| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

一日一日を生きる。

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
< 前ページ 次ページ > 目次
 

俺のとある一日。

 
前書き



 

 
 俺の一日は、どきっという胸の高鳴りから始まる。理由は簡単。自分の寝ている布団に猫耳の生えた、傾国の美女といっても過言ではない美女が入り込んで、俺の顔を見ながら微笑んでいるのだから。


「おはようにゃ。もうご飯は出来てるから、早く起きるのにゃ」
「ううっ……分かった」


 俺が若干寝ぼけながら布団から体を起こすと唇に柔らかいものを感じる。キス、されているのだ。彼女からのいきなりのキス。一秒にも満たない時間だったかもしれないが、俺には三十秒にも一分にも感じられた。
 これが毎日のことである。いつも欠かさずにされてしまうのだが、慣れない。彼女曰く、返しても返しても返しきれない恩に対する恩返しなのだそうだが……如何せん、スキンシップが過剰すぎる。自分的に早く得だが、彼女が自分からやっていることなのか気になる。別に強要したりはしていないが、もし無理をしてやっているなら、やめてもらってもいい。ただ、見ている限りでは嫌がっているようには見えないから好きにさせている。


 俺はそんなことを考えながら、あらかた今日の準備をしてから下に行く。階段を下りると、目の前に広い庭が見える。それはよく老舗料亭で見ることが出来る日本庭園そのものだった。余談ではあるが、この広い家には俺と彼女しか住んでいない。俺の両親はすでに亡くなっている……さらに話はそれるが、俺の家系は代々このあたりの地域を収めてきた大地主だったが、突然俺の数代前の当主が誰かに売ったらしい。莫大な金額を対価に売ったという。今のその金は残っている。それも山のように。その金で俺は二人で生きていける。親戚に色々と言い寄られはしたが、両親が懇意にしていた弁護士の力を借りて守った。結局は力があればいいのだ。


 取り留めのないことを考えていると洗面台についた。まだうまく回らない思考を普段通りに戻すため、冷たい水で顔を洗う。
 洗い終わって顔を上げると、自分の顔が鏡に映し出される。よくありそうな普通の顔。イケメンの部類に入らず、かといって不細工でもない。そんな平凡な顔。ただいつも眠そうに半分閉じられている目で、それが吊り上っているものだから目つきは昔から悪かった。睨めば相手は大体萎縮する。そういう面では助かっているが、クラスメイトとかに怖がられるのがネックだ。
 ……早くご飯を食べよう。そう訴えかけているように腹の音がなった。


 居間につくとすでに彼女が席についていた。ちなみに和式なので座布団である。彼女は正座を崩して座っていたが、着物を着ているせいか様になっていた。


「遅いのにゃ」
「悪い、いろいろ考えてたら遅れた」


 彼女に急かされるようにして彼女の対面に座る。そしていつから続いているのか分からないが、昔からの習慣で日本だけの感謝をする。


「「いただきます」」


 ◯


 朝食を食べ終わると身支度をしてすぐに学校へ向かう。今はもう七時五十分である。自宅から学校までは歩いて三十分程度の道のりなので、結構ギリギリだったりする。
 その間に今は猫の姿になって俺の頭の上で丸くなっている彼女について考え始める。


 彼女の名前は黒歌。最初にあったときは黒猫の状態で瀕死の状態だった。あと少しでも見つけるのが遅かったら、彼女の命はなかった。……見つけた後、止血をして慣れた手つきで包帯を巻いていったのだ。何か特殊な傷だったのか、なかなか血が止まらなかった。数回包帯を変えた時ぐらいにようやく血が止まったことを覚えている。それに絡んで出血量が多く、危険な状態にあったが、何とか持ち直して安心して寝てしまった。そして次の日、目を覚ますと目の前に綺麗な女性が寝ていて思わず叫んでしまったことは仕方のないことだと思っている。
 ……とまあ、それからいろいろあって今に至るのだ。何だかんだでもう五年も一緒にいるのだ。同じ屋根の下に住んでいて間違いが起こらないわけがない。もう何回か起こってしまっているが、その後の関係は変わらなかった。むしろ、もっと親密になったと思う。


