バカとテストと白銀(ぎん)の姫君
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騒がしい春の協奏曲
第一章 小問集合(order a la carte)
第五話 バカとテストと機関銃
前書き
原作において敵前逃亡は戦死扱いとありましたし、覗きの次の巻のDクラス戦では明久君が引き継ぎならば敵前逃亡には当てはまらない、というルールを用いていたことから、今回の作戦は考えました……
楽しんでいただければと思います。
ついに試召戦争の火蓋は叩ききられた。
振り分け試験が0点の僕と姫路さんは回復試験を受ける必要がある。
「妃宮と姫路は回復試験で全科目受けてくれ。およそ二時間で上がってくれるとありがたい」
「解りました坂本君。」
「はい、それでは行ってきますね。」
「吉井は部隊長として……」
あちらこちらに指示を飛ばす坂本を背に、僕らは回復試験を受けに教室をでた。
今回は時間がないため、Aクラスの担任であり学年主任でもある高橋女史の監督の下行われる、全科目の回復試験を受ける。
短時間に大量回復が出来るが、それに比例して問題が難しいことで有名ならしい。問題の中には難関大学の過去問題や予備校の模試のプリントなどからの出題も少なくはないというのだ。
そのことを姫路さんに聞いた僕は、ある作戦を姫路さんに告げた。
「……坂本君、ただ今戻りました。」
姫路さんと本陣になっているFクラスに戻ってくると、伝令の男子生徒の報告を頷きながら聞きながら手元のメモに報告を書き付けている代表(もちろん坂本)の姿が見えた。
まだこちらに気がついていないらしい。
教室の出入り口には6人ほど本陣防衛の近衛兼予備戦力として詰めている。顔色が余りよく無いというのは即ち戦況が想定以上に苦しいということだろう。
坂本は何かを書き終えると、そのまま黒板に張られている画用紙上の磁石をいくつか取り外し、戦死者とかかれた枠や回復とかかれている教室に動かした。
黒板に近づくと顔を上げた坂本がようやく僕らに気がついた。
「妃宮に姫路か。回復試験はどうだった?」
「こちらはまずまずです、やはり全教科をするには時間的にも一科目当たりがどうしても低くなってしまいます。なので、差し出がましいとは思いましたが私は現代文、古典、日本史を、瑞希さんには英語、物理、世界史を捨てて受験いたしました。それに私も瑞希さんもバランスを取るため、私の化学と日本史、瑞希さんの国語と数学は以前に渡して頂いた成績目安でCクラス相当の点数までしか得点していません。」
「………それでお前と姫路の数学と化学はそれぞれどれぐらいだ。」
「私の数学と化学は152と248で千早さんは259と161でしたよね。」
「ナイス判断だったな、と言うことは膠着していた防衛線の突破が可能になるが……」
坂本は再び背を向け、唸りながら黒板を睨み続ける。
説明によると黒板に張ってある画用紙には布陣図がかかれており、現在の部隊配置が磁石によって表しているらしい。
そしてもう一つ黒板にかけられている物があった。
このおんぼろな教室にとけ込めないこの大型ディスプレイは学園内の地図を表示しており、新旧の校舎三階には電波を発信しているような黒と白の点が表示されていた。
こっちは双方の代表がどこにいるのかを表示しているらしい。
試召戦争では代表がやられると即敗戦となるらしい。
なんだか中世の戦争のように思えるが、生徒たちの召還獣の装備している武器が剣や槍、弓、大鎌だったりするのを考えればあながちはずれてもいないのかもしれない。
とは言え例外もいて、成績不振のFクラスには吉井の樫の棒を始めとし、スコップやバットといった武器じゃない物を装備している者も多くいる。
僕の召還獣の装備がなぜか現代的なのは何かの間違いかと思うほどに。
閑話休題、聞くところによると少し前に廊下の防衛線が崩れかけたようだが、吉井(の社会的生命)を売ることで戦線を保たせることに成功したらしい。
戦況を知らない僕らに解説をしながら、僕と姫路さんを見比べる坂本は明らかに何かを躊躇していた。
