ソードアート・オンライン 神速の人狼
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逃亡
《第50層迷宮区》
別名クウォーターポイントと呼ばれている階層でクウォーター、つまり4分の1である第25層、50層、75層、100層の事を指す。
クウォーターポイントは他の階層よりも大きく違う点があり、それは迷宮区にポップするモンスターの強さだ。この層にポップしてくるモンスター達はあと5層以上上の強さを持ったモンスターが登場してくる。モンスターのステータスの上昇に加え、高度なフェイントを使ってきたり、複数でポップしてきた時は連携プレーまで見せる。
そして、現在ユーリが相手をしているモンスター【リザードマン・ファット】も例に漏れず、現在ではなかなかの強さを誇っている。従来のリザードマンに比べ俊敏値は劣るもののその攻撃力は高く、さらに脂肪の鎧は通常種より高い耐久性に拍車をかけている。もっとも、現在それを同時に三体相手しているのだが……
『ギャァァァ⁉︎』
上段から振り下ろされた曲刀を紙一重で避けられ、すれ違いざまに脂がのった腹部を切り裂かれたことに悲鳴をあげるリザードマン。
そこから、さらに連続して攻撃を加えようとするが他のリザードマンがそうさせまいと妨害してくる。
「まったく……めんどくさいことで……」
そう呟き、一旦距離をとるとすかさず接近しソードスキルを発動して攻撃を仕掛けてくる。攻撃を避けつつ、さくりさくりとクリティカルポイントへと攻撃を当てていく。リザードマンのHPバーが減少していき、ついに三体ともがレッドゾーンに達する。グルルルと唸るように三体が声をあげるとユーリを取り囲むように位置取り、一斉にその手に持つ曲刀にライトエフェクトを纏わせる。
群れで行動をするモンスター特有の攻撃モーションである連携プレーだ。
三方向から放たれる攻撃は一つを受けたとしても、他の攻撃をくらい、さらに畳み掛けるように攻撃をもらう羽目になる。ソロプレーでは危険極まる技だが、それでもなお余裕の表情を崩さない。
「避けられないなら、避けなければいいんじゃん」
リザードマンのソードスキルの発動に合わせ、ユーリもまたソードスキルを発動させる。
カタナ 範囲技 《旋車》
身体を半身ほど回転させ、溜めを作り、一気に解き放つ。目一杯に威力を上げられた一撃は三方向から迫る曲刀を全て弾き返しし、ノックバックさせる。そして、リザードマン達よりも早く硬直時間から解放されるとそのガラ空きの胴体を両断ひ、ポリゴン片へと変えていく。
戦闘が終了し、ふぅと息をつく。今更ながら、物陰に潜みこちらの様子を観察しているプレイヤーに気づき、またかよ……。と内心ぼやきながら、《隠蔽》を発動させる。突然自分の姿が消えた事に驚いたのか隠れていたプレイヤーは隠れるのを止め、辺りを見回し始めた。恐らく、《索敵》も発動しているだろうが見つかるわけがない。《隠蔽》はコンプリートし、全身を覆うローブはスキルに補正をかけ、さらには《人狼》によっても補正がかけられているため、よっぽどの事がない限り見つからない。
「よりにもよって、黒の剣士様かよ……。めんどうだなぁ」
はぁ〜と盛大にため息をつくとゲートを潜り、次のエリアへと移動し始める。
ゲートを潜ると赤と白で色付けされた騎士風の装備を身につけた血盟騎士団の一団がさながら軍団のように並んで進んでいた。隠蔽がしっかり発動されている事を再確認すると、その一団の横をさっさと通り過ぎようとする……が。
「あれ?今、誰か通ったような……。」
「っ!?」
血盟騎士団副団長のアスナが何気なく発した言葉により、ユーリに緊張が走る。隠蔽率を確認すると9割以上を保っているはずがすでに2割ほど減少していた。お願いだから、バレるなよなと祈りつつ、背中に冷や汗がダラダラと流れる。
アスナは辺りをキョロキョロと見回していたが、ユーリはすでに列を追い越して次のゲートを潜ろうとしていた。
◆
今日も平常通り迷宮区の探索を続け、そろそろ終わりにして帰ろと思っていた矢先、ふと人の気配を感じ、周りの見回す。
「き、気のせいかな?けど、確かに今、人が……。」
「副団長、どうかなされましたか」
急にうろうろしだす私を見て、心配になったのか団員の1人が声をかけてくる。とりあえず、大丈夫とだけ言っておく。喉に小骨が引っかかるような違和感を残していると後方から全身黒に統一されたプレイヤーが物凄い速さで駆けて来る。異常事態と判断した団員達が即座に戦闘態勢を取り、真っ黒黒助へと武器を突きつける。
