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魔法科高校~黒衣の人間主神~

作者:黒鐡
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入学編〈上〉
  オリエンテーション

俺らは送迎車があるから、公共交通機関は使わない。車は6人乗りで黒塗り。いつもはフェラーリとかだが、送迎車ということでそうしている。普通の人は通勤・通学の人並みが、停車中の小さな車体に次々と、整然と乗り込んでいく。満員電車という言葉はこの時代では死後である。電車は公共交通機関となっていくが、形態がかなり変わったと聞く。俺らが来たときは西暦2014年だったから、8両や10両で何十人も収容できる大型車両があったが、今では全席指定の一部長距離高速輸送以外使われていない。

今の時代はキャビネットと呼ばれている。2人乗り、または4人乗りのリニア式小型車両に置き換わっている。動力は軌道(線路)から供給されるため、車両サイズはコンパクトになっている。プラットホームに並ぶキャビネットに先頭から順次乗り込み、チケット、パスから行き先を読み取って運行軌道へ進むようになっている。昔あった電車での初恋というのは無くなっている。ちなみに深雪はFLTで俺が何をしているかは分かっているつもり。俺が会長でもあり、トーラス・シルバーであることも。

登校したばかりの一年E組の教室は、雑然とした雰囲気になっていた。おそらく昨日の内に仲良くなって友達として会話をしている。一塊になっているからか、目立つけどな。とりあえず俺は昨日ホームルームを行っていないので、親しい友達はあまりいないので、さっさと席を見つめて座る。名字の五十音順になっているからなのか、俺は右端ぐらいのところだったが、話しかけてきた者がいた。

「オハヨ~」

声の主は相変わらず陽気な活力に満ちたエリカだった。

「おはようございます」

隣ではエリカと対象的に控えめで、打ち解けた笑みを見せる。エリカたちと席が離れているから、わざわざそっちから来てくれたことには感謝だな。俺を見つけるまでは二人で話していたのだろう。

「そちらから席は離れているようだな」

「しょうがないですよ、五十音順ですし織斑君はア行ですし」

「まああたしも席離れているけどね」

とまあ言われているけどア行とサ行とタ行だから、かなり離れているけど。まあ休み時間に話せばいいことだし。俺はそう考えながらIDカードをセットし、インフォメーションのチェックを始めた。護衛である蒼太は教室の後ろにいる。さすがに席の後ろに立っていると邪魔だし。履修規則、風紀規則、施設の利用規制から、入学に伴うイベント、自治活動の案内、一学期のカリキュラムまで、高速スクロールしながら頭に叩き込む。キーボードオンリーの操作しているので珍しいのか人が集まるが気にしないでタイピングを止めないでな。こちらの方が何かと便利だし。で、受講登録を一気に打ち込んでから一息入れると集まってきた生徒代表なのか、俺に話しかけてきた生徒がいた。

「見られて困るとはあまり思わんが?」

「あっ?悪い悪い。ここにいるクラスメイトが気になっていたから見てみると、俺も珍しいなと思って見入ってしまった」

「そんなに珍しいか?」

「珍しいと思うぜ?今時キーボードオンリーで入力するヤツなんて、見るのは初めてだ。ここにいるクラスメイトもそう思うぜ」

「慣れればこちらの方が速い。視線ポインタも脳波アシストもいまいち正確性に欠けていると俺は思うが」

「それよ。すげースピードだよな、それで十分食っていけるんじゃないか?」

「まあな。俺の知り合いはこれ並みに凄いと思うが」

「そうなのかぁ。おっと自己紹介がまだだったが、俺の名は西城レオンハルトだ。親父がハーフ、お袋がクォータな所為で、外見は純日本風だが名前は洋風、得意な術式は収束系の硬化魔法だ。志望コースは身体を動かす系で警察の機動隊とか山岳警備隊とかだな。レオでいいぜ」

現代の若者感覚からすれば、高校入学時点で既に進路希望を決めているとは。俺感覚だとまだ早いんじゃないのかなと思うが、魔法科高校は別と聞いている。魔法師は能力いや素質が進路と密接に結び付いている。レオが自己紹介中に将来の希望職種を入れているというのは意外だなと思った。

