| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

バカとテストと白銀(ぎん)の姫君

作者:相模
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第二章 彼と彼女の事情
  第十二話  彼女の事情

 
前書き
8,5話と授業内容が交換されています 悪しからず…

更新しました 

 
第十二話

____11:00 旧校舎四階空き教室____
Fが拠点代わりにしている空き教室に戻ると、そこには姫路さんの姿なかった、恐らく渡り廊下に出ているのだろう。
姫路さんが渡り廊下にいるだけで、攻撃を仕掛ける側に大損害が出ていることは、Bクラスとしては忌忌しき事態だろう。
どうにかして彼女をあそこから切り離そうと躍起になって、島田さんに対しての工作と似たようなことは行ったに違いない。
(吉井の怪我といった偽情報で、聡明な彼女が持ち場を離れていたりしたら呆れますが……そんなことになっていたら、この拠点は一挙に壊滅しているはず。)
「姫路さんは渡り廊下でしょうか?」
「司令!それに副官も!ってあぁはい、姫路副官は渡り廊下ですよ。」
「ありがとう。藤堂君、目立った情報や本陣から何か要請などありましたか?」
「今のところ本陣からは「飯を早めに食っておけ」が来たぐらいです。MFの残存からの情報はCが異様に一階とCクラス本陣に兵力を集中させているということぐらいでしょうか。こちらは土屋の情報ですが、Bは一旦補給を重視する模様です。」
「なるほど、こちらの回復試験は順調かしら?」
「はっ、指示通り撃破した相手の部隊にくっついてきている教師にそのまま回復試験を頼んでいます。得点の低下はなんとか食い止めていることだと思いますが代表しか正確なことは言えないと思います。」
「ではそのままお願いします。(わたくし)は一旦渡り廊下に向かい、姫路さんの援護に入ります。秀吉君はこちらの守備に戻ってください。藤堂君は私の居なかった間の報告をまとめてください。回復試験を受けていらっしゃる方はもう少し時間をかけて頂いて構いません。」
「了解じゃよ、皆頼むぞ!」
「「イエッサー!!」」

後で貰った報告書によると、姫路さんも何度か休憩に空き教室に戻ったようだがそれを聞きつけたBが、姫路さんが留守にする度に来襲してきたらしい。来襲の報告を聞く度に、何度も前線に緊急発進(スクランブル)を姫路さんはしていたということだ。
姫路さんは人よりも体が弱いと聞いている。
こんな風にろくに休みが取れていないせいで、疲れが早くに出て隊長を崩したりしないだろうか。
やはり一度、前線から姫路さんを後退させるべきだと僕は思った。

そのタイミングは僕がフルタイムで渡り廊下を警戒して、残りの兵力で旧校舎の階段を防衛する時であろうとも。
今朝から今に至るまで、姫路さんには抑止力としての重要な布石となっている、というよりも火力不足のFクラスにとっては虎の子と言っても過言ではない。
「昼休みがあればそのタイミングで休ませるのですが……」
教室を後にして渡り廊下の方に歩いていく、渡り廊下の方から叫び声が聞こえていたら走っていくつもりだが、幸い今は敵の攻撃は止んでいるらしい。


そもそも試召戦争では昼休みなど存在しない、もし休みができるとしたらそれは停戦協定が成立したときぐらいだ。
こちらからは姫路さんを後退させて全兵力で一点突破という強硬手段に出れないことはない。(相手がBC連合でもだ)
だから、僕としては停戦協定なんて悠長なことはしたくない。
あるとすればBから提案があるときぐらいだろう。
そしてその相手が相手だ、停戦協定を結んでくるとすれば同時に何かしらの作戦を立てているということに通じるだろう。
相手の立案してくるであろう作戦、それが予測できれば当然カウンターを効果的に行うこともできるだろう。