「ストップストップ!この人、知り合いだから大丈夫」
私の言葉を聞き、首元へと突きつけた武器を下ろしたのを確認し、ひとまず安堵する。
「ふぅ〜……酷い目にあったぜ」
あ、そうだこの人ならと思い、尋ねる。
「ところで君。今、索敵スキルどの辺?」
「それなら、この前、完全習得したぞ」
攻略組でのソロプレイヤーである彼ーキリトーは得意気にニヤリと笑う。
「なら、今すぐ使って付近にプレイヤー……。多分、ソロの人がいないか確認して!今すぐ!」
「い、イエッサー!」
アスナに鬼の形相で急かされ、確認する。しかしこの場にいるプレイヤーを除いて、プレイヤーどころか、モンスターの反応すら見られない。
「いないな。ところで、どうしたんだ?」
今更ながらにキリトがアスナへと疑問をぶつける。
「それがね、人が側を通った気がしたのよ。けど、周りに誰もいなくて。だから、私よりも熟練度の高い隠蔽が使用されていると思ったからあなたに頼んだのよ。けど、君でも、わからなかったのか……。ところで、君はあんなに急いでいてどうしたのよ。」
「ああ、多分アスナがすれ違ったプレイヤーを追ってるんだ」
「じゃあ、私もついていくわ」
「は?」
「「「「「ちょっ、アスナさん/副団長⁉︎」」」」」
まさかの発言に驚愕が隠せないキリトと団員達。彼らは必死になって副団長を止める反対材料を探す。
まず、先陣を切ったのは黒の剣士の異名で知られる キリト。
「ちょっ……。なんで急に?」
「それは、完全習得している索敵にも引っかからない隠蔽を持ったプレイヤーなんてそうそういないじゃない?だから、きっと高レベルプレイヤーだと思うから是非会ってみたいと思って」
しかし、アスナの思わせぶりな表情と簡潔にまとめられた理由にあっさりと納得されてしまう。
「ちょっと納得しないでくださいよ!アスナさん、攻略の方はどうするんですか!」
「いや、次の安全地帯まで行ったら、解散にしようと思ってたところだから。というわけで解散!」
急に解散を命じられ、唖然とする一方で、反論材料がなくなった団員。続いて別の団員が俺のターンだと言わんばかりに反論する。
「副団長⁉︎もし、そいつが危険な輩だったらどーするんですか?隠蔽使用しながら行動するなんて碌な奴じゃないですよ。もし、プレイヤー・キラーだったらどーするんです!」
「そこは…ホラ。黒の剣士様を護衛に付けて行くから。」
「えぇ⁉︎俺かよ!」
意図的ではないとはいえ、アスナに上目遣いでお願いされ、NOとは言えず、さらに他の団員も反論できずにあっと言う間に言いくるめられてしまった。
ちなみに上目遣いでお願いされた事が羨ましいのか、血盟騎士団の団員達は視線で殺せそうなほどの形相でキリトを睨みつけている。
「じゃあ、急ぎましょう」
「…………はい。」
団員達は諦めた様子で気をつけてくださいねとだけ言って、転移結晶を使い、一足先に帰って行ってしまった。
そして、ゲートを潜ると進行方向にモンスター三体、道を塞ぐ形で配置されていた。
「リザードマン・ファットね…。三体だと少し厄介ね。」
リザードマン・ファットは動きが鈍い代わりに耐久力が高く、さらに集団でいるとスイッチなどの技術を使って、動きをカバーしてくる厄介極まりないモンスターである。
「アスナ、俺が二体相手にするから、早めに一体倒して加勢に回ってくれ」
「わかった……え⁉︎」
いざ、行動を開始しようとした瞬間、虚空からフードを被ったプレイヤーが現れ、リザードマン一体を一撃で屠り、さらに二体相手にも圧倒する戦いをする。その光景に目を奪われる二人。
「な、一撃で⁉︎」
「黒のローブに、刀……。俺がつけていた奴だ!」
キリトが叫んでいる間にも、一人と二体の戦闘は続けられており、リザードマン二体がローブのプレイヤーめがけ、曲刀を振るうがそれを難なく躱し、三連撃《緋扇》を命中させると空いた左手にソードスキルの光を纏わせ、拳をリザードマンに叩き込むと一度距離を取る。
「あれは体術スキルの《閃打》だ。回避と同時に食らわせたのか……。」
謎のフードのプレイヤースキルの高さに思わず舌を巻く。
左右から挟み込みように曲刀スキル《リーパー》を放つが刀の鞘で地面を突いて、垂直に飛び、それを躱すとリザードマンの背後へと着地し、首を撥ね、ポリゴン片へと変えてしまう。
「嘘だろ……最前線のモンスターをあんなあっさりと」
「ぼさっとしてないで行くよ!