「今回の戦いに勝つ為だけならば、お前の数学を投入しさえすればいい。そのとき正面からの強襲でも九割はこっちが勝つだろうだろう。」
そこでいったん区切り、僕の方に向き直った。
つまり、
「姫路さんの成績はA、Bのクラスならば既に知っているでしょう。しかし私の点数を相手はまだ知っていません。私自身が言うには気が引けてしまいますが、隠し玉にするには丁度よいかと。」
先回りをすると坂本は頷いた。
時計に目を向ける、もうすぐ通常の授業が終わるようだ。
このあと、DF以外は各クラスのHRを通してから下校となる。
「とはいえ、そろそろ他のクラスの奴らが帰り始める頃だからな。お前の力を借りるまでもないだろうが……」
「と言うと相応に策が……」
あっ
「波に乗るのですか?」
その言葉に驚いた坂本は何だ、お前もかと言わん顔をしていた。
互いの顔を見合わせて確信する、考えて行き着いた結論はどうも一緒であったのだ。
にやりと唇をゆがめる坂本と、お嬢様というキャラを通すために笑いを深める僕。
「……坂本君も、ですか。」
「……そうか、お前でもそう考えるか。」
「え、え、え?」
訳が分からないと言った様子の姫路さんは試召戦争は正面から戦うという正攻法が先入観としてあるのだろう。
しかし、これはあくまでも戦争という名が冠されているのだから策略だとか戦術だとかも使えということなのだろう。
「その少し前に、渡り廊下の化学勝負で、私と坂本君が渡り廊下で囮を務めれば……」
「そうだな。代表の位置は戦争に参加する生徒すべてに知らされる。つまり俺の突出は最後のあがきと見られるわけだ。その間に姫路は階段の守備部隊と合流、四階を通って他の奴らが作る人波に合わせて何食わぬ顔でDの代表に接近。以上だな。」
そこまで坂本が説明すると姫路さんの疑問も解決したようだ。
「なるほど、ホームルーム直後の人混みを利用するんですね。確かに私ならAクラスの生徒とまだ思われていますから、それを使うんですね。」
納得がいったという風に何度も頷く姫路さん。
まだまだ試召戦争が始まったばかりだからこそ使えるカードならば、使えなくなる前に使うべきだろう。
「Aクラスへの道の一歩だ、おまえ等の力も貸してくれ」
「承ります」
「頑張ります!!」
姫路さんは階段側守備隊への伝令と合流の為にすぐに移動を始めた。
教室に残った僕らは、ホームルームが終わるまでは待機の予定だったのだけれども事態はそうゆっくりとさせてくれなかった。
「伝令、Dクラスは戦力を渡り廊下に結集させ、こちら側の防衛ラインの穴から一挙に突破する模様。至急援軍を送られたし。以上です。」
まずい、防衛線に配置している20余命、先ほどの坂本の解説によると予備戦力は僕と大将の坂本を含めて13人。
「須川、そのまま階段守備の奴らに伝令しろ。作戦を急ぎ開始されたし。以上だ。」
「了解。」
即断即決な男だと思う。
勝負所と認識すればすぐに作戦を柔軟に戦況にあわせる。
(出来る奴だ)
そんな認識が僕の中に生まれたことに少し驚く。
今まで僕の中にはあの天才的な先達しか見えていなかったのだろうか。
誰かに興味を持つことはあったとしても、張り合えそうな奴だとかそんな感情を持ったことはこれまで無かった。
前の学校でも…いやそれはない。
「坂本君、提案なのですが……このようにに渡り廊下の守備隊を移動させて、私がこのように、坂本君の部隊がこのようにすれば……」
気分の悪くなる思い出から逃げるように僕は、少し思い切って話を聞いているときに考えていた作戦を坂本に投げかけてみる。
有用ではないだろうかと思っていたものだから、嫌なことを脳裏から追い出すにはちょうど良かった。
僕からの突然の発言に、最初は驚いたそぶりを見せた坂本は、聞き終えると直ぐに僕の意見を採り入れるか入れないか頭をフル回転させ始めたようだ。
「戦争規定にも乗っ取れている……か」
戦況図と彼の手元の資料を目が行き来した後、僕に鋭い目が向けられる
「……いいだろう。明久が使えなくなった代償だと思えば楽だな。よし近藤、お前は伝令に行ってこい。内容は……以上だ。」
「了解!」
「妃宮、お前はゆっくり行け。」
「畏まりました。」
一礼をして僕は教室を出た。