 いつも通りの眠たい表情で頭に猫を乗せながら通学路を歩いていく。学校に動物は禁止なのだが、特段守る必要もないため連れてきている。何度か注意されているが聞く気はない。それが伝わっているのか、先生たちも呆れ果ててもう何も言ってこなくなった。


 校門が見えてきた。俺が通っている学校の名前は私立駒王学園という。理事長はめったに顔を出すことはない。俺も入学式で一度見ただけだ。別に興味ないが優男だったという印象は残っている。
 本当は、県立の名門進学校に進みたかったのだが落ちてしまったため、すべり止めで学費もあまり高くなく偏差値も高い方だったため入学することに決めていた。だが、もともと女子高であったことを知らなかったため、女子が多いことに驚いたが俺の見た目からか避けられることが多かったりする。


 ポンポンと頭を叩かれた。視線だけを黒歌に向けると前を見ていた。つられて前を見ると珍しい組み合わせの二人が歩いていた。その二人を見て、周りの女子は悲鳴を上げている。一人は学園のマドンナ的存在で二大お姉さまとか呼ばれているうちの一人。赤く長い髪が目につく女子で俺と同じ学年でクラスメイトのリアス・グレモリーと、もう一人は別の意味で有名な人。学園内で最も嫌われている集団の中の一人兵藤一誠である。……とても騒がしい。頭の上の黒歌も自分の頭を体に埋めて、耳を覆っているように見える。そんな動作も可愛く思える。だが、あの二人が並んで登校することなんて関係ない。グレモリーの隣を通り過ぎようとするとグレモリーがこちらに視線を向けてくる。それに気づいた俺は、立ち止まってグレモリーを同じように見ると、彼女は気まずそうに目を逸らした。周りにまた関係を疑われるかもしれないため、すぐにその場から立ち去る。朝から面倒事に巻き込まれてしまったことに萎えながら、昇降口に向かう。頭の上で黒歌が慰めるようにポンポンと頭を叩いた。


 少し時間が進んで授業中。俺の席は窓側の一番後ろの席だ。まだ春先であるため、日差しも温かく段々と瞼が閉じてしまいそうになる。黒歌は俺の膝の上で丸くなって暢気に寝ている。羨ましい限りだ。俺は猫を学校に連れてくる代わりに色々と規制と約束に縛られている。例えば、定期考査で学年十位以内に入るとかが守らなければならないことだ。この学園はレベルは高いものの、もともともっと上の学校を目指していたこともあっていつも予習と復習さえやっていれば、問題はなかった。今となってはこの学園に入学して良かったと思っている。自分でもこうして過去を振り返ってみて、周囲の人を敵に回すようなことばかりしていて苦笑を漏らしてしまう。でもそれでも俺は構わない。俺には黒歌さえいれば……黒歌と後もう一人いれば問題ない。


 そんな普段考えないことを考えていると照れくさくなってしまった。俺はそれを誤魔化すためにのんびり寝ている黒歌の顎の下をかく。くすぐったそうに首を少し動かすが気持ちよくなったのか、そのままなされるがままになる。余程気持ちいいのか甘えた声を上げる。静かな教室で響かないか心配だったが、クラスメイトには聞こえていなかったらしく、黒板に書いていることを追いかけるように板書していた。
 少し調子に乗って黒歌の全身を撫でていく。そんなことをしていても学年十位以内なものだから周りからの視線や陰口は酷かったりする。けれども、俺には関係ない。出来ない奴が悪いのだから。それに、俺も勉強しないで考査に臨むような馬鹿な真似はしない。


