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ロックマンX~5つの希望~

作者:setuna
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第五十三話 信念

ルインがブースター・フォレストに出撃すると、一気に駆け抜ける。
翡翠色の瞳は、獲物を狩る獣の如く鋭い。
遠距離の敵にはチャージショットで粉砕し、接近して来る敵にはセイバーで両断。
途中のライドアーマーがひしめく通路では、ルインは跳躍と壁蹴りを繰り返して搭乗者を倒し、稼動させる隙を与えない。
棘ひしめく道を飛び越えて、爆弾が積まれたコンテナを崩す。
エレベーターに乗り込むと、後はもうボスの下だ。
ゆっくりと上昇していく空間の中、ルインは深呼吸をする。
金属の壁で囲まれた空間が急に開けた。
エレベーターは屋外に繋がっていた。
バイオロイドの巨木が、枝を茂らせ、深緑の葉を広げている。
科学力を結集させてヤコブ関連の施設の中で、唯一、生命の営みを感じさせる場所であった。
バンブー・パンデモニウムはルインの気配を察すると、無表情のままこちらを振り返る。

パンデモニウム「君みたいな女の子がここまで来れるなんて、正直思っていなかったよ。流石はイレギュラーハンターの英雄かな…」

ルイン「……」

パンデモニウムの言葉にルインは無言で彼を睨むだけ。
返事を期待していなかったのか、あまり気にせず次の言葉を紡ぐ。

パンデモニウム「君は知っているかい?ロケットの元となったのは戦争に使われるミサイルだったんだよ。けどそうやって人類はそういった兵器を生み出して来たんだ」

ルイン「君のようなイレギュラーもね」

ハッキリと言い放つ。
鋭い眼光を目の前のイレギュラーにぶつけながら。
言われた本人は気にしていないのか、無表情のまま口を開く。

パンデモニウム「そうだね…でもそうやって人類は戦争の兵器を生み出し続けた。この世界は滅びたがっている」

ルイン「……ふふ」

パンデモニウムが言い終わるのと同時に笑みを漏らす。
見るものを戦慄させる凄絶な笑みを。

パンデモニウム「何がおかしいんだい?」

ルイン「別に。私1人で出撃してよかったって思っただけ。こんな私、エックスに見せたくないから」

パンデモニウム「エックス…旧き世界の英雄だね」

ルイン「私達レプリロイドは考えることが出来る。人間と同じように悩んだり、喜んだり、悲しんだり、人を愛することも出来る。あなたはただ考えることを放棄してるだけじゃないの?世界が自分の思う通りにならないから」

パンデモニウム「………」

彼女の言葉にパンデモニウムは何も答えない。

ルイン「確かに人とは違う考えを持って争うことだってあるよ。でも!!誰かを滅ぼしていいって考えだけは絶対に間違ってる!!あなた達の主張のせいでどれだけの人が無意味な犠牲に苦しめられたか分かっているの!!?」

パンデモニウム「それで君達は僕達を殺すんだね」

ルインはパンデモニウムの言葉に思わず息を飲んだ。
“正義”を司る者として、尤も向き合うことが苦しい矛盾であった。

パンデモニウム「それって、君達も僕達も同じじゃないのかい?」

どれだけのハンターがその矛盾に苦しんだのだろう。
エックスやゼロも自分もそうだった。
目を伏せた彼女に悟ったような声が耳に響く。

パンデモニウム「分かってる。それがこの世界の欺瞞なんだよ。だからこそこの世界は滅びなきゃならないんだ」

背中の砲から爆弾が発射された。
爆弾は一定時間後、頭上に降り注ぎ、爆発した。
爆炎が長い間滞空する。
容易ならぬ相手だとルインは悟る。

パンデモニウム「白黒つけるよ!!」

覚悟の台詞を放ち、ルインに腕を伸ばす。
捕まったら絞め殺されるのは確実だ。
ダッシュで距離を取り、チャージショットを喰らわせる。

パンデモニウム「ぐうっ…」

ルイン「まだまだ!!」

通常弾を連射し、少しずつダメージを与えていく。

パンデモニウム「まだ、終わらないよ…」

バンブースピア。
竹林が敵を覆い隠す。
頑丈な竹はチャージショットでも破壊出来ない。
ならば…。

ルイン「メルトクリーパー!!」

破壊出来ないなら、燃やしてしまえばいい。
炎により、竹が凄い勢いで燃えていく。

ルイン「あなたも炎が弱点じゃない?」

見れば、パンデモニウムが炎に包まれている。
巨体が燃え盛る様は、予想以上に圧巻だった。

パンデモニウム「そうだね…。炎は苦手なんだ」

苦笑したらしいが、炎を纏っての笑みは壮絶以外の何物でもなく、低い声が不気味さを引き立たせた。

パンデモニウム「決着をつけよう…」

突如、パンデモニウムが光を放った。
葉断突。
パンデモニウムの渾身の力を込めた一撃である。
衝撃波が渦を巻いて爪を包んでいる。
光が舞う瞬間、突風が吹いた。

ルイン「くっ…!!」

葉断突の波動に巻き込まれぬように射程範囲外に逃げようとする。
しかし輝く爪がルインの視界を席巻する。
凄まじい轟音が響き渡る。
光が収まると、そこにはルインの姿がない。

パンデモニウム「これで…」

ルイン「終わらない!!」

パンデモニウム「!!?」

真上から聞こえてきた声に反応し、上を見上げると燃え盛るセイバーを下に突き出しながら落下しているルイン。

ルイン「焔降刃!!」

燃え盛るセイバーがパンデモニウムに致命傷を与える。
炎がパンデモニウムの内部機関さえも破壊して。

パンデモニウム「…僕の負けか……」

数秒後、パンデモニウムが音を立てて崩れ落ちた。

ルイン「油断大敵だったね」

ゆっくりとパンデモニウムに歩み寄る。
敵はとても穏やかな表情を浮かべていた。
潔い態度だとルインは思う。
パンデモニウムは微笑んでいる。

パンデモニウム「世界は君達を選んだ。君達が正しかったんだ。」

ルイン「違うと思うよ」

パンデモニウムの言葉をルインは間髪入れずに否定した。

ルイン「たった1度の戦いだけで、自分の正義を証明するなんて出来ない。あなたが指摘した欺瞞も、多分その通りなんだと思う。」

彼女の言葉にパンデモニウムは驚いていたが、ルインは構わずに言葉を紡いだ。

ルイン「私達も迷いながら戦っている。時に間違えたり、道を踏み外してしまうかもしれない。でも、過ちから学ぶことだって出来るの。迷い…学びながら、少しずつ、前に進む。互いに助け合いながらね。それが私達が造られた理由」

パンデモニウム「…………」

命の灯火が消えていく。
反乱を起こした最後のイレギュラーは、ルインの言葉を胸に刻みながら果てた。
死顔は至極穏やかだった。
傷の痛みも、戦いの苦しみも、全て解き放たれたような表情であった。
ルインはパンデモニウムのDNAデータを回収すると、ハンターベースへ帰還するのであった。 
 

 
後書き
8ボス撃破 
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