気の強い転校生
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第四章
第四章
「お金のことは気にしなくてもいいし」
「えっ、けれど」
そういうわけにはいかなかった。何から何まで彼女に言われるがまま、為されるがままであるがそれでもいい加減困るものがあった。だがそれでも彼女は強かった。
「何なら私が選ぶけれど」
「龍華さんがって」
「もういいわ」
煮え切らない恭輔の態度に業を煮やしたように見えた。
「選んであげる。これね」
「えっ、これって」
彼女が選んだのは最も高いセットであった。恭輔はこれだけは選ぶまいと思っていた。だがそれを他ならぬ彼女自身が選んだのであった。
「すいません、これ下さい」
「あの、ちょっと」
「いいから貴方は黙ってて」
やはり何も言わせられなかった。
「選んであげてるんだから」
「はあ」
「これですね」
「そうです」
恭輔を強制的に黙らせてから店員さんと話をしていた。
「これを。包装はですね」
「はい」
こうして恭輔を完全に蚊帳の外に置いて話をする。気付けばそのチョコレートをその手に持たされていた。何が何なのかわからないまま。
「これでいいわね」
「有り難う」
「だから御礼はいいの」
やはり有無を言わせない。
「私の御礼なんだから」
「けれど」
「まだ御礼が足りないみたいだし」
「えっ!?」
話がまた変なふうにいっていた。
「今度はね」
「あの、今度って」
「明日ね」
美有は恭輔にお構いなしに言ってきた。
「それでいいわね。待ち合わせ場所は今日と同じで」
「あっ、あのさ」
恭輔は美有のかなりの強引さに戸惑いながら言った。
「何をするの、つまり」
「だから御礼よ」
つっぱねるようにして彼に言ってきた。
「わかったわね」
「わかるも何も」
「断ったら許さないから。いいわね」
「う、うん」
頷くしかなかった。結局彼は明日も美有と一緒にいることになったのであった。彼は全く何も言えずに全てが決まってしまった。唖然とするばかりであった。
その日はチョコレートを買って終わりだったが駅まで一緒だった。美有は別れ際に恭輔に顔を向けて言ってきた。
「明日は一番いい服で来てね」
「一番いい服で?」
「そうよ」
そう彼に告げる。
「それもわかったわね」
「わかったよ。それじゃあ」
「明日は大事なことがあるし」
「大事なこと?」
また変な話になったのかと思った。だが美有はここでほんの一瞬だけしまった、といった感じの顔を見せてそれからすぐにそれを消した。それから何事もなかったかのようにして言うのであった。恭輔はすぐにさっきの顔は気のせいかと思った。
「何でもないわ」
「そう」
「とにかく。わかったわね」
そうしてまた恭輔に言ってきたのだった。
「明日は。一番いい服でね」
「うん。じゃあ」
「さもないと許さないから」
こうも付け加えてきた。
「それじゃあ。さようなら」
そこまで好き勝手な感じで言い伝えるとプイ、とした感じで踵を返した。そうしてそのまま彼女が先に姿を消したのであった。恭輔は彼女の姿を見送ってどうにもこうにも変なことになったと思った。だがそれでも言われた通りにするつもりであった。
「一番いい服かあ」
まずはそれであった。家に帰ってそれを選ぶのであった。
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