 それでも中には例外も存在するのがこの世の常である。一人だけ、俺の席の隣の奴が他の奴らのように敵対心を丸出しに俺たちを見ない。個人的にこの学園内で一番面倒なやつのリアス・グレモリーである。
 グレモリーからは、疑いと憧れを感じ取れる。疑われているのは黒歌についてだろう。今は猫の姿で猫又であることを隠して、気配も仙術で隠している。だが、それでも微妙に漏れ出ているのだ。そういう気配とかに敏感な者でも感じ取ることは厳しいが、彼女はどうやら違和感を覚えているようだった。
 ちなみにグレモリーが悪魔なのは知っている。というよりも悪魔の象徴ともいえる翼だけを隠しているからか、気配は悪魔そのものである。それにあの変態とあと三人。


 しかし、憧れは一体なんだ。分からないが放置していても問題ないと判断したところで授業の終わりを告げる鐘が鳴る。
 ようやく昼休みとなり、机の上に広げていた教科書とノートを鞄にしまい、弁当を取り出す。大小二つの弁当を机に並べる。俺のは普通の二段弁当で黒歌の手作りである。黒歌は俺の好き嫌いを完全に把握している(といっても嫌いなものはないのだが)。その中から栄養バランスよく作ってくれることに何かしらの想いを感じる。
 猫バージョンの黒歌の弁当は俺のと量は少ないがほとんど変わらない。ただ、両手で持って食べられるようにしている。周りには器用な猫だと思われている筈だ。そしていつも静かな教室で食べる。食べ終わるのは当たり前だが、俺の方が早い。
 弁当箱を片付けると黒歌が俺の方を見て、手で弁当箱を押し出して口を開けて待っている。黒歌の言いたいことが分かった俺は、指でつまんで彼女に与える。それをパクリと食べると指までぺろぺろ舐めてくる。ネコ特有のざらざらした舌で舐められて少しくすぐったい。なんだか楽しくなって続けているとあっという間になくなってしまった。どこか残念に思いながら弁当箱をしまって黒歌にブラッシングをしてやる。黒歌はやさしめが好きだから丁寧に当てるようにしてすいていく。
 そんな昼休みが終わって、午後の授業になっても午前中とやることは変わらない。だるーく過ごして黒歌を撫でたりして終わる。ネコには退屈な時間だけど俺の膝の上から逃げ出したことは一度もない。黒歌がそれでいいと思っているのかもしれない。


 放課後。


 退屈な時間が終わってようやく解放された。特に部活に所属しているわけでもないから真っ直ぐに帰る。グレモリーが話しかけてきたような気がしたけど無視。カバンを持って赤髪の隣をそよ風のようにさらっと抜けて行く。廊下を歩いて、階段を下りて、昇降口で靴を履き替えて、校門から一番に出て行く。出てすぐ右に曲がる。そのまままっすぐ歩いてしばらくすると、頭の上で丸くなっていた黒歌が飛び降りるのと同時に人の姿になる。にゃああと声を上げながら、腕を上に付きあげて体を伸ばす。その際に悩ましい声を共に豊満な胸が揺れる。ここで変に反応すると黒歌が面白がってからかってくるため、反応しないようにいつも気を付ける。視線も向けない。
 だまって歩いていると左腕に軽い衝撃を感じた。彼女が抱き着いていた。歩きづらくはあるが、春先のまだ肌寒い風が気にならなくなる。心地よい温かさが学校にいてたまったストレスを溶かしていった。少しだけ頬が緩んだ。
 それを見てかどうかは分からないが、黒歌も嬉しそうに歩く。彼女の歩くスピードが上がって若干引きずられそうになりながらも彼女に並ぶように歩く。二つ繋がった影は長く道路に伸びていた。



