魔法科高校~黒衣の人間主神~
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入学編〈下〉
退院祝い
四葉家本拠地から帰った俺を待っていたのは、妻の深夜だったけど何とかなった。というより、七草家の者からの連絡でようやく和解してくれたようだったけど。深夜曰く浮気でもしてるんじゃねえのという疑問が、あったそうだが俺の本妻は奏だぞと再度確認し終えたらそうだったと言ってた。それで深雪はISであるクィーンアメリアスの調整と現在CBメンバーが使っているシステムを深雪のに入れたところだった。クィーンアメリアスは深雪専用機だったんだけど他のISを見た深雪は、他の機体も使ってみたいと言われてからすぐに承諾した。
それで深雪の待機状態である髪飾りを機械のところに入れてから調整に入った。けど元がクィーンアメリアスだから別のにはなれないぞと言ったあとに新たな武器を入れておいた。鞭の他に剣やライフルなどを入れておいたけど。本来の深雪は、あの場でニブルヘイムを使って落ち込むところだがここは外史で本来の正史とは違う方なので、落ち込まずに済んだ。次の日からは毎日のように学校ではこき使う風紀委員会と生徒会の雑務をやらされることになったが、蒼太や沙紀のバックアップにより、ようやく少しは修学環境になったなと思った。五月になってから、今日は壬生先輩の退院日なので深雪と共に病院を訪れた。もちろん蒼太と沙紀も一緒だが、授業はいいのかって?授業は午前中のは自主休講にしたからだ。受講の自由度は教師がいない端末学習のメリットだからだ。
「あれは、桐原先輩ではありませんか?」
深雪に言われるまでもなく、俺は気付いていた。病院の中に入る前から、まあ心眼を使ったらいたからだというのと、桐原先輩の気を既に知っていたからだ。気というのは、現代魔法にはないが、古流にはあることでプラーナとか闘気とかだと分かる人はいるかもしれないが。まあ俺の妻の一人である凪=楽進が気の使い手ではある。話を元に戻すと壬生先輩もいた。入院していた服ではなく、普段着に着替えていてエントランスホールで家族や看護師に囲まれている。で、その輪の中に桐原先輩もいた。桐原先輩の顔はどこか照れ臭いと言う感じであったから、やっぱり告白でもしたのかと思った。
「随分親しげですが、やはり告白でもしたのでしょうか?」
一連の騒動である発端となった「剣道部乱入事件」の顛末は知っているし、あの時車の中で流したボイスレコーダーを聞いたからか。深雪もそう思ったそうだ。まあ普通は、あの事件の当事者である壬生先輩と桐原先輩が、あそこまで親しくなっている光景はある意味でレアな光景だなと思った。
「桐原先輩、毎日来てたんだって」
「ほう。やはり告白する準備でもしてたのか」
何の前触れもなく掛けられた声に振り向くと、エリカがつまらなそうな顔をしていた。
「ちぇっ、やっぱり、驚かすのは無理かぁ」
「当たり前だ、気配ですぐに後ろにいると分かるぞ。それより桐原先輩があんなにマメな性格だとは思わなかったが。やはり告白する時機でも狙っていたか」
「気配で分かっちゃうのは分かっていたけど、そんなのだからさーやに振られちゃうのよ」
「振ったわけではないぞ。ちゃんと断りを入れたくらいだ」
エリカはホントなのか?という目付きをしていたが、俺は既にパートナーはいるからな。
「それよりエリカ、『さーや』ってもしかして、壬生先輩の事なの?」
問いかけの声は、深雪の方が一歩早かった。
「んっ?そうだよ」
「・・・・いつの間に、親しくなったんだな」
「任せて」
何を任せてなのかは分からんが、とりあえずまずは壬生先輩の退院祝いをしに来たのだから。花は深雪が持っている。
「壬生先輩」
後ろに深雪にエリカと蒼太、沙紀を引き連れて人の輪の中に入って行った。
「織斑君!来てくれたの?」