停戦協定で得することなど高がしれているし、こちらに最終的にダメージになることと言えば、停戦中にBクラスの持ち点が圧倒的に増えること(ほぼあり得ないことではある)、教師を呼びに行くときに邪魔に会わずに済むようになるだとか、もし昼休みに停戦があるなら部隊移動をほかのクラスの生徒たちの中に紛れ込ませて移動させるとか、ならこちらも把握していない場所から強襲を掛けることができる……ぐらいではないだろうか。
様々なことに考えを巡らせていると、すっかり渡り廊下の近くに着いていた。

このことに不思議に思うかもしれないが、この文月学園全体の総面積は普通の公立高校の軽く二、三倍ある。
学力低下を食い止める為の有効な手段として注目を受けている試験召喚システムを取り入れている試験校として、国から莫大な援助を得ていることで可能としている。
学外の評価に過敏に反応しなければならないが財源的にはかなりの余裕があるらしい。
旧校舎一つだけであっても、普通の公立高校の全生徒が何ら苦無く勉学に励むことができるであろう。(ただし教室設備の話はしない)
そんな巨大な二つの校舎を唯一行き来することを可能にする渡り廊下は、空き教室から見れば一つの校舎の端から端へと移動するほどに時間がかかるわけで。走るのがばからしくなってくる。

さておき、視界にようやく特徴的なふんわりとしたウェーブがかかった髪の女の子や、彼女を中心として渡り廊下を警備しているクラスの連中が見えてきた。
何人かはこちらが声をかける前に敬礼してきたのだが、姫路さんは真剣そのものの眼差しで廊下の向こうを睨んでいた。
新校舎側の階段は、旧校舎側から見れば渡り廊下を進んで少し進んだところの左にある。
前回は奇襲作戦をこちら側から階段を使って仕掛けたが、今回は防戦一方であるため、逆に階段から敵が来ることに神経を尖らせなければならない、とは言えそこまで気張らなくとも。
「瑞希さん、こちらの戦況はどうでしょうか。」
「千早さん!いえ司令と呼んだ方がいいですか?」
まさか姫路さんにまで司令だなんて言われるとは思いませんでした。
「……千早でお願いできますでしょうか?」
「分かりました、でも今では空き教室のことを丞相室なんてみなさん言ってますよ?」
「誰ですか、三国志を持ち出してきたのは……。本陣は屋上なんですから司令の称号も代表にこそふさわしいのではありませんか?」
絶対代表が僕を呼ぶときに使う参謀が軍師に変わって、さらに軍師から劉備の軍師先生が思い起こされての呼び名に違いない。もしそうなら丞相府ときちんとしていただきたいものなのだが。
「そうですか?代表の英訳をcaptainかgeneralにすると参謀って副長のcommanderとかになるとすれば司令っていう解釈は間違いじゃないと思いますよ?」
はい一切間違ってません、というよりもよくそんな受験に関係ないことまで知ってるものだと感心してしまう。
何だってそんなミリタリなことを知っているんですか・・・・
僕はといえば引きこもり時代に(日本語以外にも)いろんなジャンルに手を出していたのでそんなのを聞きかじったことはあるのだが。

「こほん。それで、前線はどのようになっていますか?」
「えっと、そうですね。」
気を取り直して質問すると、姫路さんは頭の中で今までのことを整理してくれた。
「Bクラスの方たちが何度も攻めてきましたが、囲んでは叩く、の繰り返しで今のところは撃破できています。得点もまだまだありますし、熱線もまだ使っていませんし大丈夫ですよ。」
そう言う姫路さんはこれまでに12名ほどを補習室送りにしたこと、味方の損害が当初の予定よりも上回っていることを報告してくれた。
僕からはさっきの島田さんが人質にされたという一件と(話始めたときは大層不満げであったが、話が進んでいくうちに苦笑いに変わった。)Cクラスが宣戦布告後から新旧両校舎のあちらこちらが封鎖され始めていることを伝えた。