「織斑一真だ。後ろにいるのは俺の護衛で蒼太と言う。俺のことも一真でいい」

「OK、一真に蒼太さん。今年度の一年生は護衛付きがいると昨日の入学式で聞いたが、まさか一真だったとはな。それで得意魔法は何よ?」

「実技もまあまあ出来るが、魔工技師を目指している」

「なーる・・・・さっきの入力を見る限り頭良さそうだな、お前」

それは表での事だ。卒業した時点でこの外史の終幕を迎えることになる。ちなみに魔工技師、あるいは魔工師は、魔法工学技師の略称で魔法を補助・増幅・強化する機器を開発・製造・調整する技術者のことである。今や魔法師の必須ツールであるCADも、魔工技師による調整抜きでは埃をかぶった魔法書以下。社会的な評価は魔法師より一段落ちるが、業界内では並みの魔法師より需要が高い。一流の魔工師の収入は、一流の魔法師を凌ぐほど。実技が苦手な者だと魔工師を目指すのは珍しいことではない。

「え、なになに?織斑君、魔工師志望なの?」

「一真、コイツ、誰?」

美月も魔工師志望らしいが、エリカはコイツ呼ばわりで怒ってはいたが。喧嘩し始めたが俺は特に止めないし、喧嘩始めたのはレオだ。

「エリカちゃん、もう止めて。少し言い過ぎよ」

「レオもだ。今のは互い様だし、口だけでは敵わないと思うが」

一触触発になりそうだったが、仕方がないので俺と美月がそれぞれ仲裁に入る。

「・・・・美月がそう言うなら」

「・・・・分かったぜ」

お互い、顔を背けながら目は逸らさない。同じような気の強さ、似たような負けず嫌いに、実はこの二人は気が合うのではないのかと俺は思う。予鈴が鳴り、思い思いの場所に散らばっていた生徒たちが自分の席に戻る。美月たちとは少し離れているが、まあいい。その辺りは昔と変わらないのだなと思いながらもそこからは違っていた。電源が入っていなかった端末が自動的に立ち上がり、既に起動していた端末ウィンドウがリフレッシュされる。と同時に、教室前面のスクリーンにメッセージが映し出された。

『5分後にオリエンテーションを始めますので、自席で待機してください。IDカードを端末にセットしていない生徒は、速やかにセットしてください・・・・』

俺にとっては全く意味のないことだった。既に選択授業の登録を終えてしまったが、これも復習という感じだと思えば退屈にはならない。オンラインガイダンスをもう一回見直すかと思ったら予想外の出来事があった。本鈴と共に、前側のドアが開いた。遅刻した生徒ではないのは確かだから誰?と思ったらスーツを着た若い女性だ。誰が見ても美人というだろう。愛嬌あるなという感じがある女性は、せり上がってきた教卓の前に立つと、小脇に抱えていた大型携帯端末を卓上に置いて教室を見回したけど。意外だと思ったのはどうやら俺以外の生徒もそう感じたのか戸惑いが充満する。卓上端末を利用したオンライン授業が採用されている学校では、教師が教壇に立つという事はないと聞いた。授業を端末越しに行うから、それより優先順位が低い諸事項伝達を職員を教室で話すということはない。俺らがいた拠点の学校ではあったけど。教室の職員用コンソールが使用されるのは、何か異例の事態が発生した場合のみと聞いたことがある。

「はい、欠席者はいないようですね。それでは皆さん、入学、おめでとうございます」

つられてお辞儀を返している生徒も何人かいたが。俺としては懐かしい感じではある。あるIS世界の外史でもこんな感じだったか。この時代では肉眼で生徒を見回すような事はしないようだ。着席状況は端末にセットされたIDカードにより、リアルタイムでモニターされている。学校関係者があのような大きなタブレットサイズの端末を持ち歩く必要もない。学内にはあちらこちらにコンソールが収納されているし、床からせり上がってきた教卓もモニター付きのコンソールが内臓されている。

「はじめまして。私はこの学校で総合カウンセラーを務めている小野遥です。皆さんの相談相手となり、適切な専門分野のカウンセラーが必要な場合はそれを紹介するのが私たち総合カウンセラーの役目となります」