目指す地点は主戦場の化学の召還フィールドの端、渡り廊下が途切れぎりぎり範囲内に含まれている旧校舎の廊下だ。
銀髪の消えた方をちらっとだけ眺めつつ、俺は気を引き締めた。
まさかDクラスが戦力を掻き集めて強行突破を目指してくるとは想定していなかった。
予想の少し上を突かれてしまった格好だが仕方ないだろう。
作戦を立てたときから少し俺は楽観視し過ぎていたのかもしれない。
Dは勝っても利益が少ない上に、新校舎を堅く守っていれば勝てるのだからと考えていたのだが…
まぁ良い、うちのクラスにとんだ雌狐も紛れていたもんだ。
「妃宮千早、昔の俺と同じ目をした女、か。」
小さな呟きは、周辺の乱雑な音に紛れて誰にも聞こえなかっただろう。
「時間を稼げば俺たちが勝つ。妃宮の前で恥ずかしい負け方をすんじゃねぇぞ!!」
「「ヨッシャァア!!」」
ここ二日であっと言う間に信者が出来てるぞ、妃宮。
敵の強行突破作戦は渡り廊下に僕が到着したのと同時に開始された。
(五分以上稼げば勝てますが……)
Fクラスの全力を挙げて編成された守備隊の人数も16人にまで減らされているようだ。
このまま無策だったら五分も持っていなかっただろう。
「妃宮千早、化学で参ります。召還」
『Fクラス 妃宮千早
化学 161点 』
「秀吉、妃宮が来たぞ。」
渡り廊下の守備部隊はDクラスの総攻撃を受けていた。
「おぉ、そうじゃな。皆の者、やられそうな奴は妃宮に戦いを委ね、一時戦いに加わらないようにするのじゃ!」
やる気は残っているが、点数はほとんど残っていない野郎どもを束ねながら美少年は我慢強く粘っていた。
Dクラス代表の姿はないけれども、人数的には残っている戦力の半分以上を投入していると考えられた。
「妃宮、すまん。パス!」
「俺もだ、すまない!!」
「俺も!」
「パスだぁ!」
四人からボール(標的)を回される。
かけ声とともに現れた僕の召還獣を眺める。
長い銀の髪は僕のものと変わらず、着ているのは防弾チョッキ、そして手に持つ武器は黒光りのする銃。
そして銃は銃でも機関銃、たしかこれはM60機関銃だったかな。
攻撃目標は四人、防衛ライン突破後すぐに横線の形に陣形を固めながら僕の所に一直線にやってくる。
(味方を誤射しなくてすみそうですね……)
手に持つ機関銃を固定脚に装着させ照準を合わせる。
「撃ち方、始めます。」
召還獣を扱うのには操縦者の技術が必要となると言われている。
僕も初めて学園にきたとき西村先生の許可の下、召還してみたときには全然だめだった。
とは言え、解らないことがあると燃え上がるという分析家みたいな気質からか、それ以来召還獣の操作を頭の中でシミュレートしていたのだけれどもやはり実践は難しい。
(おおざっぱな操作でも相手を攻撃できる武器なのですから、ゆっくりと馴れていきましょうか。)
僕のすべきことは「目立つこと」なのだから。
『Dクラス 川上雫 132点 坂原武 DEAD
桑原聡美 36点 和田佳通 63点』
「一気に点数が削られた!?」
「げっ、点数が無くなっただと!」
防衛ラインと僕の布陣した位置は目測でも15メートルは離れている。
召還フィールドのほとんど端に位置しているから後ろには回り込まれずに済むのだが、一歩でも下がれば敵前逃亡として脱落してしまう。
いわゆる背水の陣という奴だ。
『Dクラス 川上雫 DEAD 桑原聡美 36点
和田佳通 63点 』
こちらに攻撃を与えるための距離に接近するのにさえ4秒以上かかる敵に対し、こちらは一発で恐らくだが持ち点の一割から二割、つまり10~30程度のダメージを与えることが出来る銃弾を一秒間に5発程度、遠距離からばらまいているのだ。
そう簡単には負ける訳にいかない。
命中精度は今のところ5割程度とあまりよくないが四人程度なら……
『Dクラス 桑原聡美 DEAD 和田佳通 DEAD』
軽く薙ぎ払えるだろう。
「戦死者は補習!!」
「「そんなぁぁぁ!!」」
「鉄人!?やだ、鬼の補習勘弁してくれぇぇ!!」
「いやだぁ!!拷問はいやだぁ!!」
「黙れ、あれはれっきとした教育だ。ただ単に勉強は恋人だと公言できるようにしてやっているだけだろうが!」
それを拷問とは言いませんか?
