朝の物語
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第四章
第四章
雑誌を見て勉強して格好を決めて。それでいざいつもの駅へ。
「何かキザになったわねえ」
「そうかなあ」
家を出る時にお母さんに言われてとぼける。
「色気づいて。何があったのか知らないけれど」
「別に何もないよ」
とぼけたけれど口が尖るのがわかる。お母さんはそれを見て意地悪い笑みを浮かべて言ってきた。
「本当かしら」
「疑ってるの?」
「あら、隠してるの?」
逆にこう言われた。嫌な感じで仕方がないんだけれど。
「違うって。だから」
「まあいいわよ。それに」
「それに?」
「時間よ」
「あっ」
お母さんに時計を指差されるとつい声が出た。見ればもう時間がない。
「まずいよ、これって」
「馬鹿言ってる場合じゃないでしょ」
「馬鹿言っていたのはお母さんじゃない。そもそも」
「じゃあ遅れるのね」
また意地悪く言ってくるのが。何かもっと頭にきて。
「私は別にいいけれど」
「僕はそうはいかないし」
冗談じゃない。遅れたらそれだけで一日が終わっちゃう。しかもこんな馬鹿なことで。
「じゃあ。行って来ます」
「はいはい、それじゃあね」
後ろにお母さんの声を聞きながら自転車を出す。そうして駅まで飛んで行く。とにかく今すぐにでも行かないと。とんでもないことになる。
これで電車に乗って。後は相手が来るだけね。
精一杯お洒落してスカートの丈も短くさせてハイソックスにして。胸だってブローチ付けたしメイクも念入りにして髪もシャンプーかけてコロンもしてるし。これで完璧ね、と自分では満足しているんだけれど。
そこまで武装しないと男の子ってわからないって聞いてるし。ともかくこれでいい筈。見ていなさい、絶対に振り向かせてやるんだから。
そうしたらどんな顔をしてやろうか。知らない顔にしようかしら、それとも勝ち誇った顔か。どんな顔を見せてやろうかしらって考えてたらその駅に着きました。いよいよです。
「あらっ」
見たらないけれど。これってどういうこと!?
「休み!?ひょっとして」
風邪!?それとも別の。遅刻なんて馬鹿なことだったらどうしようって考えていたら階段を駆け下りてやって来ました。何よ、心配させてって。
させてって。何、一体。いつもより全然格好いいっていうか。
「何、それ」
思わず電車の中で呟いちゃったし。何か私より全然いける感じ。驚いてると向こうも何か凄い顔で私を見てきました。
「えっ!?」
声出てるわよ。一体何なのよ。
驚いた顔で電車に乗ってきてそのままいつもの場所に来るけれど。ずっと私を見ています。
私も向こう見ているし。完全に訳がわからなくなっていました。
何なんだって。言いたくて仕方ないっていうか。目の前のあの娘見てると冗談みたいに思えてきた。
普段と全然違う、いや前より遥かに奇麗で可愛いし。それに唖然ってしてずっと見てるけれど向こうも驚いた顔で僕を見て。何なんだろ、これって。
「あの」
何か彼女が口を開いてきたし。僕に。
「えっ、僕?」
言葉聞こえたみたい。私のこと意識してるのね。
「あのね、ひょっとしてさ」
「君、まさか」
有り得ないわよ、これって。こんなの本当に漫画とか小説とかだし。私が意識していると相手もって。それに今気付くなんて何なのよ、ドラマでも・・・・・・これはあるわね。
「僕に見せようって!?」
「それは私が言いたいわよ」
彼女が言ってきたんだけれど。何かわかってきたことって。
「あれ!?私のことずっと見てたの」
「君もまさか僕を」
「そうよ」
ここまで来たら嘘とか言えないから。正直に言ったわ。
「ずっと見ていたわよ。今日だって」
言っちゃった。けれどもういいわ。話わかってるから。
「この格好もね」
「僕もだけれど」
そうだよ。勇気出して言うよ。
「君が見るかなあって」
「最初から見ていたわよ。じゃあもう言うわ」
「僕も。言うよ」
僕も一緒に言ったし。
私も一緒に言ったわ。
「好きだよ」
「好きよ」
二人同時に言ってしまったドラマはこれで終わりかな、なんて思っていると。
電車の中の皆が見て恥ずかしい感じ。けれど。何か朝のほんの一日がこれでいつも続くって思うとついつい笑えて。それでいいかな。
今度から朝だけじゃないから。彼女とずっと一緒にいられるのに感謝。
朝の物語 完
2007・10・15
ページ上へ戻る