| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

見村まつ季 は聖女じゃない。

作者:南川春過
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
< 前ページ 次ページ > 目次
 

第一話 傷ついた?

皆は彼女を、聖女だと思っている。でもそれは違う。彼女は、見村まつ季は、あくまでも人間なんだ。

ってことに気付いたのは、最近だった。
見村まつ季は、俺のクラスメイト。今は中3で、2才の頃から親が仲良しでよく遊んでいた幼馴染みでもある。
俺に女友達はいないけど、まつ季は、無意識に男友達のカテゴリーに入っていた。まつ季が、俺のことをどう思っているかはわからないけど、あいつは俺以外に友達がいなかった。

別につまらない奴じゃない。
最低な奴でもない。
ただ意識して友達を作らないようにしていた
そういう奴なんだ。

本人曰く、色々とめんどくさいらしい。

見村が不登校になったのは中2の五月からだった。見村は、友達こそいなかったけれどいじめの対象になるようなタチでもなかった。みんな、見村を恐れていた。最初のうちは。何となく、女王様てきなオーラを放っていたらしい。
俺からしたら笑える事実だけどな、実際に話し掛けてみたら普通に優しい奴だってことが判明したんだそうな。でも、見村は話しかけられたら答えるだけで、それ以上のことはしない。社交的なのに人を寄せ付けない。
見村が不登校になっても俺はとくに心配しなかった。勉強しないくせに成績は学年1位か2位で頭よかったし、後で学校にいかない理由を訊くと「なんか面倒臭いし飽きたから」と言われた。まつ季のことだからそんな理由で不登校になってもおかしくない
あいつは、中学校という環境に意味を見いだせなかった。俺は、馬鹿だからそこまで考えて生きてないっていうのにさ。
……で、まつ季が皆から聖女と呼ばれるようになったきっかけは、ある事故だった。駅のホームに女の子が転落して、そこに居合わせたまつ季が女の子を救助したんだ。電車は思ったよりすぐには来なかったけど、救助の人が駆けつけた時にはもう電車が駅に着いてたから、そのことは新聞にも載ってまつ季も有名になった。で、多少ルックスもよかったし、聖女と呼ばれるようになった。

俺は、まつ季に助けたりゆうを訊いてみた。
「別に死んでもよかったし、なんならあの時死のうと思った」
"死"は、まつ季が一番望んでいることなんだ。到底理解できないかもしれないが、まつ季は、生きることにも意味を見いだせなかった
そんなの、俺だってそうだ。
俺も、まつ季のことを理解できないときがある
この前こんなことを言っていた。
「幸せになるために生きるなら幸せになりたい理由を知っているはずだよね」
誰の名言か…
検索しても出なかった。幸せになりたい理由?
考えたこともない。

見村は、俺とは違う世界に生きてるのかもしれない。
あいつはあまりにも、考えてる。


…で、俺は訊いてみたんだ、純粋な疑問を、あいつにぶつけてみた。
なんで死なないのか。

まつ季はすぐには答えなかった。
「死ねたらいいなーって思うけど、私も完璧じゃないし、まだこの世にいたいのかも。」
完璧ってなんだ。
だけど、"まだこの世にいたい"か…、良かった。
俺は薄々、見村はもしかしたら本当に死ぬのかもしれない、と思う部分があったから。
俺にとってまつ季は、ほとんど男友達みたいなもんだし…(女だけど)
やっぱいなくなったら怖いし死んでほしくない。まつ季もまつ季で、色々と考える部分があるんだろうけど生きなきゃダメだよなぁ。

っていうのは俺の固定観念かもだけどさ!


なぁ、死ぬなよ。



今年の夏休みに、俺は見村と図書館にいった。
図書館てあんま好きじゃないんだけどな。
まつ季は、市内で一番まともな場所、なんて言ってたな、わかんねえ。

本を読む以外とくに何をするでもなかった

たまに見村が俺をからかうぐらいのやり取りだけで。




「あのさ、どこの高校ねらってんの」

その日の帰り道、まつ季が俺に訊いてきた。

「おれ…、うーん。まだ決まんない。」

図書館にいたのに高校入試に関する本なんて一冊も読まなかった。
そう言えば俺受験生か…
俺は白いスニーカーを履いていた。

「まぁ、きみが受けられる高校なんてたかが知れてるけどね。」
「ひでえなー」
まつ季が意地悪そうな笑顔を作った。
まつ季の笑顔にはいつも余計なニュアンスが含まれている

俺は一応きいてみた。

「…見村はー?」

「早稲田付属か、きみと同じとこ。」

…えー。
「またご冗談を。後者は止めといたほうがいいですって。」
「だって俺と同じ高校なんて、たかが知れてるだろ?」

「傷ついた?」
またでた、あのにくたらしい笑顔

「べつにー、だって俺の通知表見ただろぉ。」

「うん、2がついてたのは衝撃的だった」

まつ季がニヤニヤして俺をみた。
まつ季と俺の身長は、2ミリまつ季のほうが高いだけで目線は同じ高さだから足下を見てても、否応なくまつ季の表情が視界に入る。

「見村が俺に見せてきた通知表、オール5だったけど見村っていつもあんな成績なん?」

「あぁ、あれは、オール5だったから見せただけ。いつもは大体美術が4。」
「ふーん。」
俺は自分が不協和音を聴いた音楽家のごとく不快感溢れる表情をしたのがわかった。
まつ季にバレてなきゃいいけど。



俺とまつ季は別れるべきところで別れた。
「じゃあね」

「うん、あのさぁ。きみと同じとこ受けるかもしれない、っていうの、本当なんだよ」

 
 

 
後書き
次話も是非読んでください~★ 
< 前ページ 次ページ > 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