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メイクアップアーチスト

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第二章


第二章

「全部貰ったのよ」
「買ったんじゃないんだ」
「気前のいい会社だからね。それでね」
「うん、それで」
「今から見せてあげるけれど。私のメイクアップ」 
 こう夫に対して言うのである。
「よかったらどうかしら」
「見せるって奈緒ちゃんがメイクアップするのかい?」
「私もね。それで一郎君もね」
 彼もだというのだ。彼女は自分の夫を君付けして呼んでいるのである。
「そうしてあげるけれど」
「僕がメイクアップって」
「最近じゃ男の人もお化粧するじゃない」
「まあね。そういえばそうだけれどね」
「だったらよ。いいわよね」
「いいわよねって。時間かかるんじゃ」
「ああ、それは大丈夫よ」
 また笑って言う妻であった。
「それはね」
「大丈夫って?」
「私のメイクは時間がかからないのよ」
 だからだというのだ。
「だからね。大丈夫よ」
「時間がかからないって」
「一瞬で終わるから」
 こうまで言うのだった。
「一瞬でね。いいわね」
「一瞬って」
「今からするから。それじゃあね」
 そのバイオリンケースを床に置いてそのうえで開いてだ。早速はじめるのだった。
 まずは夫にだ。立ったままの彼にそのままはじめた。まさに一瞬だった。
 それが終わるとだ。こう言ってきたのだ。
「はい、これ」
「ああ、鏡か」
「そう、見て」
 手鏡だった。それを出してきたのである。
「これでね。よく見て」
「ってこれが僕!?」
 そこにいたのは目も唇もはっきりとして眉の形もいい美男子だった。眼鏡は外され神はオールバックになってだ。顔の色も白く奇麗なものになっている。
 鏡に映るその顔を見てだ。唖然となっていた。
「全然別人じゃない」
「そうでしょ、別人でしょ」
 くすりと笑って言ってみせる妻だった。
「奇麗でしょ、本当に」
「奇麗っていうか本当に」
「別人って言うのこれで二回目よ」
「じゃあ違う僕がいる」
 こう言い換えた。咄嗟にだ。
「鏡にね。これでいいかな」
「いいわよ、それで」
 妻もそれでいいと返すのだった。
「それでだけれど」
「次は奈緒ちゃんだよね」
「そうよ、私よ」
 笑顔で応える奈緒だった。そうしてだ。
 すぐに自分の鏡に向かいだ。化粧をはじめた。それも一瞬だった。
 そしてそこにいたのはだ。別人だった。
 どの女優にも勝てるようなだ。その美女がそこにいた。自分の妻には見えなかった。
「おい、誰だよ」
「だから奈緒よ」
 笑って返す彼女だった。
「見てわからないかしら」
「別人にしか見えないよ」
 唖然とした顔で返す一郎だった。
「本当にな。誰なんだよ」
「そこまで変わってるの?」
「ああ、別人だよ」
 唖然とした言葉はそのままだった。
「本当にな。誰なんだよ」
「凄いでしょ、このメイクアップ」
「凄いなんてものじゃないよ。僕だってさ」
「そういうことよ。いいでしょ」
 満面の笑顔で言う奈緒だった。
 
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