「Cクラスの小山さんとはどういう関係なんですか?」
そう問いかけられて僕はどう答えていいものなのか困惑してしまった。この前の一幕を姫路さんもまた見ていた一人なのだから、「あんな方の事なんて、知りません」とでも怒って見せるべきなのだろうか。
「済みません、仲は悪くないんですよ?この前のは少々お互いの考えが食い違っただけなのです。」
ひとまず嘘ではないことを告げると姫路さんは更に困った顔になった。
「だから小山さんも遠慮して前線に部隊を送ってこないんですね、Cが参戦したって聞いたとき、渡り廊下の突破を連合として一気に仕掛けて来るんじゃないかって予想してたんです。でもそれが無かったのはどうしてなんだろうって思ってたんです」
やっぱり副将に姫路さんも加えていて良かったみたいだ。
女子の指示を聞かないであろうものはFクラスにはまず居ないという考えからの考慮だったのだが、それ以上に姫路さんにやる気があって引っ張っていてくれているようだ。
「もう少し戦線が鎮静化したら、代表と相談して軍の再編成を行います。いよいよ反転攻勢にでますよ。」
「ついにですね!なら、出きるたらでいいですから……その、あの。」
小さな声でつっかえながらささやき掛けてくる姫路さんの手は完全に空に“の”の字を書いているのではないだろうか。
「済みません、まだ確約できないのです。」
「そうなんですか……ってまだ私、まだ何も言ってませんよ!」
言って無くともさっきの救出劇を聞いておいて自分は全くのノーリアクションなんか耐えられないってところなんでしょう、だなんて本人には言えませんからね。
馬に蹴られるのはゴメンですし、ラブコメは自分に関わりないところで発展してくれることは大いに結構と思う僕としては、面白半分で近くに配置してもいいかなとは思っているのだが……
「適材適所って申しますし、中国のとある朱子学者も「君子の其の職に居る者も、また其の職を尽くすのみ。」と言っております。私は腕輪がなければ攻撃よりも防御型ですが、瑞希さんの大剣は俊敏さに目をつむれば、攻防ともに良くできるので、どこにでも配置したくなるのです。作戦では所持者の得点だけでなく、その装備や特性もまた戦略の一環として考慮しているので、瑞希さんを何処に配置し、誰と組むのかなどというのは一番難しいのですよ。」
嫌みったらしい言い方になってしまった気がする。
「えっと……はい、分かりました…」
とは言え、心底残念そうな姫路さんに一抹の希望を見せてあげてもいいだろうか。
「でも瑞希さんのご要望に添えるように、なるべく努力はしてみますね。」
その言葉にぱっと顔を輝かせる姫路さん。
なんだろう、もし彼女の要望が通せなかった時のことなんて考えたくないな、これは。
今にも飛び跳ねそうな勢いで舞い上がっている姫路さんに、あくまでも努力するだけで、確約は出来なということを理解しているのかどうか少々怪しい、もし近くの部隊に配置できなかったらなんて結果になったとき、とんでもない結果になって跳ね返って来そうだ。
「努力しますよ、えぇ、しなきゃならないんです。」
とてつもない精神的な疲労を感じながら僕は既に新しい布陣案を頭の中で描き始めていたのだった。


