少年少女の戦極時代Ⅱ
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番外編
その8 路地裏会談
目が覚めた戒斗が一番に目にしたのは、呉島碧沙だった。
「気分はどうですか? キモチわるかったりしませんか?」
「……グルか」
「質問に答えてください」
「体は何ともない。咲はどうした」
「戦っています。コウガネと」
咲が戦っているならば、自分が行かずしてどうする。戒斗はもたれていた壁を支えに立ち上がり、路地裏から出て行こうとした。
碧沙がコートの裾を引っ掴んで止めなければ、そうしていた。
「おい」
「だいじょうぶ。ほら」
碧沙が示す方向を見て、戒斗は、彼にしては珍しく本気で驚いた。
コウガネと戦っているのは月花だけではない。白銀の鎧とマントをまとったアーマードライダー鎧武が――異星に舞を連れて旅立ったはずの葛葉紘汰が、戦っていた。
疑問より先に、思ったのは一つだけ。
(ああ。あいつ、来たのか)
紘汰が咲と共に戦いに来た。その現実はなぜかひどい脱力感を戒斗にもたらした。
「だから駆紋さんはぜっっったい! オーバーロードに変身しないでくださいね。これ、咲からのキボウでもありますから」
「あいつは俺を何だと思ってるんだ……」
「まさか咲がイジワルでこうしたなんて思ってませんよね」
「そうだと言ったら?」
皮肉を返すくらいは許されるだろうと、軽い気持ちで口にした。
これに対し、碧沙は戒斗の前に回り込み、街路に出る道を通せんぼした。
「咲、実現してほしいんですよ。駆紋さんに。世界を見て回る旅」
碧沙は戒斗を見上げ、笑いかけた。その笑顔は光実に似ていて、ああこいつら確かに兄妹だ、とどこかで思った。
「バケモノとしてあの人をやっつけて、追われることで弾みをつけて『出て行く』んじゃなくて、“人間”駆紋戒斗として、『旅立って』ほしいって。でなきゃ意味がないんです。DJサガラの言葉を借りるなら、甘ったれたことを言うんじゃない! ってとこでしょうかね」
“人間”駆紋戒斗として。その言葉は、すとんと戒斗の胸に落ちてきた。
「お前はどうしてそこまであいつに尽くすんだ?」
碧沙はきょとんとした。
咲が碧沙に入れ込む理由は咲の口から明かされたが、碧沙がここまで咲を想う理由は知らない。戒斗だけでなく、誰も。
「――だれにもナイショですよ?」
「ああ」
陽光が、まるで碧沙の後光のように、射して。
「わたしの人生でハジメテのトモダチって、咲なんです」
答える言葉のない戒斗を尻目に、碧沙は街路での戦いを再び覗き込んだ。
「おわったみたいですね。行きましょう」
碧沙が先に路地裏を出て行った。
街路から差し込む陽光はやはり戒斗にはまぶしすぎて、すぐには踏み出せなかった。
それでも、無事帰って来た光実や城乃内、なりゆきを案じて駆けつけたザックたちに先を越されるのは癪だったから。
戒斗は光射す道へと歩き出し、変身を解いた咲の下へ向かった。
後書き
完結と銘打ったのに、発つ鳥跡を濁しまくってすみません<(_ _)>
咲と紘汰が戦っている間に、戒斗は碧沙とこんなお話をしていました。
思えば碧沙と戒斗って全く! 絡んでないんですよね、拙作だと。
なので最後くらいという気持ちで、深く考えず、筆の赴くままに書きました。
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