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バージンロード

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第二章


第二章

「紫ちゃんが結婚するその時にはね」
「うん。ヴェールの裾を御願いね」
「わかったわ。持って」
「今は紫ちゃんが私のドレスを持って」
「今度はお姉ちゃんね」
 二人で笑みを浮かべて言い合い約束するのだった。そして今二人で誓いの場に入る。約束どおり翠のドレスの橋は紫が持っている。
「あら、裾を持っているのは紫ちゃんね」
「ええ。可愛いわね」
「本当にね」
 二人の親戚は皆笑顔で言い合う。
「小さいのに頑張って」
「おまけにそっくりだしな」
「そうよね。前から思っていたけれど」
「二人って本当に似てるわね」
「本当にね」
 笑顔で話をしている。話をしながらまだ見ている。翠は横目でそんな紫を見つつ優しい笑みを浮かべていた。そんな彼女にエスコートする彼女の父が声をかけてきた。
「おい翠」
「何、お父さん」
「御前顔が崩れてるぞ」
「そうかしら」
「そんなに嬉しいのか?」
 微笑んで娘に対して問うてきた。
「今がそんなに」
「ええ、とても」
「そうか」
 父は娘の言葉を聞いて彼自身も微笑んだ。
「それはいいことだ。やっぱりな」
「ええ。今は私で」
「今は?」
「今度はこの娘」
「この娘?」
 この言葉は父にはすぐにはわからなかった。
「誰だそれ」
「ううん、何でもないの」
「紫ちゃんに持たせてるんだな」
「駄目かしら」
「いや、それはいい」
 彼もそれはいいとしたのだった。
「それはな」
「いいの」
「ああ、それは構わない。いや」
「いや?」
「可愛いな」
 彼も紫をちらりと見て微笑むのだった。
「紫ちゃんも頑張ってな」
「そうよ。いい娘よね」
「そうだな。それでだ」
「ええ。何?」
「ほら、待っているぞ」
 顔を前に向けての言葉であった。
「前にな。拓郎君が」
「拓郎さんが」
「そうさ。ほら」
 見ればそこにタキシードを着た見栄えのいい新郎がいた。他ならぬ翠の結婚相手だ。
「笑顔で待っているよ」
「ええ。まずは私で」
 笑顔でまた言う翠だった。
「次は紫ちゃんね」
 こう言って微笑んでいた。そして微笑みながら式に入る。紫はそんな彼女を満面の笑顔で見つつ未来に自分がこの式の主人公になる時のことを夢想していた。心地よい幸せの中で。
 それから十五年度。同じ式場において。一人の美しい女性が席に座っていた。彼女は純白のウェディングドレスに身を包んで微笑んでいた。
「おめでとう」
「いよいよね」
「ええ」
 彼女はその微笑みで周りの人達の言葉に応えていた。幸せの中にいるのがわかる。
「遂になのね」
「そうよね。あんたも遂に」
「お嫁さんよ」
「私がお嫁さんに」
 彼女はこの言葉を聞いてまた微笑んだ。
「なれる日が来るなんて」
「皆そう思うのよ」
 ここで周りの人のうちの一人が彼女に声をかけてきた。
「皆ね。夢みたいに思えるのよ」
「翠さん」
「紫ちゃん」
 今声をかけた女の人と彼女は互いの顔を見てそれぞれの名を呼び合った。見れば二人の顔は全く同じだった。立っている方の女の人の顔が少し年輩に見えるだけで。
「同じだったわ。私もね」
「そうだったわね。確か」
「あの時のこと。覚えてるわね」
「ええ」
 静かに微笑んで翠に答えた。
「覚えてるわ、はっきりとね」
「もう一つ覚えていることがあるかしら」
 翠はここで紫に対して尋ねてきた。
 
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