないさ。生真面目さが仇となり、生徒に心配はかけさせたくないだろう?ましてや君ぐらいしか教鞭を振るう者がいないのならば、尚更だ」
そう、誰も自分に期待などしていない。
結果が出れば御の字。そうでなければ無関心あるいは罵倒。社会の周り方なんて得てしてそんなもの。
だが、彼女はまだ良い方だ。何せ相手が子供だからな、大人ばかりの上下関係よりもよっぽど気楽だ。
………だが、彼女は生真面目過ぎた。だから教師が一人しかいない現状から、自分がやらなければという強迫観念が生まれてしまった。
いつの時代も、真面目な者が損をする。逆に言えば、真面目であればあるほど世渡りが下手と見なされる。
不真面目な者はより楽な方へと自身を傾ける努力をする。結果は二の次、ある程度の功績や名声さえあれば満足をする人種だ。
そして、私と彼女はその対極に位置する。結果を求めるが故に、自身の潜在能力を度外視することも辞さない。自分自身は二の次、結果の為ならば、極論として身体が壊れても構わないとさえ思えてしまうような、そんな哀しい人種。
人によっては、優秀過ぎたが故に結果を出し続けないと存在意義を見出せなくなった者や、私のように過去の経験からの罪悪感から、という者もいる筈。
結果を出し続けることによって、周囲が期待していると錯覚する―――それが事実である場合も少なくはないが―――。それにより行動に拍車が掛かる。
そして、そんな彼らを漁夫の利によって食い物にしようとするのが、不真面目な人種だ。
そんな輩が大半だから、自然と真面目に生きる人間は減ってしまった。正直、天然記念物と言ってもいいだろう。
真面目に生きる者が報われないなんてことは、あってはいけない。
そしてなによりも―――同じ苦しみを持つ存在を、放ってはおけない。
だからこそ、私はお節介にも彼女を救いたいと、そう思ってしまった。
「期待されていない、か。その発言の全てを鵜呑みには出来ないが、貴方の言う通り子供達は今の私を慕ってくれているならば、無理をしてでも高みを目指す必要はないのかもしれない。それを気付かせてくれただけでも、貴方には感謝してもし足りない」
「役に立てたのならば幸いだが、別段特別なことを話したつもりはない。第三者の意見を
もっと参考にしていれば、私との対話も当たり障りの無いものだと理解できた筈なのだ。………たった独りの教師という重圧が、他人の評価を訊くのを拒んでいたのかもしれないが、これからはもっと他人に頼ってみてはどうかね?」
「頼る、か。どうやら誰かに頼られるあまり、自分が頼る側に傾くという考え方そのものを失念していたらしい。―――はは、導く者が導かれる者の目線に立つ姿勢を忘れるとは、なんとも馬鹿げた話だよ」
「間違いを犯さない完璧超人なぞ存在しない。間違いを素直に受容するその姿勢こそ、君が子供達に伝えてやるべき正しい人間の在り方だ。自分のミスを糧に、子供達を導けると考えれば、良い勉強になったとは思わんかね?」
「―――そうだな」
すっきりとした面持ちを見て、思わず私も笑みをこぼす。
これなら私と同じ過ちを犯すことはないだろう。それを理解したと同時に、私の中に残っている後悔の欠片が少しだけ取り除かれた気がした。
「それにしても、これだけ話し込んでいたにも関わらず互いに名前も知らないとは、なんだか笑えるな」
「それだけ波長が合ったということなのだろう。生理的に受け付けられない相手がいるように、その真逆も決して有り得ない話ではない。―――と言うことで、私はエミヤシロウという者だ」
「私は上白沢慧音だ。―――ところで何か悩みや困っていることはないか?先程の礼も兼ねて、協力は惜しまないつもりだ」
「いや、私は―――そうだな、ではお言葉に甘えさせてもらおう」
一瞬衛宮士郎の性が出そうになったが、なんとかこらえて話を切り出す。
私が外来人だということ、来て間もない為幻想郷の知識が皆無だということ、今は居候の身だが、いつかはきちんとした居を構えたいと思っていること。
ひとしきり話し終えた後、慧音は一考して答えた。
「それなら私にも力になれそうだが―――一部は私よりも適任がいる内容もある。手続き諸々で時間を食いたくないならば、私でも一応全て賄えるが、どうする?」
「時間が掛かるというのならば、遠慮しておこう。掛かる時間の程度にもよるが、無知でいる時間が惜しい。ああ、教えてくれるといってもさわり程度だけで頼む。どんな種族がいるのかとか、それだけでいい」
