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素直は恥ずかしい

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第七章


第七章

「いいわ、それで」
「じゃあ僕はこれで」
「待って」
 立ち去ろうとする健次郎を呼び止める。
「何か?」
「その何かよ」
 何と若菜の顔が急に赤らんできた。そして健次郎を見る目も濡れてきた。
「あ、あのね」
「はい」
 健次郎は若菜のその急変に目を丸くさせる。彼女はそんな彼にさらに言う。
「佐々木君って、今付き合ってる娘とかいるの?」
 じっと健次郎を見て問い掛けてきた。
「彼女ですか?」
「そうよ。・・・・・・いるのかしら」
「それは」
 健次郎は素直に答えた。
「いないですけれど」
 そう答えはしてもどうして今若菜が自分にそれを問うてきているのかはわからない。
「そう、よかった」
 若菜はそれを聞いてほっと胸を撫で下ろしたようであった。
「いたら。やっぱりね」
「あの、会長」
 よくわからないまま本当に胸に手を置いて撫で下ろした顔の若菜に彼も問うた。
「それが何か」
「あるのよ」
 顔を赤くしたまま言う。
「それでね」
「ええ」
「私・・・・・・じゃ駄目かしら。あの、その」
 ここから先を言うのはどうしても勇気がいる。言わなくてはならないのに中々言えない。しかしその勇気を出した。若菜は言った。
「佐々木君の彼女に。なりたいのだけれど」
「会長が!?」
「ええ・・・・・・」
 こくりと頷いた。
「実はね、その」
 本当に普段の凛とした雰囲気も威圧感も何処にもなかった。まるで別人である。
「最初見た時から、その」
「ちょっと待って下さいよ」
 何か健次郎の方も訳がわからなくなってきた。
「僕に。告白って」
「駄目・・・・・・かしら」
 急に悲しそうな顔になる。
「私じゃやっぱり。佐々木君には」
「いや、あのその」
 今にも泣きそうな顔になったのでこっちが慌てふためいてしまった。
「そうした問題じゃなくて」
「駄目!?」
「いや、それは」
 何と言っていいかわからない。だがその言葉が出た。
「いいですけど」
「えっ」
 若菜はこの言葉を聞き逃さなかった。はっと健次郎を見やる。
「いいのね?」
「えっ、ええまあ」
 咄嗟に出た言葉だ。だげ消せはしない。
「僕なんかでよかったら。年下でもいいですよね」
「だって。好きになったから」
 その真っ赤になった顔で言う。口のところは両手で隠している。仕草もモジモジとしている。やはり普段の若菜ではない。本当に別の女の子のようである。
「そんなの関係ないから」
「そうですか。じゃあ」
 健次郎はあらためてここで問うた。
「何でここで」
「リサイクル室でってこと?」
「ええ、何か僕がここに来るのを待ってたみたいですけれど」
「それはね」
 まだ顔は真っ赤なままであった。
「学校でこんな話があるの」
「学校で」
「リサイクル室に二人で三回入った後告白すれば願いが必ず適うって」
「そんな話があったんですか」
「そう、それで今までずっと」
 何かと理由をつけて二人でここに来たのである。それがようやくわかった。

 
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