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フェアリーテイルの終わり方

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幕間二 氷炭、相愛す
  3幕

 
前書き
 妖精 の 前進 

 


 戦闘の分担は、ジュードがセルシウスと格闘戦、フェイがアクアドラゴンに精霊術戦となった。

 セルシウスは強かった。ジュード自身、格闘を修めていてそこらの人間より強いという自負がないわけでもなかった。だが、セルシウスの打突や蹴りの一つ一つが、下手をすると師ソニアに近いほど重く、速かった。

(それでも、拳が砕けたって、これがセルシウスの心に、僕らの〈証〉として届くなら――!!)




 一方のフェイは、アクアドラゴンがジュードとセルシウスの戦いの邪魔にならないよう、精一杯ガードしていた。

 攻撃系や補助系の術に回すマナを全て防壁形成に回せば、アクアドラゴンほどの大物であっても進ませない「壁」を織り上げることができる。
 さらに、「壁」は光の属性を付加したもの――フォースフィールド。炎ほどでなくとも、光熱がある。

 アクアドラゴンは「壁」に体当たりしたり、巨体の尾をぶつけたりしたが、その分だけダメージも負っていた。


「はああぁぁ!!」
『くあぁ!?』


 はっとしてふり返る。セルシウスが地に倒れ、荒い息をしながらもジュードは立っていた。

(よかった。ジュード。勝ったんだ)

 ――その気の緩みがいけなかった。

 ずん!
 アクアドラゴンが大きくフォースフィールドの壁に体当たりをし、光の壁は撓んだ。フェイがとっさに身を庇った隙に、アクアドラゴンは召喚主を救うべくジュードたちのほうへ翔けていく。

 アクアドラゴンが氷の光線を大口から放つ。あの距離ではジュードにもセルシウスにも当たる。
 フェイはパーティクルロンドで加速し、その光弾から、庇った。





 アクアドラゴンが放った光線を、まだ体力が残っていたジュードはどうにか避けることができた。しかし、他でもないジュードが負かしてしまったセルシウスは。飛び込んできたフェイは――

「……ココ、だよ…ジュード…」

 ジュードの懸念を吹き飛ばすように、二人の少女は無事だった。光線によるダメージを受けてはいなかった。

 フェイがセルシウスを庇って、光線の射線から出て押し倒していたからだ。

「セルシウスっ――フェイ!!」
「だいじょ、ぶ。ケガ、してない」

 セルシウスは困り果てた様子で、自分に圧しかかるフェイを見やる。

『お前…私は大精霊だぞ? お前が…人間が身を挺して庇う必要などないのに…なぜ…』
「何で、だろ。うん。かわいかった、から、かな。ハジメテの人との思い出、大切そうに話す、あなたが」

 セルシウスは唖然として言葉もないという様子だ。ジュード自身、失礼ながら彼女に「可愛い」という形容詞は当てはめにくい。「凛々しい」や「厳しい」なら分かるのだが。

 ジュードはとにかくフェイを助け起こした。上にいたフェイがどいて、セルシウスも起き上がる。

「大丈夫? 本当にどこもケガしてない?」
「多分、してない」
「もう……今ので寿命が縮んだよ」
「ゴメンナサイ」
「セルシウスは? 力、だいぶ使ったでしょ? 体は何ともない?」

 すると、ふいにセルシウスがくすくすと笑い出した。

『お前たち二人とも、本当にあの馬鹿に――ハオにそっくりだ』

 ジュードとフェイは顔を見合わせた。その間にも、セルシウスは笑い続けた。





 ジュードたちはマクスバード/リーゼ港に渡った。

 セルシウスには一旦、実体化を解いて休んでもらっている。
 今日はここで一泊して、明日、セルシウスが最後に示した場所へ行く予定だ。

 宿の前に着いたのに、フェイは沈みゆく夕陽を眺めて動こうとしない。その理由を、ジュードも何となしに察していた。

 ジュードはフェイの隣に並んで彼女に声をかけた。

「えらかったね、フェイ」
「え?」
「セルシウス、助けてあげたでしょ。今まで『色々』あったのに。よく頑張ったね」

 10年にも渡る実験体としての扱いも、大精霊からの不条理な虐待も超えて、「精霊」を守った。ただ庇ったというだけに留まらない。フェイにとっては大きな前進のはずだ。

「えらくなんか、ないよ。もっと早く、こうできればよかった」

 潮風が色のない髪を吹き上げ、少女の表情を隠した。

「アスカ、出してあげればよかった――」

 ジュードはまじまじとフェイを見つめた。
 今の台詞は今までのフェイでは絶対に口にしない台詞だった。

(フェイは精霊を嫌ってた。けどセルシウスのことが、フェイに大きく影響した。セルシウスがハオ博士と接して何かを感じて、そのセルシウスと接してフェイの心境が変わった)

 一方だけが影響を与えるのではない。影響し、影響されて、互いが少しずつでも変化していく。それこそが――共存。

 それに気づいた時、ジュードの中で、バラバラだったパズルにピースが嵌っていくような感覚があった。 
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