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本気になっていく恋

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第六章


第六章

「安いし美味しいしね」
「ケーキっていいわよね」
「そうそう、子供の頃一度でいいからお腹一杯食べたくてね」
「今それが叶ったってことね」
「そうなるね。それじゃあ」
「はい、これ」
 言ってその皿の上のケーキ達を見せるのだった。見せながらそのうえで自分の席に座る。そこは匠馬の向かい側の席である。
「これもどうぞ」
「悪いね、持って来てくれたんだ」
「私の好きなのばかりだけれどね」
 笑顔で自分の前にある小さな皿の上にモンブランを置く。そうして食べはじめる。
 その食べる笑顔を見てだ。匠馬は。
 思わずその手を止めてしまった。その時の麻美の顔は彼がこれまで見たことのないような愛くるしいものだったからだ。はじめて見る顔だった。
 麻美もそれに気付いてだ。ふと彼に問い返したのだ。
「どうしたの?」
「いや、別に」
「まさか顔にケーキのクリームついてるとか?」
「いや、それはないから」
 その顔の麻美に対しての言葉だ。
「別にね」
「そう。だったらいいけれど」
「うん、それでさ」
「それで?」
「今度は何処に行こうか」
 こう彼女に問うたのである。
「今度はさ。何処に行く?」
「そうね。そういえば今女子プロ野球はじまったじゃない」
「うん」
「それ、どうかしら」
 今度はそこでどうかというのだ。
「それでね」
「いいね」
 それに賛成する匠馬だった。
「それじゃあ今度はね」6
「そこに行きましょう」
 こうしてだった。二人でその女子プロ野球を観に行く。球場はプロ野球の球場と比べると小さい。だがそれでも満員御礼という状況だった。
 そしてだ。二人は何とか席に座って試合を観る。周りは本当に満室だった。
 それを見てだ。麻美は少し苦笑いをして彼に言ってきた。
「凄いわよね」
「そうだね。こんなに人気があるなんてね」
「阪神の試合より入ってるかもね」
 彼は楽しげに笑ってジョークを出した。
「ひょっとしたらね」
「そうかも知れないわね。広島市民球場よりもね」
 何気に二人共それぞれ別のチームのことを話に出している。
「お客さん多いかもね」
「甲子園もいいけれどね」
「そうよね。けれど東京ドームはね」
「ああ、あんなところ行っても何にもならないからね」
「そうそう」
 そして二人で東京ドームはいいというのである。
「あんな場所ね。どうでもいいわ」
「全くだよ」
「それにしても」
 東京ドームをけなしたうえで話を戻してきた麻美だった。
「何か試合面白くない?」
「そうだね、確かにね」
 実際にその試合を観てだ。匠馬も言うのだった。
「テクニカルな試合になってるわよね」
「あっ、ダブルスチールね」
 言っているそのそばからだった。一方のチームがダブルスチールを仕掛けてきた。
 それは成功だった。忽ちのうちにランナーが二人得点圏に来た。
 それを観てだ。麻美はまた言った。
「あそこでするなんてね。そうはしないわよね」
「そうだね。それに」
「それに?」
「ほら、相手だって」
 そのダブルスチールを仕掛けられた側だ。確かにピンチである。しかしそれでもだ。
 
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