少年少女の戦極時代Ⅱ
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後日談
第137話 暗黒の果実
――異常事態は、ドルーパーズからの帰途にあった咲と戒斗にも襲来した。
「何だこいつは…!」
「虫やだ~!」
大量のイナゴが飛び去ったところで、その少女は、立っていた。
「久しぶりだな」
咲は反射的に後じさった。左手に青いリストバンドを嵌めた、どこにでもいる少女のはずなのに。どこかが、ただの人間と決定的に異なっているのを、感じた。
「あの人……」
「知り合いか?」
「ううん。ダンスのステージ、よく観に来てる人なんだけど、でも、久しぶりってほどじゃないはずなのに」
少女が出したのは――戦極ドライバー、そして、黒とマゼンタのリンゴのロックシードだった。
少女がドライバーを装着すると、インジケータがイニシャライズされた。模造品などではない、本物のドライバーである証拠だ。
「変身」
《 ダークネスアームズ 黄金の果実 》
リンゴを模したマゼンタと銀の鎧が少女に被さり、少女をアーマードライダーへ変貌させた。
『「私」のことを忘れたか?』
黒紫のアーマードライダーは、すばやく距離を詰めるや、咲の首を片手で掴み上げた。足が地面から離れる。その足で黒紫のアーマードライダーを蹴っても、黒紫のアーマードライダーはビクともしなかった。
『私だ。コウガネだ。ここまで力を取り戻すのに苦労したぞ』
「コウ…っ、ガ、ネ…?」
その名は咲の脳裏に、ある「夢」を思い起こさせた。まだオーバーロードと戦っていた頃に、不思議な夢を見た。
ダンスではなくサッカーが街を上げての娯楽だった沢芽市。黒い鎧武。瑠璃の名を冠した少年。そして、鮮やかな赤と金のリンゴのアームズ――
『そうか。お前にとってあれは夢の中の出来事か。だが私にとっては耐えがたい屈辱だったぞ!』
コウガネは咲の首を掴んだまま、腹にパンチを叩き込み、咲を道に投げ捨てた。
だが咲は道に転がることはなかった。戒斗が咲をキャッチしたからだ。咲は戒斗に抱えられたまま、腹を抱えながら咳き込んだ。
「事情は知らないが、敵で間違いなさそうだな」
「けほっ……うん、そ、うね」
「立てるな」
「うん…っ」
そうだ。駆紋戒斗が認めた室井咲は、この程度で屈するほど弱くない。
咲は痛みを無視して戒斗の腕から降り、立って戒斗と並んだ。
「行くぞ。咲」
「うん。戒斗くん」
咲と戒斗は戦極ドライバーを装着し、おのおのの錠前を開錠した。
《 ドラゴンフルーツ 》
《 バナナ 》
彼らは錠前を戦極ドライバーにセットし、カッティングブレードを落とした。
「「変身」」
《 ドラゴンフルーツアームズ Bomb Voyage 》
《 バナナアームズ Knight of Spear 》
果実の鎧が頭に落ちて、咲を、戒斗を、装甲する。あっというまに、室井咲はアーマードライダー月花に、駆紋戒斗はアーマードライダーバロンに変身した。
バロンがバナスピアでコウガネへ刺突をくり出した。コウガネは全てを紙一重で躱し、マゼンタ色の大橙丸で受け止めた。
バロンが鍔迫り合いでコウガネを動けなくしている所へ、月花はDFボムを投げた。バロンも承知の上で、コウガネを蹴って離脱した。コウガネ一人の上でDFボムが爆発した。
『やったか?』
『わかんない。中の子、女の子だし、威力弱めに設定したから』
やがて煙が晴れて――コウガネはそこに健在だった。
『うそ…! いくら弱くても、無傷じゃすまない威力なのにっ』
『咲、もう一度だ。最悪、俺ごと爆破しろ。俺はそう簡単には死なない体だからな』
『う、うんっ』
再びバロンがコウガネに、バナスピアを揮って挑んだ。バロンはあらゆる角度からコウガネと鍔迫り合い、コウガネの動きを止めた。そこに月花がDFボムを、今度は高威力に設定して投げつけた。時には月花が前衛に出て、バロンが黄色いソニックブームを地面から生えさせて攻撃した。
しかしそれらの努力は、コウガネの鎧に僅かな傷を与えるに留まった。
――月花とバロンでは、コウガネに決定的なダメージを与えられない。
何十度目かで、月花はそれを認めざるをえなかった。
『この変身でダメだというなら……!』
バロンが両手を力強く広げた。その時、月花は彼が何をしようとしているか悟り、バロンの背中からしがみついた。
『戒斗くん、ダメ!』
『っ、離せ!』
『だって戒斗くん、オーバーロードになる気でしょ!?』
離さなかった。ここで戒斗がロード・バロンに変異すれば確かに、この謎のアーマードライダーに勝てるかもしれない。
だが、もしその場面を、一般人に目撃されでもしたら。
沢芽市民の認識では、アーマードライダー=善、怪物=悪なのだ。戒斗を標的とした魔女狩りが始まってしまう。それだけは絶対に許せない。
『話にならん』
黒紫のアーマードライダーは呆気なく背中を向けた。
『さあ、狩りの始まりと行こう』
後書き
邪武=コウガネが最後の敵として出た時、何故自分は劇場版を観に行くのを渋ったのかと本気で後悔しました。おかげさまで「誰ダオ前ハ?」状態でしたよハッハッハー……ハァorz
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