 家に着く。鍵を開けて中に入ると、その玄関先に設置してある転移ポートが作動して、淡い光の中から人の姿が現れる。


「ただいまっ! 久しぶりに帰れたから帰ってきたよ!」


 そう言って抱き着く美女。黒歌とは違うタイプでツインテールや明るく天真爛漫な性格は少女を連想させるが、そんな見た目や性格とは裏腹に不釣り合いなほどに大きい胸。黒歌とほぼ互角である。服で抑えられてはいるものの、その存在感は大きい。それが俺に抱きついているものだから押し付けられてむにむにと柔らかく形を変える。その感触を楽しんでいると黒歌に頬を抓られて睨まれる。名残惜しいが離れてもらう。……っと、忘れてた。


「おかえり、セラフォルー」
「……! ただいまっ」


 まるで向日葵が咲いたような笑顔を向ける。そんな笑顔にピリッとした雰囲気も和んで俺も黒歌も自然に笑みが浮かぶ。


「早く晩御飯にしよう」


 そう提案した俺は、学校の鞄を隅においてキッチンに立つ。隣にはセラフォルーが立つようだ。いつもどちらかが手伝いで立っている。……作りながら隣のセラフォルーについてふと思い出していた。


 セラフォルー・レヴィアタン。最初は珍しい名字の外人だと思っていた。レヴィアタンと言えば、悪魔ということだったかな。そう疑問が浮かぶ程度にしか思っていなかった。いろいろインパクトの強いことがあって、出会った当時のことはあんまり覚えていなかったりする。これをセラフォルーに言うと拗ねちゃうから言わない。
 ……俺は彼女が悪魔であることを知っている。知ることとなったきっかけは、セラフォルーが新魔王で旧魔王派の悪魔に襲われていたところを助けたことがきっかけである。その時の旧魔王派の人たちには黒歌の力も借りて全員この世からいなくなってもらった。俺だってそこそこ戦うことはできる。
 その当時すでに友達だったが、悪魔であることを知られてもう会えないことを泣きながら言われた。俺はそんなことはないとか、曖昧で覚えていないけど黒歴史に匹敵するぐらいに恥ずかしいことを言って、彼女の顔を真っ赤にしたことを覚えている。……思い出したら恥ずかしくなってきたけど、そんな感じであったような気がする。


 昔を思い出しているとご飯が出来た。三人いつもの席について食べ始める。セラフォルーも食べるときは静かだ。そして食べ終わると黒歌がいれてくれた風呂に入る。またいうようだが、この家は広い。当然、風呂も広い。一人ではいるつもりだったが、結局三人で入ることになってしまった。湯船に浮かぶ双丘とかきめ細やかな肌とかちらちら見えていろいろと危なかったとだけ言っておく。


 後はテレビとかゲームとか勉強とかで時間を潰して、もう寝る。俺の部屋は二階の角にある。十畳の広い部屋に布団が敷いてある。一人で寝るには十分だが、いつの間にか黒歌もセラフォルーも布団にもぐりこもうとしていた。
 さすがに三人で寝るのはきつい。けれど、いつも一緒に寝てしまう。やっぱり、もう一人で寂しくないと思っていたけど、心のどこかで両親がいないことの孤独を感じていたのだろう。


「……温かいな」
「私の温かいのにゃん」
「私も。心の音もトクントクンって聞こえる。悪魔だけど、君が恋しいっ……」


 セラフォルーはさらに俺の左腕を抱きしめる。それを見た黒歌は嫉妬から無言の圧力をかけてくる。開いている右腕を軽く動かすとセラフォルーと同じように抱き着いてくる。そうして俺は二人の鼓動を聞きながら眠りにつく。


 これが俺の平凡ではないけど、平和な一日だ。そしていつも願う。


 ――――――こんな平和な日々がこれからも続きます様に。と。





 
 

 
後書き


いろいろあってISのプロットを纏めてなかったので、大慌てで埋もれてた短編の中からいけそうなものを修正して投稿。
すいません、ISの方投稿できなくて。そのかわりと言っては何ですが、この短編では何個か挑戦していたりもします。日常をかいたりとか、一人称とか。
次はISを投稿します。

ちなみに、この短編は連載する気はありませんのでご了承を。 
< 前ページ 次ページ > 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