西村先生に拉致られて行く四生徒を見送る暇もなく、僕は次の敵さんの処理に追われるのだった。
「守備隊長より伝令、これより廊下左側の封鎖をゆっくりと解除する、心せよ。以上です。」
「了解いたしました。」
そういって伝令はそのまま渡り廊下へと戻っていた。
「皆の者、間隔を今までよりも広げるのじゃ!!」
演劇部での練習の成果なのか、よく通る声での指示が僕の所にまで聞こえた。
密集陣形で敵を足止めしていた味方が一斉に間隔を開ける。
その間隔の空き具合がこちらから見て左側が少し大きめに開かれる。
こちらの見方が誰もマークしていない穴となる場所が廊下左側に多いのは統率がとれている証だろう。。
その穴からわらわらとDクラスが突破してくるのもやはり作戦通り。
「ひとまずあいつを片づけるぞ、点数が高いといっても所詮やつはCクラス相当だ。Dでもまとまれば押しつぶせるぞ!!」
涌いてくる敵さんの中には戦況を読める指揮官がいるらしい。
Cクラス相当のレベルで、しかも一人を相手にするには良手だろう。
僕の武器が銃でなければ。
じりじりと包囲の輪を縮めてくる敵主力部隊に向けて、絶え間無く攻撃を続ける。
右に撃っても、左に撃っても弾が当たる。
言い方は悪いがターキーシュートとはこういうことだろう。
命中率は一気に10割になったが、あまり笑えない。
「銃器は近接戦に持ち込まれず、また相手の数が増えすぎなければ勝てますが……」
小さく呟き、もう一度周囲を見渡す。
飽和状態になりつつある周囲の様子に笑えてくる。
穴があくのを待っていた主力部隊がバカ正直にも全て突っ込ませてきたらしい。
「本当に、有り難くて涙が出るね。」
少しだけ男言葉に戻してつぶやく。
一人でも道連れにして、Dクラスの戦力を可能な限り低下させる。
僕一人では少々荷が重いが武器が武器なだけに理論的には可能だろう。
理論は理論だ、所詮は多勢に無勢。こんな風に取り囲まれてしまえばあっと言う間に終わりだ。
とは言え取り囲んでくれないと陽動二段作戦は成功しないのだが。
「攻め切れぇえぇ!!!」
Dクラスの指揮官の叫び声。
包囲にしては少々不細工な、扇形状に陣を組み上げているDクラス主力は攻勢をさらにかけてくる。
作戦第一段階はまずまずの結果だ。
固定脚から外し、召還獣に抱えさせながら撃たせる。
弧を描いている敵陣形のなかでも、周りの歩調よりも早い阿呆を狙いながら、出来うる限りの時間稼ぎをする。
『妃宮千早 化53点』
「しぶとい、こいつ!!」
「まだ突破できてないのか!!」
敵さんには援軍が到着したらしい。恐らくDクラス代表直隷の近衛部隊、もしくは階段警備隊のどちらかだろう。
「「いけえぇぇぇ!!」」
『妃宮千早 化学12点』
「もう一発!!」
そして僕の召還獣は十全の働きの末にここで討ち死……
「承認します。」
「Fクラス代表坂本、お前等ここが正念場だ!!。」
「「応っ!!」」
真後ろから教師の声とFクラス近衛部隊の声が聞こえた。
えっ、早くないですか?だって……
「お任せします」
そういって召還獣と共に逃げながら坂本のところにまで落ち延びる。
{Fクラス 妃宮千早 日本史124点}
違うフィールドに入ったことで科目と点数が一気に更新される。
「皆の者、勝負はここからじゃ。妃宮ばかりに任せておかぬぞ。」
僕の左後方からは坂本率いる近衛部隊と敵の向こう、右前方からは体勢を整え終え、小競り合いしていたDクラスの部隊を軽くいなした秀吉率いる守備隊。
「バカな、代表が出てくるなんて。」
「代表を狙え、機関銃女は捨てておけ!!」
「勝てるぞ!!」
Dクラスの士気は挟み撃ちされているというのにこれ以上もないほどに盛り上がる。
僕は坂本の護衛と余裕があればFクラス軍団の後ろから援護射撃を始めた。
「やっぱり無理か!」
「畜生っ」
「いやだぁ、見逃してくれぇえ!」
「しまった、妃宮さん、2、3人そっちに行った!!」
「Dクラス、芝原見参!」
「私が相手になります」
坂本をかばうように前に出た僕を突破してきた内の二人が取り囲み、一人は横をすり抜けて坂本に肉薄した。
「坂本、覚悟し……ろ?」
しかし防衛線をなんとか突破できたDクラスの召還獣たちは、僕らの前で消えてしまった。
同じようにF、Dどちらの召還獣も構わずに消え始めた。
そして放送が次のことを告げた。
[2-Fと2-Dの試験召還戦争はDクラス平賀君の戦死で集結。]
それまでの乱闘が急に終わってしまったことにあっけに取られていた生徒たちだったがFクラスはすぐに立ち直り怒号をあげた。
「坂本万歳!!」
「妃宮万歳!!」
「「千早さん愛してます!!」」