____11:30 某所______
「Cクラスの参戦に礼を言うよ。」
Bクラス専用の自習室に男女の一対の影がさす。
防音に優れ、おまけに隠れる場所などない。
この男がよく使う密談に最適な場所の一つだ。
「皮肉かな、私は恭二のBなら独力でもいけそうだと思っていたのよ。第一Fクラスで強いと言っても姫路さんだけなんでしょ?何でそんなに手こずってんのよ。」
氷点下の声で悪態をつく女の前に何枚かの写真を並べながら、男はそんなものに構わずにいる。
妃宮(きさきのみや)に早くから注目していたのは友香だろ。本当は大分前から分かってたんだろ?妃宮が重要人物だってことを。だから懐柔もした。どうだ?」
「………………」
男は自分の問いかけに対して女が黙りこくってしまい、何も答えないのに不満げではあった。
しかし、思い返せば何と返してくれても意味などなく自分の好奇心しか満たされないだろうと思い直す。古人の言うとおりだろう
「沈黙は金、多弁は銀だというが、まぁいい。Bは13:00(ヒトサンマルマル)に総攻撃を仕掛ける、Cも手伝ってくれ。」
「……分かった。二部隊ほど送るわ。」
女からようやく返答が返ってきたの受けて、男はにやりとその口元を歪めた。
「それはありがたいね、友香の心がよく分かるよ。大好きな千早さんと戦うなんてとても出来ないってねぇ?」
「千早さんは関係ないじゃない!!」
机を叩きつけて抗議の意を示す女に対して男は制服の内ポケットから財布を取り出し、その中の一枚の切り札を女にちらつかせる。
そして女もまたその切り札が何かということをよく知っていた。
「まぁ、もう少し友香が融通してくれたら俺は“これ”をばらまかなくて済むし、友香も恥ずかしい思いをしないで済むと思うんだけどな?それよりも、その“大好きな千早さん”にこれをプレゼントするって言うのはどうだ?」
目の前でひらひらと上下に揺らされるL版の用紙。
そこに印刷されている写真と男の挑発的な顔に、彼女はこれ以上ないほどの屈辱を味わされる。
手を伸ばしたところで奪い取れないのは既に実証済み、いくら運動能力が高くとも無理だろう。
そもそも奪い取ったところでデータは彼の手元にあるのだし、第一に男の手にある写真がそれ一枚だという保証など更にない。
女にはそれだけを考えられる頭があり、逆に男もまたそれを十分に分かっていてやっているのだ。
あくまでも男の手の内にある主導権には逆らえず、従順にしなければならないと理性では理解できている。しかし怒りは高まる一方で。
彼女の唇が悔しげに曲げられ、怒りの余り肩がわなわなと震えていることを彼女は自覚していない。
それを興味深げにのぞき込む男の顔は喜悦に緩んでいる。
「……一階に展開中の二部隊を階段から直接屋上へ、三階に展開中の二部隊と私の本陣まるまるで四階渡り廊下へ行くって言うのでどう?」
唸り声ともつかぬ声のまま、そう言い切る彼女に男はわざとらしく顔をしかめる。
「友香、俺は何も友香のクラスの設備が落ちることなんて望んでないんだ、だから友香はBでゆっくりしていていいんだよ。」
「私だけのうのうとしているのにクラスのみんなには突撃しろ、だなんてそんなの私には無理よ!!」
机を叩きつけるぐらいしかその腹立ちをぶつける先のない彼女は、既にその手が真っ赤に染まりつつあった。
「それまた素晴らしい義侠心をお持ちだ。分かった、それなら直接指揮をとって貰おうじゃないか。ただし俺のところの奴らにも見張らせるからな。」
「結構よ!!だから、それをいい加減それを捨ててよ!」
「もちろん、戦争が終わったら友香にあげるつもりだよ、勝利の引き出物としてな。」



____11:45 旧校舎屋上_______
「代表、敵襲の周期から考えるに恐らくBクラスの次の大攻撃があるとすれば12:00だと思います。」
「そうだな、俺もそれが妥当だと思う。」
俺のところにようやく報告に顔を出した参謀を労うまもなく、次のBの攻勢に耐えるべく再編成についての会議をしていた。
我がクラスの誇るべきバカどもは、自分たちでは作戦だなんてめんどくさいものは考えたくないから俺と参謀に全体を通しての戦略に関しても俺たち任せな為、二人の相談だけでとんとんと作戦は決まっていく。
今、地図上ではBとCの代表のマークが重なっているのは恐らく何か密談でもしているからだろう。(一応だが俺のマークは屋上にある)
ワンマンなBと代表と何人かで組織される士官役の奴らで試召戦争を遂行するというC。
水と油なそれぞれの組織形態だが、合力されると困るんだよな。Bクラスの切り崩しは今のところ失敗している様に見える。
はてさて、全員打ちのめさないといけなくなるのだろうか?
「参謀は階段封鎖にどれぐらいの人数がほしいんだ?」
「そうですね、科目にもよりますが討ち漏らしを無くすなら15人、逃げても構わないのでしたら7人と言ったところです。まだ台場はありますよね?」
台場というのは、味方の頭の上すれすれを通って相手の召喚獣に機関銃の攻撃を当てるために机を並べてその足やらテーブルを固定して安定させ、その上に遠距離攻撃が可能な召喚獣を乗せるという至極単純なもののことをいう。
参謀の召喚獣の装備している機関銃に限らず、試召戦争では味方を間違えて攻撃した場合でも点数は削られる。
つまり、参謀ほどの攻撃力を持つ召喚獣の攻撃をFのバカどもが食らうと一気に戦死者が発生することになるため、それを減らす為に元からほかの召喚獣よりも高い場所に陣取らせるという苦肉の策なのだがこれのおかげで敵の第一次屋上突入作戦(総勢13名)を参謀がほとんどいなし、他の奴らのうち何人かが打ち漏らしをシバき回しただけで、撃退したという戦果を挙げている。
ちなみに台場というのは江戸時代に幕府が海防の為に海岸付近に設けられた埋め立て地に大砲を並べたという故事に習っている。
(ただし、こっちの本家は実際には活躍する機会はなく、戦略的な意味を成していないが)

