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真面目は可愛い

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第四章


第四章

「それでだ」
「そう言われたのははじめてだ」
 唯は少し気恥ずかしそうな声になっていた。表情は変わらないがそれでもだった。
「今まではとにかくな」
「堅苦しいとか窮屈とかか」
「わかるか」
「わかる、聞いているからな」
 だからわかるというのだ。彼女がどう言われているのかをだ。
「しかし俺はそれでもだ」
「いいと思ってくれているんだな、僕を」
「そういう人間がいてもいい」
 比呂はこの言葉を出しながら上を見上げた。
「この世に一人位はな」
「そういうものか」
「思うのは人それぞれにしてもだ」
「僕みたいな人間でもか」
「卑下することもない」
 彼女のそれは打ち消した。
「卑下しても何にもなりはしない」
「しかし僕は実際に」
「少なくとも俺は御前のそうしたところはいいと思っている」
 また言うのだった。唯にだけかけた言葉だった。
「だから一緒にいられる」
「そうか」
「こうして二人でいても」
「二人か」
「御前はそれでいいか?」
 唯に顔を向けて問う。その背は一六〇ない。小柄というところではないがそれでも細身なので背丈よりもさらに細く見える。長身の比呂と比べるとかなりの低さだ。その彼女を見ながらの言葉だった。
「二人でいても」
「不純なことは嫌いだ」
 ここでも生真面目さは見せる唯だった。
「しかし」
「しかしか」
「健全なのはいい」
 それはというのだった。
「高校生ならそういうこともだ」
「いいというのだな」
「僕もだ」
 一人称はこれでも、だった。
「女の子だ」
「それはわかっている」
「それなら。恋、いや」
 この言葉は言ったすぐ側から打ち消した。頬を赤くさせて。
「何でもない。しかし」
「しかし?」
「君さえよかったら一緒にだ」
「こうしていてもか」
「頼む」
 今度は願いの言葉になっていた。
「君さえよかったらだ」
「わかった。それではだ」
 比呂は唯の言葉を受けてだ。静かに言葉を出してきた。
「俺も。御前さえよかったら」
「そうか」
「一緒にいてくれ」
 こう告げた。
「一緒にだ」
「お互い思うことは一緒か」
「そうだな。一緒だな」
 比呂は今は前を見ていた。顔を少し上げてそこにある青い空を見ながらの言葉だった。
 青い空は白い雲もあった。それを見ながらの言葉だった。ただ青いだけではない。しかしそれでもそこにある青を見て話をしていた。
「ならそれでいいな」
「そうだな」
「真面目は悪くない」
 比呂はまた言った。
「むしろだ」
「むしろか」
「いい。それではな」
「一緒に」
「歩いていこう」
 こう話をして二人で歩いていくのだった。林の中の道にいるのは二人だ。林の葉は全て落ち下には枯れ葉が積もっている。しかし二人の心は今は寒くはなかった。むしろ温かいものだった。
 
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