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神器持ちの魔法使い

作者:リリック
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第16話

「……知らない天井、じゃないな」

意識を戻した一誠の目に入ってきたのは学校の保健室の天井だった。

「痛ッ!?」

体を起こそうとした途端体に走った激痛に顔を顰めた。
そしてその激痛で次第に先程まで自分が、自分たちが何をしていたのか一気に思い出した。

「そうだ、ゲームは! 部長は!?」

『目が覚めたようだな相棒』

「ッ、その声はドライグなのか!?」

声をかけたのは俺の神器に宿る赤き竜の帝王ことドライグだった。

『結論から言おう。お前たちは試合には勝った。試合には、な』

勝った? 勝てたのか、俺達は……
試合の最後の方には半ば意識がない状態だったせいか記憶が曖昧だ。
だけどこれで部長が無理矢理結婚させられなくて済むんだ!

そんな喜びに満ち溢れ体の痛みを忘れて叫ぼうとしたがどこか引っかかった。
……ドライグは何て言った? 試合には勝った?

「……ドライグ、どういうことだよ。試合には勝ったって」

『相棒、覚えていないのか? まあ、仕方ないか。あの時は信念と気力のみで拳を振るっていたのだからな。―――試合には勝って勝負には負けたのだ』

はい?

『お前が左腕を対価に一時的に禁手に至ったのは覚えているな? 聖水や十字架を用いてフェニックスを圧倒していた。いや、そういう風に見せられていた』

「どういうことだよ。聖水や十字架は悪魔にとっては弱点のはずだよな。しかもそれらに倍化で効力をさらに高めたんだ、効かないはずが・・・・・・」

『ああ、確かにそうだな。だが事実だ。それらを喰らっても尚、動きは鈍ってはいなかった。理由はおそらく聖なるものに対する耐性があったからだろう』

「―――ああそうだ。他の奴らに比べて耐性があると自負はしている」

その声にハッとし、入口に目を向けるとヤロウが立っていた。

「ライザー!」

「目が覚めたようだな。思ったより元気そうじゃないか」

俺の敵意を気にすることなくそばに歩いてくる。

「そう敵意を向けるな。体に障るぞ」

苦笑しながらベッドの隣にある椅子へと腰を掛けるライザー。
そんな態度に毒気を抜かれてしまう。

「お初にお目にかかる。赤き竜の帝王・ドライグ」

『フェニックスの若造か。ずいぶんと雰囲気が違うじゃないか』

「こっちが素なんでね。違和感があるだろうが勘弁してくれ」

お、おう。
キレイに見えるライザーから感じるのはあのチャラそうなオーラではなく、近所の兄ちゃん的なものだ。
あの試合までの印象とは大きく違って、マジで違和感しかねえ。

「でだ、なぜ悪魔である俺に耐性があるかってことだが……秋人だよ」

「秋人?」

「ああそうだ。人間であり常識外の魔法使いでもあるあいつが人間界のRPGで使われるような光や白の魔法といったものを使える。そういったものも参考にしているみたいだったがな。その実験台として俺との模擬選だよ、まったく……」

―――「え? 悪魔な上にフェニックスだろ? 疑似的な不死だろ? ちょうどいいサンドバ……ゲフン、実力のあるライザーだから頼んでるんだよ」

―――「ちょっと待て!? 今サンドバックと言いかけただろ!?」

と、若干顔を青く染めるライザーを見て引いた。
秋人、いったい何しちゃってんの!? フェニックスがサンドバックとかその発想はなかったけど、思考が危ねえよ!?
けれど、次の一言で俺の顔はライザーと同じように顔色を変えることになる。

「おそらく近いうちにお前も俺と同じ目にあうだろうから頑張れよ」

「なん……だと……」

「わけがわからないといった顔してるが大有りだぞ。お前、洋服崩壊だったか? それをうちの兵士三人に使っただろ。あの三人は特に秋人と仲がいいんだよ」

「oh……」

やっちまった……やっちまったぜ……
秋人のことだからマジであり得る。
昔から身内には甘々な奴だから……あれ? 俺、もしかして二度目の死の危機?

「……拝啓、熟睡中のお父様お母様。先立つ不孝をお許し下さい」

「そうならないように頑張れ。死ななきゃフェニックスの涙で治してやる」

これも経験だと優しく肩を叩かれた俺の中には最初の頃に抱いていたライザーへの黒い感情はすっかりなくなっていて、その代わりに近い未来に二度目の死という経験をしてしまうかもしれないという絶望がじわじわと広がっていた。



――――――――――――――――――――



体が重い。
そんな違和感で目を覚ました。
体に何かが乗っかっている感覚があるうえに掛け布団に不自然な凸凹、なんというデジャブ。

またイルとネルかと思いながら魔法で掛け布団をどける。

「……今度はお前らか」

腕を抱くように右半身に体を預けている白音。
反対側には控え目に袖口を摘まみながら体を丸めて眠るレイヴェル。
白音はともかくとして、

「レイヴェルが潜り込むなんて珍しいな」

女の子が潜り込んでくるシチュエーションが普通はあり得ないわけで。
だがしかし、幼い頃から繰り返されてきたために感覚が麻痺している。

そういえば、イルとネルで思い出したが一誠のやつ、どうしてくれようか。
学校を後にする前に退場者たちのいる部屋に行ったのだが、イルとネル、特にミラはふさぎ込んでいたそうだ。
そういう風にシュリヤーたちに聞いた。
そりゃそうだろ、故意に試合でマッパにされて恥ずかしさのあまりに退場してしまったなんて悔しさやら恥ずかしさやらで心の中はごちゃごちゃだろう。

だから、子供じみた感情の素に一誠に対してちょっとした復讐を敢行する。
修行と称したハード~ルナティックな鬱憤晴らしか、精神的な嫌がらせでアイツのコレクションを目の前で処分するか、将又その二つか……とりあえずはこんな感じか?
細かなところは後で考えよう。
とりあえず、

「……まだ時間あるし寝る」

特に気にせず二度寝と洒落こむ。
小猫はそのままでレイヴェルの手を握って、再び夢の中へを潜っていく。 
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