「もちろんだ。それにしてもお前の後ろにいたアイツら、お前の召喚獣までロングスカートなのを血の涙を流すほど悔しがっていたぞ。」
つい漏らしてしまった男どもの秘密に、参謀は顔をおもいっきりしかめた。
「………一応、ですが。彼らは“召喚獣まで”ということは私に対しても覗きをしようとしていた、という事でしょうか?」
無駄に聡いとはこういうことを言うのだろうか。
いつもなら完璧に素顔を隠しているのがろうが、今その顔はひきつり、心底ドン引きしている参謀には絶対に言えない、低アングルから参謀のスカートの中の偵察写真を取ってこいとムッツリーニに命令を下していたことなど。
そして、その召喚獣の着ているロングスカートの中もまた、またあらゆる角度から撮影を試みても下着がついに見えず、二人男泣きしたことなど。
ちなみにムッツリーニ曰く、一回だけたまたま成功した写真は以前妃宮(きさきのみや)の家に行ったときに取り上げられたデジカメでのみ撮影に成功したらしいのだが、バックアップを取る前にマイクロカードごと没収されたらしい。
「参謀、部下の責任は俺の責任か?」
「そのようなことは申しません。ただお答え頂ければそれで構いません。」
下手な答えを返せばたちまちの内に自分にまで飛び火するだろう。
「……代表、見損ないましたよ?」
俺はただ土下座してみせる、上から降ってきた参謀の声はいつものソプラノの声ではなくアルトに変わっていた。