少し驚きの顔だったけど、意外という顔をしていた。という表情で語りながら壬生先輩は俺を満面の笑みで迎えてくれた。隣にいた桐原先輩はというと、一瞬だがムッとした表情を浮かべながら冷や汗をかいていた。たぶん、やっぱり告白したんだと聞かれるんじゃないのかと思ったに違いないな。心眼で、そう感じたからだけど。あんまりしょうもない事で使いたくないんだけどな。これは神の力の一つなのだから。
「退院おめでとうございます」
深雪が両手に抱えていた花束を渡す。本来ならデリバリーでもいいんじゃないかという人もいるだろうけど、こういうのは手渡しの方が気持ちが伝わるからだ。こういうのは百年前から変わっていないなと思ったけど。そして嬉しそうに受け取る壬生先輩を見て、やはりこういうのは手渡しが一番と思った。
「君が織斑君かね」
女子高生同士のお喋りを聞いていたら、壮年の男性が話しかけてきた。この人はデータで見たことあるが、確か内閣府情報管理局に所属している人だったな。外事課長で外国犯罪組織を担当していると、蒼い翼関連の者から聞いたな。引き締まった身体とブレのない姿勢は何かしら武道をしていたに違いないと思った。
「私は壬生勇三、紗耶香の父親だ」
「初めまして、織斑一真です」
「妹の織斑深雪です。初めまして」
俺が挨拶したので、それを察知したのか深雪と蒼太と沙紀も軽く挨拶をする。蒼太と沙紀については、何か知っていそうな顔をしていたけど護衛付きと言うと今年度の一年生は護衛付きだと言う事を知っていたのか納得した顔をしていた。深雪は丁寧な挨拶というか、優雅な挙措に少したじろいだがすぐに表情を引き締めたからさすが武道家だなとね。壬生先輩の剣はおそらく父親譲りなのだろうと。
「深雪、エリカを見ていてくれないか」
一真に言われ振り返ると、桐原先輩がエリカのトークに追い詰められていたからである。
「はい。小父様、失礼致します」
深雪の「小父様」という人称に、壬生先輩の父親は動揺を隠しきれていなかったが、何とか無難に返事を返した。無論一真と深雪は気付かないフリをしていた。少し離れたところで、壬生先輩の父親と向き合った。深雪を外させたのは、一真の気配りというのは理解していたので余計な前置きはしなかった。
「織斑君、君には感謝している。娘が立ち直れたのは、君のお陰だ」
「私は何もしていませんよ。壬生先輩を説得したのは、妹と千葉ですし。入院中に先輩の力になったのは、桐原先輩です。そして突き放したのも事実ですし、私はただ誘導したかに過ぎません」
「それを言うのなら、私は突き放すことすらできなかった。魔法が中々上達しないことを娘が気に病んでいたのは知っていたが、私はそれを然して重要な問題だと考えていなかった。魔法技能の評価と実戦の強さは別物だという自分の経験則に囚われて、娘がどれほど悩んでいたか、本当は分かっていなかった。それどころか、忙しさを口実にして、おかしな連中と付き合い始めた娘と向き合おうともしなかった駄目な父親だ。今回の事は、一通り娘から聞いたよ。娘は、君の話を聞いて、久しぶりに迷う事を思い出した、と言っていた。それが悪夢から醒める、きっかけとなったと。そして娘は君に感謝していたよ。無駄ではなかった、と言ってもらえて、救われたと。それが何を意味しているのか私には分からなかったが、娘の感謝が本物である事だけは分かった。だから、言わせてほしい。ありがとう」
まあそう言われると、俺もそっち側だったら感謝しているな。俺も父親の身でもあるからなのか、それとも同じ娘を持っているから気持ちが分かるからなのかは分からなかった。
「その気持ちに答えて言いますと、どういたしましてです。私が言った事に関して救われたのなら、無駄ではなかったと思いたいですな」
「やはりというか、君は風間に聞いていた通りの男なのだな」