「え!お、おう。けど、行ってどうすんだよ」
「攻略に参加してもらうのよ。あの動き見たでしょ。そうそうできるものじゃないわ。それにあの人は血盟騎士団の中でも噂になってるの。それにできれば……やっぱなんでもないわ」
「さいですか…」
最後何かを言いかけるが目が是非戦いたいと顔に書いてある。若干呆れつつもすでに走り出しているアスナの背中を追う。
◆
「待ちなさい!」
パリーンと心地よい音を聞き、いざ奥へと進もうとすると背後から聞き覚えのある声が響く。
後ろを振り向いたユーリはフードの奥で苦い顔をする。そこには、黒のロングコートを羽織った剣士と赤と白を基調にした騎士風の服装をした女性が仁王立ちしていた。
(よりにもよって、アスナとキリトかよ……)
攻略組で有名なプレイヤーといえば?と問えば、10人中8人くらいが答えそうなくらい有名な二人がそこにいた。
「あんたが最近巷で噂されている人狼っていうプレイヤーだよな?何で顔を隠すんだ?」
「(バレてる!? いや、幸い顔は見られてない…………逃げるか)……転移、コラル!って、危ないな!」
ポケットから、転移結晶を取り出し転移しようとするがキリトが急接近し結晶を奪おうと手を伸ばして来ていた。即座に後ろに飛び、回避したのでキリトの手は空振り宙を切る。
これじゃ、転移できないじゃん!くそ、キリトの奴め……忌々しい!
こうなったら、俊敏値に任せて走って逃げるか……。さすがにキリトでも、反応できないだろう。
転移による脱出を不可能と判断し、別の逃走プランを立てる。
ダッ!と地面を蹴り、キリトの真横を通り抜ける。だが、そう簡単には行かなかった。キリトが反応し、足をひっかけてきたのだ。
(ちょっ!あいつ、何してくれてんだよ!)
咄嗟に地面に手をつき、バネのようにして上に飛び上がる。後方に控えているアスナを越えれる…………はずだった。
「フギャア⁉︎」
飛び上がった事でローブの裾がめくり上がり、露見した尻尾を引っ掴んできたのだ。普通のプレイヤーには絶対にない尻尾……それを強く握られユーリの全身にヘンな感じが迸るように駆け巡り、全身の筋肉が弛緩するような感覚に襲われる。そのため、空中での体勢が崩れ、勢いよく地面に叩きつけられ、床と熱烈なキスをする羽目になってしまう。
「イテテ…ひどい目にあった…え?もしかして詰んだ?」
鈍痛から回復し、顔を上げると眼前にニヤリと笑みを浮かべて見下ろしてくる二人がいた。
「さて、顔を見せてもらおうか、人狼さん?」
ついにローブに手を掛けられ捲りあげられる。顔を見た二人は目を丸くし、驚きを露わにする。
「へぇ、本当に犬耳があるんだな……って、ユーリ!?」
「嘘、ユーリ君って、一カ月前から攻略に参加しなくなった?けど、彼は銀髪じゃないし…………本当だ」
「…………はぁ。キリト、アスナ。久しぶり」
バツの悪そうな表情をしながら、約一か月ぶりの再開を果たすユーリ。諦めたように大きくため息を吐き、二人を見れば、目を丸くし、固まっていた。
後書き
「ようやく書けたぜ……バタッ」
ユーリ「遅ーよ、一話目投稿から何日経ってると?」
「いや、マジすいません……。これから頑張り〼。」
シィ「出番……」
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