だが俺は男として間違っていないと断言しよう。

_閑話休題_

「じゃあ7人で一時間を耐えきる自信はあるか?」
「15人を上回らなければ1時間でも耐えて見せます。しかしそれを上回った場合、その時はBC連合として相手が攻め寄せてくる公算が大なのですが、(わたくし)の戦死を代償にしてくい止めるとしても10分が限界だと思います。」
「お前に抜けられると色々面倒そうだ、一応10人を振っておく。残りは渡り廊下側につぎ込むで良いか。」
そう言いながら俺はノートに割り振りをメモしていく。
こうでもしないと覚えきれないというのと、視覚化したほうが物事は考えやすいという明らかなる法則からだ。
「………今帰った。」
「土屋君、お帰りなさい。何か収穫はありましたか?」
頷きながら俺に三枚のメモを渡してきた。
そしてそこには次のようなことが書いてあった。
「BCは連合で13:00(ヒトサンマルマル)から渡り廊下、階段を強襲する模様。渡り廊下をC19名B13名指揮はC代表小山が取る、階段側はC14名B19名。指揮はBの浅井(あざい)氏が取る模様。」
「浅井氏が寝返る公算は大。ただし戦況がF有利でなければ裏切りたくともできないとは浅井氏の言葉。」
「根本は12:00から13:00まで停戦協定を結ぶ腹積もり。」
最後にもう一枚のメモは妃宮に渡したのが気になるが、メモに目線を落としながら「個人的に頼んだものです」と参謀に顔も上げずに言われ、あげくそのメモを切り刻んでスカートのポケットに突っ込まれたのだから手出し出来ない。
仮に手を出したものなら俺は、彼女の優秀な弁護士軍団の手により恐らく退学か少年院にぶち込まれることになるだろう。
「正直に、ってそれは無理な相談ですよね……。」
遠くの方に顔を向けている参謀(きさきのみや)は、そんなことをボヤいた。
いったい何が書かれてあったのかと思い情報提供者の方を見ると首を振られた。
土屋(ムッツリーニ)の方に向き直り、頭を深々と下げる参謀の姿はあまりにも優雅であった。
「土屋君、ありがとうございます。今は何もお礼など出来ませんが、今度何か焼き菓子でも差し上げますね。」
「………(プルプル)」
「ムッツリーニ、お前は何だって震えて……あぁそうだったな。」
そう、彼こそがあの化学兵器料理の第一被害者であった。
俺もあれを口に入れたおかげで、六文稼ぐまでは返さないと鬼に追いかけ回されていたのを、参謀に助けられたのはイヤな記憶の一つだ。
(第六話参照)
それ以来、姫路さんが何らかの形で料理ネタを言い出したとき真っ先に姿を消すようになったというほどのトラウマ加減だ。
「きちんと土屋君の前で、私が食べて見せますからそこは安心してください。」
「…………期待している。」
その言葉に安心を見せるムッツリーニを哀れとみるか、それとも生物学上での進化において順当な反応感覚を習得したとみるべきか。

「代表の方のメモはかなり役に立ちますね。とは言え私たちが若干有利程度にしか戦況を動かしていないのはしんどそうですね。」
俺のメモを参謀に見せると最初にそう切り出してきた。
「私は昼休みの停戦を受け入れるべきだと思います。」
「そうか、俺もそう考えているが参謀の考えをまず聞かして貰おうか」
どうせ同じ様なことを考えているのだから答え合わせをするような感覚で聞くと想像通りというべきかやはりと言うべきか。
「まずは敵戦力を渡り廊下と階段の二カ所に一気に誘引することが出来、今はあわよくばですが浅井さんを寝返らせる絶好の機会となります。これらが一番の理由です。二番目に姫路さんに疲労がたまりすぎていると思われるからです。」
「姫路か、そういや朝から張り切っていたからな……。ん、じゃやはり受け入れた方がいいか。ところでそろそろ軍使が来るころか?」
時計をみると十二時を指そうとするところであった。
「代表!司令!Bクラスから軍使が来ました、通しましょうか?」
「通せ。」
「はっ!」
やってきた生徒は小野と名乗り、昼休みとして12:00から13:00まで停戦しないかという旨を言ってきた。
あくまでも昼休みであり、回復試験も行わない。というのが向こうの言い分だ。
既にムッツリーニから聞いていた内容ではあるが、ここは初めて聞いたという体で軍使の前で参謀と寸劇を演じるのことにしていたのだが。
(わたくし)は反対します。相手の方の戦力をようやく削れてきたというのに、回復試験のテストに割り振られるなどしたらどうするのですか。第一、そもそも相手が必ず約束を守るという保証はあるとお考えですか?」
淡々とした口調で俺に対して詰問口調で問いかけてくる参謀はなかなかの迫力があり、こいつの本心かと疑いそうになる。
「お前はまだ知らないかもしれないが必要ならば教師に監視させることも出来る。そして教師が仲介に入った場合、この約定を破った場合ペナルティを発生させることも出来る。」
俺が強い口調で返すと参謀はすこし言い淀む。
「そうであるならば二つ返事で承諾と返さないでください、せめて階段にいらっしゃる武藤先生に仲介して貰ってください。」
「わかったわかった、じゃ武藤を呼んできてくれ。俺はこいつと内容を詰めておくからな。」
「………畏まりました。」
無表情に屋上から階段室へと消えていく参謀を見送りながら俺は努めて明るい口調でこの軍使と取り決めを交わし、そして武藤の仲介の承認を得たのだった。

