バカとテストと白銀(ぎん)の姫君
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第十九話Road to Elysion~決戦~
「翔子、俺たちが最後の試合で顔を付き合わせるだなんてな。」
「………雄二の考えていることは分かっているつもりだから。こうなるのはむしろ必然たること。」
「これより第五試合を開始します、両者準備をしなさい。」
「召喚!」
「…召喚」
学年主任である高橋の号令の下、二人はそれぞれの召喚獣を呼び出す。
『日本史 Fクラス 坂本雄二 95点 VS Aクラス 霧島翔子 95点』
会場であるAクラスにどよめきが広がる。二人とも全く同じ点数を繰り出してきたのだ。
「まさか二人が同じ点数だったなんて……」
「何で霧島さんが5点も引かれてるんだ…」
「雄二!頑張れ!」
片や源平合戦の頃のような鎧を纏い、寡黙な表情で日本刀を中段に構えているAクラス代表霧島翔子。
改造制服を着て、その手にメリケンサックを装備しただけの見た目は単なる不良学生風の坂本雄二。
「第五試合、始めなさい!!」
大声を出すことが滅多にない高橋女史がそう叫ぶ。
彼女自身、これまでの試合に気が高ぶってきている証拠であろう。
そのときクラスも性別も何も関係なしに、Aクラス全体は沸き上がっていた。
刀と拳、同じ点数で、しかも正面からまともに戦えば刀が勝つに決まっている。しかしもうこの教室にいるものたちはそんなことを口に出さない。
Fクラスの三勝という結果をすでに見せつけられたAクラスは、彼らの代表である彼女が負けたときが即座に自分たち全員の敗北になるだろうと誰かが言い出したのが、いつの間にかクラスの総意となっていた。
「霧島さん!勝ってください!!」
「Fに負けないで!」
そう身の振り考えずに金切り声を上げるものいた。
Aクラスの教室はF,E,Dの教室の6倍の大きさを誇る。つまり実質生徒を300人以上収容することができる大きさを持つ。
A対Fクラスの模擬試合はそのAクラスが独自に持っている多目的のエリアで行われている。
Aクラスの各行事での準備や、大学から講師を招いて講義してもらうためにも使われるため、廊下側中央に位置するそのスペースを囲むように観戦席は設けられていた。
100人ほどの観客たちは、皆その場所に自分の座席を得ていた。
一人一人のスペースは少し窮屈なだけであり、窮屈さに嫌気がさした生徒はそれらの席の後ろで立ち見をしている。
それらがこのクラスにいる第五試合を戦っているA,F両クラスの代表以外の全員の身の振り方だった。
しかしそのどちらからもはみ出した、そういった場所で彼らの試合を見ていない者が居た。
そのエリアの斜め向かいにある階段状の座席、つまりAクラスのメンバーが普段授業を受けるときに使っている席の、最も右側の列に座って高みの見物を決め込んでいる彼女のことをA,Fどちらのクラスの人間、誰も気がついていない。
唯一教室の中でそのことを知っていた少女は彼女の近くでどうしようか迷っていた。
祈りに似た表情を浮かべる彼女は知っているのだろうか、その隣に座ってもいいものかどうか考え込んでいる少女がいることを。
それぞれの信念を通すための最終試合、A,F両クラス代表によって行われる模擬演習の火蓋は坂本雄二の先制によって始められたのであった。
俺と翔子がにらみ合うことになるのは計算済み、そしてあいつの口振りからだと、どうやら俺の意図を察した上でわざわざこの試合に出てきたらしい。
「……雄二、手加減しない」
真剣そのものの表情で俺をにらんでくるあいつに、俺は胸のすく思いを感じていた。
再び俺はこいつと正面きって向かい合えるようになったこと、そのことに俺は大きな感慨を感じていた。
Fクラスにわざわざ狙って入ったのも間違いじゃなかったということだろうか。
おかげで参謀の協力を得ることも出きるようになったしな。
この教室にいる奴ら全員が俺たちの一挙一動を見逃さんばかりに注目していることに、俺は一切違和感を感じることもなければ不愉快にも思わなかった。
ただ、自分の中の高揚感が表情にありありと浮かび上がっているであろうことを感じるばかりだ。
「上等だ!翔子そっちこそ観念しやがれ!!」
雄叫びをあげて、俺は自分の分身たる召喚獣を翔子の召喚獣に向けて走らせる。
あいつの装備は刀だ、超近距離に潜り込まない限り俺に勝機はほとんど皆無に近い。
つっこんでくる俺にあいつは身構える、あいつの源平鎧に相当する俺の装備は学ランとちゃちではあるが、あえて言えばその分機動性に優れている。
跳躍をしてみせ、頭上から飛びかかってくるように思わせておいて、実は翔子の後ろを取ろうとしたり、或いは真っ正面から勝負を仕掛けると見せておいて、そうではなく後ろに少し飛びす去りタイミングをずらしたり。
あいつの源平鎧も姫路の西洋鎧などに比べれば軽いが、決して軽いものではない。
俺の俊敏さが今回の勝負の鍵だ。
あいつの斬撃を持ち前の操作性で交わしきり、その背に殴りかかる。
殴りかかるその手を受け止め、加えられた力を受け流しながら体勢を整え直した翔子が切りつけてくる。
こっちの胸元を刃先が捕らえ、纏っている改造制服の一部分が破けた。
戦闘の続行に影響など無い、その判断の元俺は再び殴りかかる。
今度はまともに殴られた翔子と俺の点数が再び表示される。
『日本史 Fクラス 坂本雄二 55点 VS Aクラス 霧島翔子 50点』
「……雄二、強いね」
「翔子、お前もな!!」
「…でも、私が勝つ」
今まで防戦一方だった翔子が今度は俺に突っ込んでくる。
振り下ろされた刃を交わし、隙をうかがってあいつの側面に飛び出す。
「翔子、この際だから言っておく。お前は勘違いをしているんだ。」
「……違う」
「お前のそれは過去への責任感だ。お前の本心なんかじゃないんじゃないか」
「…違う……違う!」
滅多に出さない大声で、俺の言葉を否定する。
その声は、いつもの声よりも幼く、小学生の時のあいつの声と何ら変わっていなかった。
いつも冷静沈着に振る舞っているのを見慣れたAのやつらがポカンとしているようだ。
そのことに笑いを誘われるだろうが俺の目線は翔子にのみ注がれる。
「……私の気持ちは勘違いなんかじゃない、だから…」
そこで言葉を区切ったあいつは、堂々と宣言する。
「……身を持って知ってもらう。私の気持ちを」
上段に構えたあいつは、決闘を申し込んできたかのように抜身の闘志をまざまざと見せつけてくる。
いいじゃないか、上等だ!!
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