そういえばいたな。この学校のセールスポイントはカウンセリング体制が充実していると学校関係者から聞いた事がある。

「総合カウンセラーは合計十六名在任しています。男女各一名でペアとなり、各学年一クラスを担当します。このクラスは私と柳沢先生が担当します」

そこで言葉を切り、教卓のコンソールを操作すると、三十代半ばに見える男性の上半身が、教室前のスクリーンと各机のディスプレイに映し出された。

『はじめまして、カウンセラーの柳沢です。小野先生と共に、君たちの担当をさせていただくことになりました。どうかよろしく』

スクリーンに柳沢カウンセラーを映したまま、教壇にいる小野先生は説明を再開した。

「カウンセリングはこのように端末を通してもできますし、直接相談に来て頂いても構いません。通信には量子暗号を使用し、カウンセリング結果はスタンドアロンのデータバンクに保管されますので、皆さんのプライバシーが漏洩することはありません」

まあそうだろうな。今は端末越しが主流みたいだけど、俺だったら直接会って相談すると思うが。まあ俺の相談相手なら後ろにいるし、魔法というか現代魔法以前の力だから超能力者の方が俺らしいと思うし。とあるシリーズではそうだったように。タブレットだと思った俺だったがブック型データバンクを持ち上げて見せた。トレミーの通信も今はほとんど暗号通信が多い。ソレスタルビーイングを探している国家は多いが、残念な事に地球上にはいない。誰も月の中にいるとは思わないだろうし、本社地下にいる事も。

「本校は皆さんが充実した学生生活を送ることができるよう、全力でサポートします。・・・・という訳で、皆さん、よろしくお願いしますね」

それまでの生真面目な口調が、一転して砕けたような柔らかい口調になった。教室内に脱力した空気が流れる。緊張と弛緩、自分の容姿まで計算に入った中々見事なエモーションコントロールだと思った。若さというより、大学出たてのような外見に似合わない場数を感じる。まあ一対一だったら喋らないことを喋ってしまう勢いという。カウンセラーにとって重要な資質だろうけど、女スパイとか出来そうだな。まあ俺の部下で女スパイやっている奴いるけど。国際魔法委員会とか。俺は外見は高校生だが中身は大人だから。と言っても詮索はあまりしない方がいいな。背後のスクリーンの中で、放置されたまま困惑顔になっていた柳沢カウンセラーに向かって頭を下げていたがマジで忘れてたようだった。そして画面を切り換えてから小さく咳払いをしてから何事もなかったような笑みを浮かべて話を続けた。

「これから皆さんの端末に本校のカリキュラムと施設に関するガイダンスを流します。その後、選択科目の履修登録を行って、オリエンテーションは終了です。分からない事があれば、コールボタンを押してください。カリキュラム案内、施設案内を確認済みの人は、ガイダンスをスキップして履修登録に進んでもらっても構いませんよ」

ここで教卓のモニターに目を落とした小野先生は「あら?」という表情を見せた。

「・・・・既に履修登録を終了した人は、退室しても構いません。ただし、ガイダンス開始後の退室は認められませんので、希望者は今の内に退室してください。その際、IDカードを忘れないでくださいね」

その言葉を待っていたかのように立つ生徒が一人。窓際前列で少し離れた席の神経質そうな顔をしている細見の少年だったが、あの少年は確か?と思いながら少年は教卓に一礼をしてから教室の後ろに回って廊下を出る。俺以外にもいたんだなと思ったがそれは目立つので立たなかった俺。そしてその背中を追うように見るこのクラスメイト。俺も退出しようかなとは思ったが、何もかももう一度確認をした方が良いと思い残った。ふと視線を感じたので、前を見たら教卓の向こう側からこちらを見ていた小野先生。視線が合っても逸らさずに俺に向かいニコッと笑みを浮かべた。俺の事を知っているのか?そういえばバカ弟子の門下生の中には職業をしている者も多数多いと聞く。風間もその一人で、門下生の中で筆頭だと聞いたな。まさかなと思いながらガイダンスが始まり復習のために見ていた。 
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