そのセリフを聞いた瞬間に冷静さを無くしたのに奪うのは十分すぎることだった。
「ほう。風間少佐を知っているのですか?」
「私は既に退役した身だが、兵舎で起居を共にした戦友だよ。歳も同じでね。未だに親しくさせてもらっている。そのセリフを聞くと私と風間のことが知り合いだったと知っていたように聞こえるんだが」
ただに戦友が「親しい」だけで玄信が一真の事を話すことはないと。それと少しミスった事だったけど。
「ええ知っていましたよ。私は蒼い翼の関係者である事を、それで調べてもらったんですよ。壬生先輩の父親はどんな人で、どんな職業についてるかを興味本位で。それに風間少佐との出会いは三年前の沖縄海戦でしたし」
「ああ、やはりか。日本の裏側で暗躍している零家の蒼い翼なら知っていて当然か。まあ感謝しても感謝しきれないではあるが、今はこの先の未来での娘がどうなるか楽しみではある。風間から聞いた事は誰にも、無論、娘にも他言はしないが。蒼い翼には知らされるかもしれないけど、あの企業は例え私でも答えてはくれないからね。とにかく私はただ、君が娘を救う事の出来る人間で、実際に救ってくれたのだということを知っていると、君に伝えたかっただけだ。本当にありがとう。あと零社長にもお礼の言葉を託しても構わないだろうか?」
「はい。あとで本社に連絡しておきますので、ご安心下さい」
と言ったのか、安心したかのように一真の肩を叩いてから妻のところに戻って行った。まあ零社長というのは俺なんだけど、この事実を知っているのは本社の副社長と秘書に一部の人間のみだ。まあいいかと思いながら、深雪たちがいる所に行った。
「あっ、織斑君。お父さんと何話していたの?」
すぐさま、渡りに船あるいは溺れる藁のような感じで壬生先輩が話しかけてきた。どうやら深雪に蒼太と沙紀でもエリカを抑え切れなかったようだった。まだまだ修行不足かなと思ったがまあそういうことにしておくか。
「いやなに、昔世話になった人が、お父上の親しいご友人だった、という話をしていたのですよ」
「へえ、そうなの」
「ええ、世間は狭いもんですね」
「一真君とさーやって、やっぱり深い縁があるのね」
すかさず絡んでくるエリカだったけど。どうやら今日は絶好調らしいな。
「ねえ、さーや。どうして一真君から桐原先輩に乗り換えちゃったの?一真君の事、好きだったんでしょ?」
「チョ、チョッとエリちゃん?」
慌てふためく壬生先輩を見ながら、俺は違うことを考えていた。壬生先輩がエリカのことをエリちゃんと呼んだことに違和感を感じたのだった。この二人は剣と剣で語り合った仲なのかなとも思ったけど。深雪や蒼太に沙紀も、今日のエリカは調子に乗りすぎだと注意をしても聞かないようだったけど。
「ルックスだけなら、一真君の方が上だと思うんだけど」
「・・・・つくづく失礼な女だな、お前」
「・・・・桐原先輩、男は顔じゃないよ」
「・・・・マジに泣かしてやろうか、コイツ」
「まあまあ。それでさーや、やっぱり決め手は、まめまめしさ?不器用な男の優しさって、グッと来るよね?」
壬生先輩の顔は真っ赤に染まってしまったが、やはりというか十代の女の子がこうなるとかわいいなと思うが俺には本妻がいるから、こういう感情は出さない方がいいなと思ったし。それに壬生先輩は目を逸らそうとするが、素早く回り込むエリカだったからハリセンでお仕置きしておいた。
「たく、調子に乗るからだ」
「相変わらず、一真君のハリセンというツッコミは痛いね~」
「エリちゃんの言う通りかもしれない。あたしが、織斑君に恋していたんだと思う」
「おおぅっ?」
壬生先輩の告白に、一番白黒していたのはさっきまで頭を抑えていたエリカだった。
