水中花
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第一章
第一章
水中花
山中健はある日坂本奈々にこんなことを言われた。
「湖の中にお花があるんだ」
「はい、知りませんでした?」
「初耳だけれど」
まずはこう返す健だった。髪は少し茶色がかっていてそれを分けている。顔は痩せていて素朴な感じがする。身体も痩せていて背はあまり高くない。目が細い。その光は優しい。その彼がこう返していた。
「そんなことって」
「そうなんですか」
「ええと、湖っていうと」
「はい、学校に行く前のあそこの湖です」
「そこだよね」
健もそれを聞いて頷く。
「あの湖に」
「それで山中さん」
奈々は健に対して言ってきた。
「こんな話も知ってます?」
「こんな話って?」
「その湖の中にあるお花を手に入れるとです」
「うん」
「願いが適うんですよ」
こう言ってきたのである。
「自分自身の願いがです」
「そうなんだ」
「やっぱり知りませんでした?」
「うん、御免」
申し訳なさそうに健に返した。
「今はじめて聞いたから」
「そうなんですか」
「そんな話あったんだ」
今更といった感じの言葉になっていた。
「そうだったんだ」
「それでですね」
そんな健に対してさらに話してきた奈々だった。
「その花は今の季節に咲くんですよ」
「しかも今に」
「はい、そうなんです」
こう健に話すのだった。
「今なんです」
「今って?」
「今っていうと」
「それでその花を手に入れたら」
奈々の話はさらに続く。
「願いが適いますから」
「願いがなんだね」
「はい、どんな願いもなんですよ」
「凄いね。じゃあ僕がさ」
健は奈々のその話を聞きながら問い返した。
「若しその花を手に入れたら」
「はい、どんな願いも適います」
「そうなんだ。それだったら」
「それだったら?」
「お花手に入れてみますか?」
奈々は何故かこんな話の展開をしてきたのだった。健はそれを感じ取ったが彼女はそれに構わずに彼にさらに言ってきたのである。
「今度の日曜にでも」
「えっ、日曜?」
「山中君泳げますよね」
「うん、まあ」
それにも頷く彼だった。
「そうだけれど」
「じゃあいいですよね。今度の日曜に」
「湖の中に入ってそのお花を手に入れる」
「してみますよね」
「そうだね。あの湖は確か」
健はここでその湖について考えた。水の中だ。安全のことを考えたのである。
「管理人さんいたよね」
「はい、います」
「けれど危ないのは確かだよね」
そしてこんなことも言うのだった。
「危ないから。それだったら誰かと一緒に行こうかな」
「あっ、それは大丈夫です」
しかしだった。何故か奈々はここでこんなことを言ってきた。
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