「いいのか?それでは殆ど教えていないようなものだぞ」
「出来るだけ人格が固定されそうな情報は控えたいんだ。………外では妖怪とは人間に害を為す存在という認識が絶対だった。仮にここでもその事実が正当だったとしても、それをその種族だから、という理由で否定したくはないんだ。せめてこの目で事実を確認し、そこで判断したいんだ。他人の風評に踊らされ、不必要に敵対する事だけは避けたいのだよ」
後ろ盾がない状況で、むやみやたらと敵を作る真似はしたくない。
意識とは既存のイメージに引っ張られる傾向が強い。
例えば、剣は切断する武器というイメージが常に先行する。そうであるように造られたのだ、それは当然の事実といえる。
しかし、レイピアのように刺突に特化した剣も存在するように、その法則は絶対ではない。
だが、あくまで剣は切る武器として生まれた以上、イメージの優先度としては下位に位置する。
少なくとも、初めて識った剣という概念の印象が、切る以外の扱われ方をしていたと言う者は稀だろう。
対人関係にしてもそうだ。
集団意識によって構成された印象は、正しいからこそ滲透していく。だが、それも絶対とはいえない。
初期段階はともかく、時が経つに連れ、大多数がそう認識しているから、という理由で意見が増大していく可能性は決して少なくはない。
自意識というものが欠落した社会の在り方に倣ってしまえば、誰かと分かり合うことは不可能になってしまう。
妖怪が先天的に人を襲う存在だとしても、それが妖怪という種族に当て嵌まる個人の思想に反映されるかは別。
生物である以上、喜怒哀楽は勿論、好き嫌いだってある筈。それらを一切無視して、一方的に悪と認識するのは、それこそ本当の悪行だ。
―――なんて格好付けてはいるが、そんな考え方をしないと弱者を救うなんて行為を続けることが出来なかったらから、自然とそう考えるようになったに過ぎない。
私自身の行動にも問題があったのは認めるが、それを差し引いても人間は善に該当するとは言い難い。
自己防衛の本能が働いているとはいえ、目的達成の為なら同じ釜の飯を食った間柄ですら平気で切り捨てる。
危機的状況に陥った時、人間はより本能に従順になる。そこには知的生命体は存在せず、在るのはただ生存を望む獣のみ。
そんな人間を対象として接してきたのだ、最早定番とも言えてしまう程の扱われ方をしたこともザラだ。
………だからこそ、心を護る為にもそのような考え方をする必要があった。
そうでなければ、壊れてしまうから。人間に絶望し、価値を見いだせなくなってしまうから。
「―――どうした?うかない顔をしているが。言いにくいことでも遠慮無く言ってくれればいい」
「いや、なんでもない。それよりも教えてくれるというのなら、是非直ぐにでもお願いしたいのだが」
心配そうに表情を伺う慧音。
相手側に弱みを見せないという意味で鍛えていたポーカーフェイスだったのだが、まだまだという事か。
それとも、単に気が緩んでいただけか。そうなる心当たりは充分あるが、口には出さない。
「そうだな、なら折角だし私の家に来ないか?立ち話で済ませられるほど短い話にはならないからな」
「ふむ、ならばお邪魔させてもらおうか」
慧音の誘いを受け、私達は慧音が住む家へと歩を進めた。
後書き
今回の変化~ という名義だけど、最早無意味だよね。といいつつ継続。
刹那の至福の時→他が為に生きる者達
色々出逢いをカットしてはいますが、タイミング的にはここらへん。
因みに次回は、説明を記述するか概要にするかで展開速度が変化します。どっちがいいかという意見がある人は感想にて。
寺子屋の子供達と遊んでいない→まぁどうでもいい部分だけど、変化なので。
慧音がシロウがどこから来たのかを知らない→正確には、前回は妖怪の山から来たと描写しているが、代わりに外来人だという事実を知らされました。というか、今回は彼が外来人であるという事実を全面に出しています。そのせいで所謂外の世界の強者の基準として見られていく予定です。
シロウと慧音先生の対話がまたしても強引に感じる人もいるかもしれませんが、今回はきちんと理由付けされているので、納得してプリーズ。
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