僕には理解できない言語を口走る奴もいたが、さて何をいっていたんでしょうか。
「勝ちましたね。」
「当然だ。なんたって最後はAクラスにも勝つんだからな。」
誇らしげにもしない坂本おかしくて少し笑ってしまった。
本当は僕を倒すためにDクラスが一点に向かって集中したところを逆包囲する予定だったというのに焦れて出てきたくせに。
そうこうしているうちにFクラスの連中に取り囲まれた。
さすがに触られたりはしないが、それでも囲まれて良い気はしない。
良い気はしないが、
「今回勝てたのみなさんのおかげです。本当にありがとうございました。」
精一杯の笑顔を見せることぐらいはいいんじゃないかな。
こうして僕らの初戦は作戦勝ちで終わったのだった。
戦争終結後、「噂の銀のお姉さまがF組に」とか言っている女子がDクラスにいたのは頭痛が痛い事態だった。
言い間違いではない、頭が痛いのではなく頭痛の根っこからして痛い。
自分が実は女装男子であり、その僕をお姉さまと呼ぶ同級生がいる。
なんてことだろう……
こんな事で果たしていいのだろうか、いやよくないはずだ、よくない、よくない、のになぁ………はぁ。
教室に戻った僕たちはひとまずお互いの頑張りは褒めあい、恨みあることには拳や刃物をぶつけ合い。
それが例え相手を半殺しにまで追いやっていたとしても、突っ込むだけ野暮というものだろう。
そしてそれが返り討ちにあい間接を外されていたとしても、それがこのクラスのルールというものなのだろう。
「ムッツリーニ、ペンチ。」
ペンチを渡すために、どこからともなく現れるムッツリーニを眺めながら思う。
あそこまで完璧な隠密が可能であるのに、どうしてちらちらと気配が漏れ出てしまうのだろうか。
「ギブギブギブ、ごめんなさい。許して!!!」
「ちっ、……生爪……。」
そうか、邪念が隠しきれないのか。
吉井と坂本のバカ騒ぎを眺めながら、僕はムッツリーニについて考えてたりしていた。
最後の作戦で目立ってしまった僕の所に男共が集まってきたのは正直言って気持ち悪かった。
とは言え、そんなことをおくびにも出さないように目を伏せ、控えめな笑いを顔に張り付けながら対応した。
文句が言えないのは、同じように奇襲作戦の要だった姫路さんも同じ目に遭っていたからだ。
彼女がいなかったら、恐らく僕は耐えきれなかっただろう。
正直に言えば、欲を出さずにこのクラスぐらいで止めてしまいたいというのが本音だったけど、勢いづいたクラスメイトたちは止まらない。
仕方のない流れだった。
坂本の提案で教室の入れ替えは行われない代わりに、いくつかの条件を提示し、それを相手も了解したことで対Dクラス戦の事後処理は完結した。
どうしても当初の予定を曲げないつもりらしい。
打倒Aクラス、という目標を。
ようやく垣根も無くなったので、さっさと帰って何か勉強でもしようかなどと思いながら、カバンを手に教室を出ようとするといきなり誰かに手を掴まれた。
思わずギクッとする。
手の主を見るとクラスメイトである木下秀吉だった。
「千早よ、お主どうかしたのかの?」
「い、いえ。何でも……、それで何かご用でしょうか?」
「雄二がお主を屋上に呼んでおったぞ。」
「分かりました、ありがとうございます。」
「いやいや、これぐらいお安い御用じゃよ。」
いったい呼び出される理由ってなんだろう?
疑念に思いながら、昼に辿った屋上への道を再び歩くのだった。
後書き
問題
日本史
足利学校はフランシスコザビエルによって何と呼ばれたか。
姫路瑞希の答え・板東の大学
教師のコメント
正解です。
板東とは関東地方の古名です。
足利学校は鎌倉時代から存在していたと考えられていますが、日本史では上杉憲実によって再興されたことで有名です。
上杉憲実という人物は優れた人間だったと評価されています。
当時くじ引きで選ばれたために「くじ引き将軍」と呼ばれていた室町幕府六代将軍足利義教によって攻められた足利持氏の家臣でしたが、幕府に通じていました。
ちなみに、くじ引きの候補にはこの持氏も入っていたため義教を軽んじており、反幕的行動(他家の領地に攻め込もうとする、など)が目立っていました。
これらの挑発的な行動に痺れを切らした義教は各地の守護や豪族に追討命令を出しました。
これが永享の乱と呼ばれるもので、乱は憲実が持氏を包囲し、自害に追いやったことで終結しました。
持氏の遺児は後の結城合戦の火種となってしまいましたがこれはまた別の機会があれば。
吉井明久の答え・足利さんの学校
教師のコメント
ここでの足利とは地域の名称です
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