聖魔弾の銃剣龍神皇帝と戦姫
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第2巻
公国同士での初戦
ライトメリッツを出て、ジスタート王国の直轄領を半日で抜けた先にオルミュッツへと入ると、緩やかな起伏の続く草原が現れる。東にタトラ山脈を臨むこの平原を先ほどリュドミラが言っていたブルコリネ平原だそうだ。秋から冬にかけてタトラ山から吹き降ろされた冷気のような風に包まれて、雪が降っている時があった。エレン率いるライトメリッツ軍三千は、普通の鎧を着ているだけだ。なぜかというと俺が兵達全員にオーラを当てているからだ、冷気を一切感じないオーラに一人ずつ包まれているお陰でこの寒い中で鎧のみというのはあり得ない光景だとエレンが言った。
「お前ら全員聞け!俺は今回直接介入出来ないが、支援として冷気対策をお前らにしている。それと介入はしないと言ったが、俺も一兵士としてなら攻撃可能なので何かあれば言ってくれ」
そう言ったのはここに来る前だった、最初は冷気対策というのがどういうものかは知らされていなかったが、この平原に来て初めて理解した。厚手のマントを羽織っていたはずだが、ここに到着すると全員脱いでいたから。
「前方に敵!数はおよそ二千!」
陣容を整え終えたところに。兵が報告に来る。エレンは不敵に笑みを浮かべていた、冷気対策抜群の上に敵が待ち構えているとね。遠くにいる黒い塊が見えた所で、俺は馬の上から狙撃銃を取り出してから、一発撃ってみた。甲冑に身を固めた兵の一団で鉄林の如く槍が空にかざされていたが、俺の一発によりあちら側は混乱をしていた。まだ1ベルスタあるところからの狙撃という事とオルミュッツ製の鎧でも一発で仕留めたからである。
「ヴォルン大公、我々からは1ベルスタありますが敵を狙撃出来たのですかな?」
「普通ならあり得ないが、俺らの武器ならあり得る事を今あちら側に教えてやったところだ。オルミュッツ製の鎧だろうとも一発で仕留める事が出来たという証拠になったからな」
狙撃銃をしまってから、ハンドガンに貫通弾を装填してから互いの距離が500アルシンまで縮められた時に雪がぱらぱらと降ってきたが吹雪になるくらいまでではない。今日の天気予報だとオルミュッツ辺りは雪は降るが、吹雪まではならないと。それと1ベルスタからも見えたが、黒竜旗と白地に蒼い槍をあしらった戦姫の軍旗が見えるがこちらは剣であちらは槍か。両軍が見えてきた辺りになると、角笛が鳴り響いて戦の開始となった。甲冑の音を鳴らしながら距離を詰めてから、数千の弓弦が震え、雪と共に無数の矢が両軍に降り注ぐが、こちらは俺がエレメンツの一つである風で矢を受け止めてから逆にあちら側に倍返しとなってオルミュッツ軍に降り注いだ。矢戦が一段落した時に先に動いたのはエレン達ライトメリッツ軍、槍を構えた騎兵部隊が喚声を上げて突撃するのを見て大地を揺らし全身隙なく固めた重装歩兵部隊がこれを迎え討つ。
正直俺としては、黒竜旗同士が争うところは見たくないが、槍と槍、甲冑と甲冑がぶつかり合う。馬と一体になって猛進を止められず崩れ落ちた兵はいたが、地上から騎兵を叩き落とす者はいなかった。騎兵一人ずつに、風を纏わせる事で叩き落とそうとしても風の防御で叩き落とされずに騎兵は地面に倒れる者を踏みつけて槍に突かれ群がる兵達に斬り刻まれる。エレン配下の騎兵は、ヴォルン大公の支援によりいつもより強かったがリュドミラ配下の重装歩兵も頑強に抵抗する。
「第一陣を後退、第二陣を出せ」
