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第五章
第五章
「それならよ」
「ああ、そうしようぜ」
「命知らずもいいけれどな」
それを伊達にして走っているというのが街道レーサーだからだ。しかしそれでも極端な無茶は幾らその彼等でも流石にしないのだった。
「ある程度は慎重にいこうぜ」
「そういうことでな」
「わかったぜ。それじゃあな」
まだ憮然としていたがそれでも彼等の言葉に頷いた。そうしてそのうえで今自分のバイクに乗る。そうしてそのうえで最後の走りに出た。暫くは天気も何もなく順調だった。
ところがだった。急に雨が降ってきてそれは土砂降りになった。ヘルメットの視界は最早碌に前さえ見えない程にまでなってしまった。
「くっ、まずいな」
彼もこの事態には戸惑った。
「このままじゃ本当に」
止まろうかと思った。急ブレーキはあまりにも危険なので少しずつスピードを落としていく。幸いこの道は何度も走っているので道はわかっていた。それで僅かに残っている視界からも見ながらそのうえでスピードを落としていく。しかしここで、であった。
タイヤがスリップした。その雨にとられてしまったのだった。
バランスを取り戻すことはできなかった。そのまま派手に転倒しバイクから放り出されてしまった。この時彼は何もかもが終わったと思った。
「まずい、優子・・・・・・」
その時に優子の優しい笑顔が瞼に浮かんだ。そのまま彼女との思い出が映し出されようとしていた。
その日の夜だった。家にいた優子に電話がかかってきた。それは。
「えっ、走輔が!?」
電話で話を聞いた瞬間顔が蒼白になった。速水の言葉を思い出さずにはいられなかった。そうしてそのうえですぐに病院に向かったのだった。
病院にいたのは走輔だった。彼は幸いにして無事だった。頭に包帯を巻いているがそれでもだった。彼は特に目立った怪我もなくベッドにいた。
「よお、優子」
「走輔、大丈夫だったの」
「いやな、洒落にならない状況だったけれどな」
笑いながら優子に話してきたのだった。
「転倒してな。岩に真正面からぶつかってな」
「岩になの」
「その後で弾き返されてガードレールにも当たったしな。もう少しで死ぬところだったよ」
「よくそれで無事だったわね」
優子は少し話を聞いてそう思うのだった。
「岩にぶつかってそこからガードレールにはじき返されたっていうのに」
「頭はぶつけたぜ」
今度はその頭の包帯を指差してみせる。確かにそこには包帯がある。
「ちゃんとな」
「ちゃんとって言うの?それって」
「まあそう言ってくれよ。とにかくな、傷ってこれだけだったんだよ」
脳天気なまでに明るい笑顔だった。
「凄いだろ。普通死ぬような状況だったけれどな」
「けれど無事だったのは」
「ああ、これのおかげだな」
笑いながら今度は右手を見せてきた。そこにあるのはあのブレスレットだ。優子が走輔にあげた虹色のそのブレスレットを見せてきたのである。
「御前がくれたこのな。ブレスレットが守ってくれたんだろうな」
「そう。それじゃあやっぱり」
「実は信じてなかったんだよ」
能天気な笑みに少し苦いものが入った。
「けれどな。こうやって助けてもらったからな」
「信じてくれるのね」
「信じるさ。助かったからな」
だからだというのだ。やはり実際にそうなったということはかなり大きかった。
「有り難うな、優子」
「ええ。よかったわ、本当に」
二人は笑顔で話していた。走輔は無事だった、そしてそれを病室で喜び合っていたのだ。
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