___12:05____
停戦協定発動
___12:10____
土屋康太、Dクラスへ書簡を送り、代表の返信を受け取り屋上へ帰還。

___12:28 旧校舎屋上___
「雄二、妃宮さんごめん、作戦練ってるときにこんなところまで連れてきて。」
僕はその時二人を屋上に呼び出していた。
「明久、何があってそう慌ててんだよ。」
「代表、詰問口調はこんなときには相手の心をかき乱すしか意味がありませんよ。」
僕はFクラスの戦争遂行においての首脳陣相手に大きく出られるほど活躍してないし、また大きく出ることは出来ない。
でも、姫路さんのことはどうしても守りたくて二人をここに連れてきたんだけど、受け入れてくれるだろうか。
雄二が投げやりに、若干あきれた感じで問いかけてきて、それに対して妃宮さんが冗談めかして返答しているのをみて何となく心がほぐれた。
なんだか僕の言いたいことがすでに分かっていんじゃないかと思うほどの連携だ。
「実は………姫路さんのことなんだ」
二人の様子を窺うと黙って続きを言えと急かしてきた。
「停戦後の戦いなんだけどさ、本陣守備の予備戦力ぐらいに出来ないかな……もちろん埋め合わせには僕が可能な限り入るよ。」
「訳をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
妃宮さんが困ったように尋ねてきた、やっぱりそうだよね。
妃宮さんはそれ以上に強いけど参謀なんてしてるから姫路さんが僕らの主力になっているのは重々承知している、でも。
「………ごめん、どうしてもいえないんだ。こんなの作戦妨害に近いことだって分かってるけど、お願い、どうにか出来ないかな」
そういって頭をコンクリートの床にすり付ける。
姫路さんがアイツに脅迫されているなんてどうして言えるだろう。
もし僕が聞いていたことをアイツが知れば、容赦なく見せしめにするだろう。
そんなこと、絶対にさせるものか!
しばらく僕は白い床の一点だけを見つめていた。
「個人的にはFのみなさんに発破をかける為の好材料と考えますが、作戦においては彼女に抜けられる損害は大きすぎると考えます。損得は(わたくし)に取っては同程度と考えます。私は彼女が予備戦力にすることに反対はしません。」
妃宮さんの凛とした声が耳に響く、どうやら決定は雄二次第らしい。
こんな野郎に頭を下げるのなんか癪だが、こいつの頭は神童と呼ばれていただけあって冴えてるときは以上に冴えわたる。
こいつが動いてくれるからFクラスは纏まっていると言っても過言じゃない。
「明久、お前停学処分を喰らたても俺を恨まないだろうな?」
「もちろん!」
にやりと笑い、何か案を思いついたらしい雄二と、どうして停学だなんて単語が出てきたのか首を傾げる妃宮さん。
とんでもなく危険な仕事をさせられそうだが、こうなったら背に腹は変えられないとか言う奴だ。
「姫路の分も働け、それなら出来るぞ!」
「ありがとう!」

妃宮さんは気づけば一歩引いて僕らのことを見ていた。
「まさかお互いの額に拳銃の突きつけ合いをするような対戦になるとは思いませんでした。」
そう呟いた彼女は全く普段通りで超然としていた。
「作戦は追って指示します、今は教室に戻って何もないことをアピールすることです。」


次回、恨みと破壊と写真集

遂にBクラス戦も終わります。
 
 

 
後書き
物理

質量99M長さLの木材を固定している。
質量Mの弾丸を速さVで木材に撃つ実験を行ったところ深さdまで入り込んで止まった。
抗力の大きさを求めよ
ただし、弾丸は水平線上を進み、木材から受ける抗力は一定である。

妃宮千早の答え・運動エネルギーが摩擦熱に変わると考える。
摩擦熱は(抵抗力)×(距離)で与えられるから、エネルギー保存則より
1/2MV^2=Fd
F=MV^2/2d

教師のコメント
完璧です、運動方程式でも一度解いてみてくださいね。

吉井明久の答え・100MV

教師のコメント
真面目に答えようとしてくれたことに敬意を表します。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