最初の騎兵達が後退し、控えていた騎兵部隊に風の防御が乗り移る事で交代したのだった。第一軍に劣らぬ猛攻だったが、それでもリュドミラの重装歩兵達を突破できないでいた。いくら風の防御があったとしても、ヴォルン大公の支援がいつまで出来るかはティグル次第。ライトメリッツ軍の後方で指揮を取りながら、エレンは注意深く戦況を見守っている。隣にいるティグルは風のエレメンツを使い、味方を叩き落されないためなのか手を敵に向かってかざしていた。正面突破は出来るとは思っていない、攻めながら一方でリムに兵を与えて敵の側面を突くつもりだったらしい。
「リムアリーシャ様の部隊が撃墜されました」
「・・・・リムは?」
「ご健在です」
安堵の息をついたエレンは兵を下がらせると忌々しげに腰の長剣を叩いた。アリファールが不平を訴えるように強めの風を送る、隣にいたティグルも風のエレメンツを使うのをやめてからハリセン一発してから落ち着かせた。
「全く竜具を叩くとはよくもまあ俺の目の前でやったな?」
「すまない、ついカッとしてしまった。だがこれでは『俺がちょいと行ってくる』何?」
「遠くからの支援活動を他の者に任せたのでな、俺が騎兵部隊に混ざって重装歩兵を葬ってくる。風の精霊王に頼んであるから問題ないさ」
風の精霊王サイフィスに支援活動をそのままにと命を下した後に、俺は騎兵部隊に混じって突撃した。指揮は取らずに一兵士として参加したが、格好は鎧ではなく黒い戦闘服なので目立つような気がしたがまあいいやと思ったティグル。銃の攻撃範囲はあるので、このままでも撃てるが先頭にいる味方に巻き込む訳にはいかないので先頭に出てから槍を構えて迎え討とうとしているオルミュッツ兵の脳天に向って乱射した。すると次々と一発ずつ重装歩兵の頭に当たるので、そのまま馬に踏みつけられていた。やはりいくら甲冑が一、二だとしても貫通弾の前では何の役に立たない。
「いやー、いつ見てもお見事ですな」
乱射した後、隣にいた騎兵部隊の指揮官が賞賛する言葉を口にする。
「向こうがいくらいい甲冑を着ても俺の弾では弾き飛ばす事ができないようだ」
オルミュッツの重装歩兵は兜も甲冑も隙間がないが、盾を貫通させてそのまま身体に討ち取ったりしたりしていたので、この距離からでも充分狙えるからだ。
「並みの兵でもこの距離では精々腕か脚を狙うのが弓矢を扱う者としては限界でしょう、ですがヴォルン大公のなら硬い盾や甲冑をしていても無駄だと改めて思いました」
敵との距離が縮まってきているので、俺は騎兵部隊から後退するようにした。騎兵部隊と残党部隊である重装歩兵がぶつかるが、それを狙撃銃で狙い撃つティグルがいた。それも1ベルスタからの精密射撃によって、指揮官を探しては脳天に遠距離射撃を何回も行った。指揮を取っている者を何度も撃つが、すぐに他の者が事態を収拾し、陣形を作ってしまう。こりゃ何回やっても同じことが起こりそうだが、可能な限り何十回も狙撃したのだった。騎兵が攻撃を断念してしまったために、俺も狙撃をやめてから一緒に後退して行った。それを合うようにあちらさんも後ろへ下がろうとしていたので、サイフィスに風の防御はもういいと言ってから支援活動を停止。ただし冷気支援だけは続行中。
この日は決着つかず、オルミュッツ軍は結構な量の戦死者が出たがライトメリッツ軍は数十くらいだった。ヴォルン大公の後方支援によって、最小限の戦死者を出した。あとは狙撃のお陰である。雪も日没にやんで、冷気だけが夜の闇に覆い尽くすが冷気対策はまだまだ続行中となっていた。と言ってもヴォルン大公がしてるのではなく、精霊達がやっている事らしい。エレンの幕舎にティグルが姿を現したのは、日が沈んだ辺りだったがリムと共に葡萄酒とチーズだけの質素な食事を摂っていた。
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