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ソードアートオンライン~ロストシャドウ~

作者:shoogel
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拍手の裏

 
前書き
もう一つの拍手の正体は? 

 
「………!!」
俺達は大きく飛び退き、剣の柄に手を掛けた。
しかもNPCでもない、プレイヤーだ。
キリトと俺より、少し背の高い男。
年代は同じくらいだろうか。
防具はホルンカの村で売っている軽量の
革鎧と円形盾を身に着けている。
武器は俺とキリトと同じ初期装備のスモールソードのようだ。
俺達は小さく息を吐きながら手を下ろすと、少年はぎこちない笑みを浮かべて、頭を下げた。
「……ごめん、脅かして。最初に声を掛けるべきだった」
「いや、俺達こそ……過剰反応してごめん」
俺達も頭を下げる。

真面目そうな第一印象を与える顔立ちの少年は
ほっとしたように笑顔を大きくすると、
何のゼスチャーか右手の指を右目のあたりに持っていった。
少年はバツが悪そうに手を下ろす。
多分、彼は現実世界では眼鏡をかけていたのだろう。
「レ、レベルアップ、おめでとう。ずいぶん早いね」
少年はキリトに話しかけた。
「早いってほどでも……。─それを言うなら、そっちも早いな。誰かがこの森まで来るのは、もう二、三時間後だと思っていた」
すると、少年は
「あはは、僕も一番乗りだと思ってたよ。ここは、道が解りにくいから」
その言葉を聞いた瞬間、俺は彼はキリトと同じ……。
《元βテスター》なのだろうと感じた。

何やら考え込んでいたキリトと俺に少年は
「君たちもやっているんだろ、《森の秘薬》クエ」
それは間違いなく、俺達が先ほど村の民家で受けた
クエストのタイトルだった。
俺はよくよく考えると、このクエストの報酬について
あんまり詳しく聞いていなかったので、質問した。
「このイベで手に入る長剣って強いのか?」と聞くと少年は
「このイベントは、片手剣使いの必須クエだからね。報酬の《アニールブレード》を貰っておけば、三層の迷宮区までは使えるからね」
俺はその言葉に感心していると、隣でキリトが
「……見た目はイマイチだけどな、あれ」と補足した。
俺は苦笑い、少年は朗らかに笑った。
すると、少年は笑いを収め、少々予想外の言葉を発した。
「せっかくだから、クエ、一緒にやらない?」
「え……でも、一人用クエだったと思うけど」
とキリトが反射的に答える。
しかし、少年はキリトの言葉を予想していたかのように続けた。
「そうなんだけどさ、《花つき》はノーマルのを狩れば狩るほど出現率が上がるだろ。三人で乱獲したほうが効率いいよ」
それは、その通りだ。
ソロだと孤立しているモンスターしか狙えないが、
三人いれば敵も同時に三体まで相手できる。
目標を選ぶ時間を短縮できるぶん、時間あたりで狩れる
数は増える─結果花つきの出現率も上がるはずだ。
ここでキリトがまた何か考え込んでいると、少年は
「いや、別にパーティーは組まなくていいよ。ここで先にやっていたのは君たちなんだから、最初のキーアイテムはもちろん譲る。確率ブーストかかったまま狩りを続ければ、きっとすぐ二、三匹目も出るだろうから、そこまで付き合って貰えれば……」
「あ……ああ、そうか……じゃあ、悪いけど、それで」
とキリトは少し歯切れ悪そうに答え頷いた。
少年はもう一度笑うと、歩み寄ってきて右手を差し出した。
「よかった、じゃあ、しばらく宜しく。僕は《コペル》」
「……よろしく。俺は《キリト》、そしてこっちが《シュージェル》だ」俺は軽く頭を下げ宜しくと言った。
すると、少年─コペルは軽く首を傾げ
「……キリト……あれ、どっかで………」
どうやら、β時代のキリトを直接ではないにせよ知っているようだった。
「人違いだよ。さあ、がんがん狩ろうぜ。他のプレイヤーが追いついてくる前に、《胚珠》を三個出さないと」
「ああ、そうだな」と俺
「う……うん、そうだね。頑張ろう」
俺達は頷き合い、間近で三匹固まっている
リトルネペント目掛けてダッシュした。

さすがは元βテスターだけあって、キリトとコペルどちらも
戦闘のカンはなかなかのものだった。
片手剣の間合いとモンスターの挙動
そしてソードスキルの使いどころをよく知っている。
俺達はどんどんネペントをポリゴンの欠片に変えていく

もう何匹狩っただろうか。
「なかなか、出ないな……」と俺。
それに続きコペルも「……出ないね…」と疲労の色が滲む。
俺達が狩り始めてすでに一時間以上経過している。
「もしかしたら、β時代と出現率が変わってるかもな」とキリト
俺は「勘弁してくれ……」と嘆くと
俺達からほんの十メートルほど離れた木の下に、
仄かな赤い光が生まれた。
俺達はこの約一時間半の間に、
三人ともレベル3まで上がっている。
俺達は休憩も兼ねて、草むらに立ち尽くしたまま
ぼんやりと湧出を眺めていた。
今では見慣れてしまったリトルネペントの
生物めいた光沢を持つ緑色の茎、
個体差のあるマダラ模様に彩られた捕食器、
そしてその上に─薄闇の底でも毒々しい赤に輝く、
チューリップに似た巨大な花…。
「………………………」
─チューリップに似た巨大な花!?
「……………───────!!」
俺達は声にならない雄叫びを上げた。
それぞれの剣を振りかざし
ネズミに襲いかかるネコの如き勢いで飛びかかろうと──
した寸前、キリトが両手で俺とコペルを止めた。
「《花つき》の奥に《実つき》がいる」とキリトが言うと
「──行こう。僕が《実つき》のタゲを取るから、キリトとシュージェルの二人で速攻で《花つき》を倒してくれ」
と言い残すとコペルは返事を待たず《実つき》に向かった。
今では花つきだろうが、ついてなかろうが一匹ずつなら
俺とキリトの敵ではない。
俺とキリトは《花つき》に同時スキルを放った。
単発水平斬撃技《ホリゾンタル》。
俺とキリトの渾身の同時ソードスキルで
《実つき》は断末魔を上げ、ポリゴンへと変化した。
俺にはアイテムは出ていないからキリトの方に出たのだろう。

俺達はすぐにコペルのもとに戻った。
「悪い、待たせた!」とキリトが声を掛けると
コペルは俺達を哀れむような目で、俺達を見て短く言った。
「ごめん、キリト、シュージェル」
その時コペルの剣が薄青く輝く。
単発垂直斬り《バーチカル》。
キリトが呟く「いや……だめだろ、それ……」
コペルが放ったバーチカルは丸い《実》を叩き付けた。
その時、パアァァン!と凄まじいボリュームの破裂音が
森を揺らした……。 
 

 
後書き
キリトとシュージェルがこの後どうなるのかお楽しみに! 
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