RAINY GIRL
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第一章
第一章
RAINY GIRL
会いたくはなかった。けれど会ってしまった。
正直姿を見た時しまったと思った。別の場所に行こうと思った。
けれど向こうも僕に気付いて。目と目が合ってしまった。
「あっ・・・・・・」
「やあ」
バツの悪い顔で言葉を返した。
けれどそれ以上は出なかった。出せなかった。
それで戸惑っているとだった。彼女の方から言ってきた。
「あの」
「あの?」
「一緒になりたくはなかったわ」
こう言ってきたのだった。
「今日は」
「そう言うんだ」
「だって」
僕から慌てた素振りで顔を背けてだ。そのうえでの言葉だった。
「今日は。あんなことがあったから」
「そうだね」
僕も彼女の今の言葉に頷いた。今日僕達は喧嘩した。そのことを雨の中で思い出した。僕達は今駅のプラットホームにいる。学校帰りの駅のホームに二人だ。線路は濡れていてそこに雨が降り続けている。雨は強くないけれど止む気配はない。透明な雨がしとしとと降り続けている。静かに。
その雨を見ながら思い出していた。僕達の喧嘩のことを。
些細なことだったけれど言い争ってだ。彼女は遂に泣きだした。クラスの中で派手に泣きだした。
理由は詰まらないことだったけれどそれでも泣いてだ。周りもあれこれ騒いで大騒ぎになった。僕も彼女もそれからずっと口を聞いていない。
そのまま学校の授業を終えて帰るその時にだ。ここでばったり会ってしまたというわけだ。奇遇と言うべきかタイミングが悪いと言うべきか。
その彼女と会ってだ。僕は雨を見ながらそのうえで話すのだった。
「あのさ」
「ええ」
「喧嘩したのはさ」
「お互い様ね」
彼女も前を見ている。その雨を見ながらの言葉だった。
「それはね」
「お互い様なんだ」
「けれど。私がつい」
そして言ってきた。
「泣いてしまって」
「いいよ」
僕はそれについてはこう返した。言っても仕方ないと思ったからだ。過ぎたことをあれこれ言うのは好きじゃなかった。本当に今更だった。
「そんなことは」
「そう言ってくれるの」
「だからいいよ。それよりさ」
「それよりも?」
「電車まだ来ないよ」
話を変えた。そちらにだ。
「まだね。来ないよ」
「そう、来ないの」
「うん、十分はあるから」
十分はある。立って待つには少し辛い時間だった。
「どうする?座る?」
「そうね」
前を俯き加減に応えながら言ってきた。
「それじゃあ」
「うん、じゃあ」
こうして僕達は後ろにあるプラスチックの、駅のホームには何処にもある席に並んで座った。ここでやっと傘を畳んだ。傘の水はかなり落ちていた。
その傘を畳みながら。僕はまだ前を見たまま彼女に言った。
「今日はじめて話したかな」
「いきなり喧嘩したから」
「そうだったね。はじめてだね」
彼女の言葉に応えて述べた。
「思えばね」
「そうね。それにしても」
「それにしても?」
「嫌な一日だったわ」
こう言ってきたのだった。
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