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ダークサイド

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第三章

「私はフランスに帰られなくてはならないのだ」
「バレエの研究が終われば」
「はい、舞台のそれが」
 そうなればということにするのだった。
「ですから」
「それでなのですか」
「貴女とは共になれません」
「そうなのですか」
「申し訳ありません」 
 このこともだ、心の中では違うと言っている。しかしこのことはあくまで心の中の言葉でしかない。表の顔は嘘を言う。
「しかし今は」
「ロシアにいる間は」
「共にいてくれますか」
「はい」
 これが彼女の返答だった、そしてアラコジはバレエの舞台を研究する立場としてだ。
 今度はロシアの国防次官夫人とも会った、夫人は四十代だったがギリシア彫刻を思わせる見事に整った顔にだ。
 綺麗な黒髪、そして鳶色の目を持っていた。長身はスーツもドレスも似合いそうだ。
 その彼女もだった、彼を見てだった。
 目、鳶色のそれの色を変えてだ。アラコジに対して言った。
「フランスからの、ですね」
「はい、バレエの舞台を学ぶ為にです」
「フランスから来られて」
「祖国では音楽大学に勤めています」
「学者の方ですか」
「そうなります」
 表の身分で語るのだった。
「まだまだ駆け出しですが」
「いえ、それでも」
「それでもとは」
「またお綺麗ですね」
 夫人はアラコジの整った顔をうっとりとした目で見て言うのだった。
「俳優の方かと思いました」
「ははは、それはお世辞では」
「そのつもりはないですが。ですが」
「はい、この度奥様のところにお伺いしたことは何故かといいますと」
「バレエのことで、ですね」
「色々お聞きしたいと思いまして」 
 ロシアのバレエについてとだ、表の顔で言うのだった。
「それでなのです」
「左様ですか、それでは」
「はい、今からですね」
「お話させて頂きます」
「お願いします、そして」
「実際の舞台もですね」
「拝見させて頂きたいのですが」
 こうも言うのだった、これは夫人への誘いの言葉だ。
「ロシアにいて何度も舞台は観ていますが」
「その中でもですね」
「特に素晴らしいものをです」
 観たいとだ、アラコジは夫人に表の顔で頼んだ。
「お願い出来るでしょうか」
「喜んで。ただ」
「ただ?」
「若し宜しければですが」
 少し紅くなった顔で言う夫人だった。
「私も同行させて頂いて宜しいでしょうか」
「奥様も」
「先生さえ宜しければ」
 彼を完全にだ、フランスから来た音楽大学の教師として見ていて言うのだった。
「ご一緒させて頂いて色々と」
「ロシアのバレエのことをですね」
「お話させて頂きたいのですが」
「それは何よりです」
 アラコジは心の中でしめた、と思ったが言葉には出さずに応えた。
「それでは」
「はい、それでは」
「お願いします」
 アラコジは微笑んで言った。 
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