三色すみれ
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第五章
第五章
「いい、そもそもね」
「ええ」
皆その女の子の話を聞く。彼女は大真面目な顔で皆に対して講義をするのであった。
「本当に嫌なら真琴だって完全に避けるでしょ。違う」
「そういえばそうね」
「あいつ何だかんだ言っていつも避けていないわよね」
「そこよ」
彼女はそこを指摘した。
「そこなのよ。そういうのを見ているとね」
「元々まんざらじゃなかった。そうね」
「そういうこと。さて、こっからよ」
彼女はその顔を舞台に戻して言う。もうすぐ終わりであった。
「あの二人がどうなるかね」
「かける?」
「勿論」
クラスメイト達は自然とそんな話になっていた。皆随分乗り気である。かなり楽しんでいるのがその様子からもわかる。気楽と言えば気楽である。
「若田部がやると思うぜ」
男のうちの一人の予想であった。
「ここはさ」
「オーソドックスな予想ね」
女の一人がその予想に笑う。
「そう上手くいくかしら」
「あの桜森だぜ」
真琴の頑なさというかあの堅苦しさはクラスの皆が知っていることであった。それもあって皆楽しそうに今後を見ているのである。
「自分からは仕掛けないさ」
「どうかしら。それはわからないわよ」
見れば女は殆どが真琴が動くと言うのであった。
「その辺りは」
「若田部に決まってるじゃねえか」
しかし男は遼平を推す。
「あいつの性格だったらな」
「それは最後までわからないわよ」
「そうよ、カーテンコールまでね」
女組はそう言って余裕を見せるのであった。何はともあれ舞台は今終わった。オベローンやティターニア、パックの役者達が最後の口上をして見事舞台は幕を降ろした。皆の拍手の中で役者達が出て来る。まずは笑顔で皆揃ってである。
見れば遼平と真琴はその中で二人並んでいた。その手をつなぎ合っている。
「あの手見て」
「ああ」
クラスメイト達は二人の手に注目した。
「どっちが握ってるかしら」
「若田部だな」
一人がそれを見て言う。
「ほら、見ろ」
「そうね」
「確かに」
皆もそれを見る。見れば確かに遼平が若菜の手を握っているのだった。
「これで決まりだよな」
「なあ」
男達は彼が自分から手を握っているのを見て誇らしげに女達を見る。
「若田部だぜ?やっぱりなあ」
「賭けに勝ったらラーメンかハンバーガーな」
「くっ」
「まずいかも、これって」
「だから最後まで見なさいって」
しかし女組のリーダー格はあえてこう言うのであった。随分強気に。
「カーテンコールまでわからないって言ってるでしょ」
「もう勝負ついてるのにかよ」
「諦め悪くないか、それって」
「残念だけれど違うわ」
彼女は腕を組んで平然とこう男組に返した。
「だってまだ最後じゃないでしょ」
「まだ言うのかよ」
「強気だねえ、全く」
「女は強気でいかなくちゃ」
ある意味真琴よりも気が強いと言えた。それがあまりにもはっきりとわかるので男組から見ても引くものがあった。だが女組はそんな彼女に元気付けられた。
「そうよね、まだ」
「カーテンコールがあったわよね」
それに勇気付けられる。そうして言うのだった。
「最後まで見ましょう」
「そうね」
「どうなんだか」
「まあいいんじゃね?」
男組も強気だった。だからこそ今はそんな彼女達の言葉を笑顔で受けるのであった。
「ここはさ。大きく」
「構えていればいいか」
「そうよ。勝ち負けは抜きにしてね」
また女組のリーダー格が述べる。
「どんと見ていればいいのよ。ただし」
「ただし?」
「何だよ」
男組は自分達に顔を向けてきた彼女に対して問う。見ればその顔はそれまでの強気な様子に加えて何かを物欲しげな笑みがあった。
「負けた時は。わかっているわね」
「ハンバーカーかラーメンかよ」
「私はビッグマックだから」
そのうえで事前に注文する。
「いいわね」
「おい、一番高いのかよ」
「そりゃねえぞ、おい」
「勝つんでしょ?だったらいいじゃない」
しかし彼女はその笑みで男達に言い返すだけであった。
「あんた達が勝つんだったらね」
「・・・・・・そうか」
「じゃあまあいいか」
「そういうことよ」
話はそれでまとまった。
「わかったらね。最後まで見ましょう」
「ああ、わかった」
「それじゃあな」
彼等は舞台に目を戻した。揃っての最後の挨拶が終わり後は役者それぞれのカーテンコールであった。主役のオベローン達のものが終わりライサンダーとハーミアのも終わった。彼等のそれは普通に終わった。それからいよいよであった。
「いよいよね」
「ああ」
クラスの皆は固唾を飲む。遂にその二人が姿を現わした。
「出たわ」
「さあ、何が起こるか」
皆何が起こるか見守る。二人は舞台のカーテンの前だ。だがそこでは手をつないではいなかった。
二人並んで皆の前に出て来る。そうしてまずは一礼するのだった。
「上手くいったね」
「そうだな」
二人は皆の拍手を受けながら言い合う。そこで遼平はそっと自分の手を真琴の手に近付けた。だがそれは真琴によって止められてしまった。
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