クルスニク・オーケストラ
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楽譜 Forth×Force
2譜 変身中の真実!?
もはや習慣になった、ジゼル宅での飲み会。
今日は着替えてくる時間があったから、目立たない私服を選んで着て来たんだが。
「いつ見ても違和感あるな。お前の私服」
リドウのプライベートの格好は「エージェント・リドウ」のイメージの真逆を行ってる。地味な色のカットソーにスラックス。適当に一括りにした髪。
曰く、家でまでファッションに凝るのがめんどい。
それ、言い換えたら、この場もプライベートくらいリラックスしてるって意味になるぞ。何だその開き直ったデレ。
「俺はいつ見てもしっくり来るけどな。メガネしてないお前」
「ぐ」
確かに俺もほぼこいつと同じ動機で、この飲み会ではメガネOFFにしてる。どうせ荒れてた頃は知られてるんだというヤケもある(ちなみにルドガーの前でメガネかけてるからってリラックスしてないわけじゃないぞ)。ツナと偽ってルルのネコ缶食わせてやろうかこのヤブ医者。
キッチンからジゼルが戻って来た。ミトンを嵌めた両手には、焼き立てのミートパイ。
今日はジゼルが準備したいと言ったから任せた。
すでに、春巻きスティックやらサラダやら、床に並べるのがもったいないくらいの料理が勢揃いしてる。
「あらあら。殿方同士、お話を弾ませてらっしゃいますのね」
「「弾んでない!」」
うわ、最悪だ。リドウとハモった。リドウもリドウで今のはダメージだったらしい。「うへえ」とでも言い出しそうな顔してるぞ。こら、ジゼル、笑うな。
インターホンが鳴った。ジゼルが料理を置いて、応対に出た。
「ええ、今開けます。――ヴェル到着です。始めてくださってよろしいですよ」
言い残し、ジゼルは笑顔で玄関に出て行った。
そしてすぐ戻ってくる足音は、二つ分。
「遅れてすみません!」
秘書の制服姿のままでいるとこを見るに、会社から直接ここに来たんだろう。
「気にするな。あの社長の下じゃ仕事量も半端ないだろ」
「むしろ過労で倒れずここに来られるくらいには慣れたってことだし」
ジゼルとヴェルが座って、4人の輪が出来上がる。
「わ、すごい。これ全部ジゼルが作ったの? 料理、できないんじゃなかったの?」
「ええと……」
「最近取り込んだ《レコードホルダー》が、料理ができる奴だったんだとさ」
「リドウ先生ッ!」
なるほど。だからか。いつもなら安物のツマミを買ってくるのに、急に「手料理でお迎えしたいんです」なんて言い出したのは。
そしてジゼルは、それが他人でなく自分自身の欲求だと思ってたんだろうな。
「もうっ。よろしいじゃありませんか、たまには。さあさ、召し上がれ」
ジゼルはケーキナイフでミートパイを切り分けて皿に盛ると、俺たちに順番に手渡していった。
せっかくここまでしてもらったんだ。まずは一口。
美味い――んだが、何だろう、どこかで食べたことあるような味……
「そういえば今気づいたんですが。ユリウスさんもリドウさんも今日は私服なんですね」
「ああ。今日は集合までに間があったから」
そういえばヴェルの私服姿は初めて飲み会に来た日以来、見てないな。
「私服でも骸殻に変身できるんですか?」
「おいおい。できないわけないだろ。骸殻は時計さえあればいつでもどこでも起動可能。やりたくないけど」
リドウの奴、さっきから結構、食が進んでるな。ジゼルの手料理は気に入ったらしい。
かく言う俺も、今日は酒よりこっちの料理のほうが進んでるが。
「やりたくない、ですか」
これに苦笑して答えたのはジゼルだった。
「実は骸殻って、マナを鎧の形として装着しているだけですから、その……感覚的には実質『着てない』に等しいんですのよね。ですから、《呪い》を差し引いても、あまり使いたくないんですけれど……」
あー、あったなそういえば、そんなの。外からはきっちり覆われてるように見えるんだが、変身中はこっちもあちこち気になるというか。気にせずにいられるようになるまで何ヶ月もかかったなぁ。
「じゃあ社長も、骸殻使用時はそのぅ……裸、なんですか?」
「…………」
「…………」
「…………」
『アハハハハハハハハハハッッ!!!!』
そ、想像だけで腹がよじれる…ッ! 裸! あのビズリーが裸!
「ちょ、やめてよね、何その凶悪な想像!」
「え? え? わ、私、何か変なこと言いました?」
「言われてみれば、そのっ、っく、通りなのですが、ふふ、ふくくくっ」
俺たち3人は笑いが止まらず、ヴェルだけが困ったようにおろおろしてた。
後書き
ヴェルはこの時点でビズリーが骸殻能力者だと知っています。教えたのはユリウスかな?
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