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第四章


第四章

「半分になった鏡なぞ誰も買わぬ」
「それもありまして」
「そうして生き別れの妻に会ったというわけか」
「覚悟はできております」
「私もです」
 徐徳言も楽昌もその項垂れた顔で彼に述べた。
「どうか御自由に」
「再会できただけでも幸せです。ですから旦那様のお好きなように」
「ふん。無論そのつもりだ」
 楊素は怒らせた目で二人に対して告げた。
「けしからんことだ。今までわしが贅沢をさせてやったのにその恩を忘れ昔の夫と密会していた」
「はい」
「貴様もわしの妾を連れ出そうとした。両者共到底許せぬ」
「どうかお好きなように」
「この者達を叩き出せ」
 楊素は周りの者達に命じた。
「そしてこ奴の部屋の宝を全て集めよ。よいか、全てだ」
「はい、畏まりました」
「それでは」
「何一つとして残すでないぞ」
 怒らせた声でさらに命じる。
「この様な者達の顔なぞ見たくもないわ。持ち物も屋敷に置いては置けぬわ」
 二人を追い出させつつさらに言うのだった。こうして二人は瞬く間に屋敷の門から追い出されそのうえ大きな布の袋を前に投げ出された。その二人の前にいたのは楊素である。彼は二人に対してこう言い捨てたのであった。
「二度とわしの前に顔を見せるな。持ち物なぞ置いておくのも汚らわしいわ」
 最後にこう言って門を乱暴に閉ざしてしまった。ここまでまことに瞬く間であった。二人はとりあえず再会の喜びを再び分かち合い命があることにも喜んでいたがまずは袋に目をやったのであった。
「これは一体」
 徐徳言が袋を手に取ってみるととんでもなく重い。また開くと楽昌が楊素から贈られた宝が全て入っていた。これまたとんでもなく価値のあるものであった。
「これは」
「ええ」
 二人はまた顔を見合わせる。そして楊素の真意を悟ったのであった。そう、彼は再会した夫婦を助け財を与えたうえで送り出したのである。
「楊素様は我等の為に」
「この様なことを」
「有り難いお方だ」
 徐徳言はしみじみとした声でこう呟いた。
「私とそなたを。こうして」
「再び結び合わせてくれて財まで」
「そうだな。全く」
 徐徳言の声はしみじみとしたままであった。
「何という有り難いお方だ」
「ええ、本当に」
 二人は門の前で恭しく何度も礼をしてそのうえで都を後にした。二人はこの後故郷である江南に帰りそこで穏やか人生を仲睦まじく過ごした。毎日長安の楊素に対して礼を欠かさなかったという。
 中国隋代に残る話だ。楊素という男は確かに奸物であり後世に悪名を残した。しかしこうしたこともしているのである。悪人といえども心のある者はおりその者によって助けられる者もいる。世の中というものは簡単ではなくまたそうおいそれとは言い尽くせないものである。


鏡   完


                 2008・11・10
 
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