「あたしが憧れた、揺らぐことのない強さを持っているから。でも憧れるのと同時に怖かったんだと思う、あたしがどんなに一所懸命走っても、織斑君にはきっと追いつけない。織斑君みたいになるには、あたしはずっと走り続けなきゃいけなくて、どんなに走ってもあんな風に強くはなれない。いっぱい感謝してもらって失礼な言い方になっちゃうけど。そう思った」
「・・・・分かる気がするよ。一真君の強さは最早次元を超えているって事をね、あたしも追いかけても追いつけないってことが」
次元を超えているっていうのはな、まあ確かに最強の座は俺?なのかもしれないけど。それにここにいる者で一緒にレールで走れるのは深雪と蒼太と沙紀ぐらいだろう。それくらいの強さを持っているのは事実無根だし。
「桐原君は・・・・まともに会話をしたのは、お見舞いに来てくれた時が初めてだったけど、多分この人なら、喧嘩しながらも同じ速さで歩いてくれると思った。だからかな・・・・」
「・・・・ごちそうさま」
ちゃらけた言い方ではあるが、まとまったと言って良いほどだ。そのときの壬生先輩は一真の演じていた「可愛らしい女の子」から「本当に可愛い女の子」と認識を改めた。
「ねえ、桐原先輩は?いつからさーやの事が好きだったの?やっぱりあのとき十文字先輩に言ってたことなの?」
「・・・・うるせー女だな、あとそれは言うな。それに別にいいだろうが、そんなことお前には関係ねえ」
「そうだぞ、エリカ。過去を振り返るというより、いつからなんて関係ない」
それまで口を挟もうともしなかった一真だったが、突如とした教訓のような事を言い人の悪い口調で言いだしたのか、エリカの頭に疑問符が付く。
「大切なのは、桐原先輩が本気で壬生先輩に惚れていたということだ。それも随分前からの様子ではあったな」
「なっ!おまっ?」
「これ以上詳しい事はプライバシーに関わってくるから言えないが、ブランシュリーダーに見せたあの怒気に勇士は男として敵わないなと思ったよ」
「そっか・・・・。ねえ、一真君」
「何だ?」
「後でこっそり教えてね」
とエリカがそう言ったあとに、一真とエリカの目線が桐原先輩に向けられていた。
「千葉、テメエ!織斑も、あの時のも喋ったら承知しねえぞ!」
「喋りませんが、データとしては残っていますよ。まあこのデータもですが渡しませんし、喋りもしませんよ」
「えーっ、いいじゃない」
「このアマぁ!」
猛り狂う桐原先輩ときゃあきゃあ言っては逃げ回っている真似をするエリカを、壬生先輩の両親に看護師と壬生先輩本人も暖かい眼差しで笑って見ている。そのうち本当の追いかけっこを始めてしまったので、沙紀がエリカを確保しては頭をグリグリしている桐原先輩に痛そうにしていたけど笑っていたエリカだった。そしてその様子を見てから、俺は病院を出たので深雪たちは追って来た。深雪は隣に歩いていて、蒼太と沙紀は一歩後ろにいると言う感じであった。
「お兄様について行けるのは、私と蒼太さんに沙紀さんぐらいかと思います」
「俺もそう思いますね」
「私もよ。一真様の強さには追いつけないと思うけど、それを目標にして強くはなれると思うよ」
「まあ追いかけてくるのは、自由だ。それに俺が最強の座というのは、今の姿だとは思っていない。真の姿になったらそうなると思うけど、とりあえず学校に戻ろうか」
午後の実習に出席しないと、週末に居残りになってしまうのは嫌なので学校に急いで戻った。俺らは学校に行かなくてもいいと思われるくらいの実力を持っているし、企業である蒼い翼を仕切っているから行かなくてもいいという意見もある。だけど、今じゃないとこういう生活は送れないと思ったかもしれない。こういうのは今しか経験できないことでもあるし、学内にいると外からでは分からない事もあるからだ。で、一緒に手を握った深雪だったけど、結局午後の実習に間に合わなかったエリカに泣き付かれて一真は居残る羽目になってしまった。
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