ロックマンX~5つの希望~
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第二十話 アクセルSIDE9
前書き
アクセルSIDE8の続きです。
ここに2人の戦士がいる。
バウンティハンターとした名を馳せた隻眼の戦士と彼を慕い続けた少年戦士。
互いを認めながら、彼等は戦う運命にあった。
そして…勝敗は決した。
膝をついているレッド。
致命傷はないようだが、動くことは出来そうにない。
銃口を向けるアクセルを、隻眼で見据えた。
レッド「…ハハッ……腕を上げたな……アクセル」
満足そうに呟いた時、エックス、ルイン、ゼロの3人が来た。
ルイン「アクセル、大丈夫!!?」
アクセル「大丈夫だよ。ルイン達はまだ来ないで!!」
エックス「?」
アクセル「前に教えてくれたよねレッド?残心を忘れるなってさ。」
レッドは薄く笑った。
アクセルは未だにバレットを下ろさない。
油断なくレッドを見据えていたが、突如宮殿が揺れて、ガラガラと破片が降る。
アクセル「え?」
ルナ「な、何だ?」
レッド「…あれが聞こえるだろう…ここは…長くは持たない……。俺に…万が一のことがあった時は……ここから下は……一緒に消えて…なくなるように……セットしておいたからな……」
途切れ途切れに言葉を紡ぐ彼。
アクセルは、眼を見開いた。
武器をしまい、差し出す。
ずっと、最初から銃を握ってきた、小さな左手を。
アクセル「嫌だ!レッドも行こう!!」
駆け寄ろうとして、後ろに引かれる。
振り返れば、ルナが、アクセルの右腕と左肩を掴んでいた。
アクセル「早く!まだ間に合う!!」
ルナ「駄目だ、急がねえと俺達も埋まっちまうぞ!!」
アクセル「でも、でも…っ」
落盤の響きが大きさを増していく。
絶体絶命。
しかしアクセルは手を伸ばすのを止めなかった。
小さな手で大切なものを掴もうとしている。
レッド「アクセル…その小娘の言う通りだ。先に行って待ってる…」
振り返った横顔は死への恐怖はなく、とても穏やかなものであった。
死神と恐れられた闘気も殺気もない。
あるのはアクセルへの深い優しさ。
レッド「いつでも来な…慌てなくてもいい…」
アクセル「レッド…」
レッド「小娘…」
ルナ「…………」
レッドの視線がルナに向けられる。
その表情はとても優しく、ルナはアクセルを捕まえながらも唇を噛み締めた。
レッド「アクセルを…頼んだ…」
アクセル「レッドオォォォォォォ!!!!」
アクセルの絶叫は天井に吸い込まれ、暗闇の中に消えていった。
静寂が訪れ、辺りは無惨な有様。
掘り起こしても多分、何も出ないだろう。
出るとしたらレッドを思わせる残骸だけ。
涙を流すルインの肩に手を置き、エックスはゼロに視線を遣る。
ゼロもまた、どこか迷っているような顔をしている。
この先に居るであろう敵。
その正体に、エックスもゼロもルインもおおよその察しはついていた。
根拠などない、経験からの直感。
しかし、最も大切な存在を目の前で失った少年の心は、言葉では言い表せないほど深く傷付いているはず。
今の彼に、声をかけるということ自体憚られた。
アクセル「レッド…」
アクセルは悲しかった。
胸の奥から強い激情が胸を焦がす。
何故こんなことになってしまったのか?
何故死んでしまったのか?
胸が焼けるように熱いのに、声は出せず、喉に突っ掛かっている。
泣けば楽になれるかもしれない。
しかし戦士のプライドがそれを許さない。
どれほどの時間が経っただろうか。
ゼロは静かに口を開いた。
ゼロ「アクセル…俺には慰めの言葉すら見つからん…だが、俺達はここで立ち止まるわけにはいかない」
その言葉にルナはゼロに食いかかる。
ルナ「お前…っ、その言い方はないだろうがっ!!アクセルは…アクセルは目の前で育ての親を失ったんだぞ!!」
次にルナは俯いているエックスとルインを向く。
ルナ「今こんな状況で何が出来る!?どう考えたって一時撤退だろうがあ!!」
ルイン「………」
ルナ「何とか言えよおい!!」
叫ぶルナにエックスが彼女の肩に手を置いた。
エックス「…ルナ、大切な人を失うというのは身を斬られる程の苦しみだ…。それくらいは、俺にも分かる。」
ルイン「確かに今はアクセルを休ませてあげたい。レッドの残骸を回収して弔ってあげたい…でも、それで私達が満足しても意味がないんだよ。」
ゼロ「レッドアラートのリーダーであるレッドが倒れた今、クリムゾンパレスの頂上に向かうことは容易いだろう。いわばこれは俺達に訪れたチャンスでもある。」
ルナ「だ、だけどよ…」
アクセル「行こう」
ルナ「え…?」
アクセルを見遣ると儚い、けれど吹っ切れたような表情を見せていた。
アクセル「“センセイ”をやっつけなくちゃ…」
ルイン「…でも、少し休憩しようか……」
エックス「そう…だな」
3人は2人から少し離れた場所で休息を取る。
瓦礫の近くにいるのはアクセルと、アクセルとレッドの戦いを最後まで見届けたルナ。
ルナ「アクセル…本当にいいのか?せめて残骸の回収だけでも…」
アクセル「…いいんだ」
ルナ「アクセル…本当にいいのかよ…?レッドを…お前の大事な人をほったらかしにしていくんだぞ!!?」
アクセル「いいんだ…行かないと、“そんなことをしている暇があるならセンセイを倒して来い!!”ってレッドにどやされちゃうよ」
ふと、アクセルはルナの身体が小刻みに震えていることに気づいた。
顔を見るとルナが大粒の涙を流して泣いていた。
アクセル「何でルナが泣くのさ?」
ルナ「お前が…泣かないからだろ…!!」
勢いよく大して体格差がないアクセルを抱き締めた。
ルナ「お前…馬鹿だ…エックス達も馬鹿だけど、お前も劣らず馬鹿だ…」
アクセル「………」
ルナ「分かったよアクセル…そういうことなら、俺も最後まで付き合ってやるよ…黒幕なんか軽くぶっ潰してさ…」
アクセル「うん、ありがと」
アクセルが立ち上がろうとした瞬間、瓦礫から微かに紅い光が見えた。
2人は瓦礫をどかして、それを手に取る。
アクセル「これ…」
ルナ「レッドの…」
レッドのDNAデータ。
レプリロイドの精製情報…いや、レッドの心が詰まっているもの。
アクセル「…そっか、レッドも一緒に戦ってくれるんだね?レッドの心はいつも僕と一緒なんだ……」
ルナ「良かったなアクセル…」
自分のことのように喜んでくれるルナにアクセルも自然に笑みを浮かべた。
アクセル「みんな!!」
立ち向かおう。
エックス「アクセル?」
彼が与えてくれたあらゆる愛と僅かな願いを握り締めて。
ルイン「もういいの?」
アクセル「うん」
僕は行くよ、こんな心渇ききった楽園(せかい)の中。
アクセル「もう大丈夫だよ。さあ、黒幕のセンセイを倒そう!!(今までありがとうレッド…僕は…これからも生き続けるよ。精々待ちくたびれててよね?)」
“諦め”とか“最後(おわり)”に手を、伸ばしてしまったあなたの前に、せめて優しい光を見せて灯し続けてあげたいから。
後書き
センセイ戦前
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