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愛欲

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第三章

「だから右手がな」
「じゃあ暫くは我慢かよ」
「御前の近所にそういう人は」
「あるかよ、そんな夢みたいな話」
「そうだろ、いないからな」
「だろうな、じゃあな」
 右手しかないというのだ、それでだった。
 聡はただひたすら思うだけだった、そうして我慢出来ないでいた。
 しかしだ、それでもだった。
 何もかもが出来ずにだ、難しい顔をしてだった。
 彼はひたすらそう思っていた、どうしてもと。
 そうした日々を過ごしてだ、その中で。
 彼は煩悩に満ちた中でだ、また御門に言うのだった。
「何時かはな」
「やれるかっていうんだな」
「ああ、そうなれるのかね俺も」
「そのうちなれるんじゃないのか?」
 御門の返事は今回はこうしたものだった。
「結婚してな」
「大人になったらか」
「ああ、普通にな」
「結婚したら出来るんだよな」
「誰だってな」
 相手がいるからだ。
「出来るだろ」
「そうか、じゃあな」
「ただな」
「結婚しないと、だよな」
「だからやりたいならな」
 それこそというのだ。
「結婚しないと駄目だろ」
「せめて彼女いないとか」
「やれないぜ」
 こう聡に言うのだった。
「御前がしたくて仕方ないことがな」
「そうだよな、けれどな」
「今はな」
「男しかいないからな」
「それじゃあどうしようもないな」
「我慢するしかないか」
「間違っても近所の女の子に悪戯するなよ」
 御門は冗談を交えてこんなことも言った。
「そういうことはな」
「馬鹿、そんなことしたら駄目だろ」
「駄目だから言ってるんだよ」
 御門の今の言葉は素っ気ないものだった。
「友達としてそれは忠告しておくからな」
「そうか、しかし俺はな」
「そういうことはしないよな」
「そんなことする位なら抜くぜ」
 何を抜くかも言わない。
「というか紳士でないとな」
「いつもやりたいやりたいって言う紳士がいるかよ」
「レディーには紳士なんだよ」
 こうした屁理屈にも似たやり取りもした二人だった、とにかく聡は異性に興味がありそれで常に憧れを胸に抱いていた。それが彼の中学時代だった。
 高校時代もそれは同じだった、そして彼女が出来て。
 ある日御門にだ、満面の笑顔しかも脂の抜けきったそれでこう言うのだった。
「遂にだぜ」
「そうか、よかったな」
「とはいっても相手はな」
「あの娘じゃないのか」
「俺バイトしてるだろ」
 小声での言葉だった。
「金がある、わかるよな」
「そこから先の言葉はか」
「ああ、わかるよな」
「御前十八になってるからな」
 御門はまだ先だ、生まれた日は聡の方が先なのだ。
「だからだな」
「ああ、行って来たぜ」
「それは何よりだな」
「あの娘には内緒だぜ」 
 こっそりとだ、聡は御門にこうも囁いた。 
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