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セイレーンの意地

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第二章

 アルゴー号はセイレーン達のいる島に進む、すると。
 すぐにだ、アルゴー号の周りにだった。人の、美女の頭を持っている鳥達が来てそうしてだった。
 妖しいまでに美しい声で見事な歌を歌う、その歌を聴いてだった。
 さしもの英雄達も戸惑う、そのあまりにも素晴らしい声と歌にだ。
 心が溶けそのまま引き込まれそうになる、しかしここでだった。
 オルフェウスは歌いそして竪琴を奏でた、すると。
 英雄達は我に返った、そしてだった。
 ボートを漕ぐ手を強め必死に前に進む、イアソンもだった。
 英雄達にだ、こう言うのだった。
「今のうちだ」
「ああ、そうだな」
「今のうちにだな」
「オルフェウスがセイレーン達を防いでいる間にだ」
 まさにその間にというのだ。
「ここを去ろう」
「そうだな、今のうちだ」
「今のうちにセイレーン達から去ろう」
「そして先に進むぞ」
「今のうちに」 
 オルフェウスがセイレーン達を防いでいるうちにだ、それでだった。
 全速でセイレーン達から去りにかかる、だが。
 島から離れてもだ、セイレーン達はアルゴー号の周りを飛びだ、そのうえで。
 歌う、その姿を見て英雄達は漕ぎながらいぶかしんだ。
「何かおかしいな」
「ああ、そうだな」
「異様にな」
「我々につきまとうな」
「必死だぞ、どうにも」
 その顔を見ればそうだった、それもかなり。
「命懸けで歌っている感じだ」
「どういうことなんだ、一体」
「もう奴等の縄張りから離れている筈だが」
「何故ここまでつきまとう」
「必死になっている」
 このことがわからなくなってきたのだ。
「我々は島の傍を通っただけだ」
「島も餌場でありそうなところも荒らしていない」
「しかし何故ここまでしつこい」
「どういうことだ」
 彼等はわからなかった、だがセイレーン達はあくまで船の周りを飛び歌う。その彼女達に対してだった。
 オルフェウスも歌い奏でる、彼もまた必死だ。船の上で懸命に歌と演奏を続ける。そうして勝負は長く続き。
 夕刻になり夜になり朝になってもだ、彼等の勝負は続き。
 遂にだった、朝になった時にだった。
 セイレーン達は力尽き海の中に落ちた、そうして。
 波にさらわれ消えていった、こうしてアルゴー号の英雄達は助かった、しかしだった。
 オルフェウスとセイレーン達の戦いを観終わり聴き終えた彼等はだ、いぶかしみながらそれぞれこう言った。
「随分としつこかったな」
「全くだな」
「セイレーン達は何故あそこまでしつこかった」
「それがわからないな」
「全くだ」
「どういうことだったんだ」
「私も気になった」 
 イアソンも言うのだった。
「そのことがな」
「そのことですが」 
 ここでその戦ったオルフェウスが言って来た。
「私もそうだったのですが」
「君もか」
「はい、私も必死でしたが」
 その必死さのことを言うのだった。
「彼女達もです」
「その必死さの理由が知りたかった」
「別に我々はセイレーン達を殺すつもりはなかった」
 テーセウスも言う。
「取って食うこともな」
「はい、それは確かにですね」
「棲家の島も餌場も荒らすつもりもなかった」
「それは全く」
「そして縄張りからも去った」
 セイレーン達のそこからもだ。
「あそこまでしつこく必死に追いすがる理由がなかった筈だ」
「それで何故あそこまでしつこかった」
 また言うイアソンだった。 
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