| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

バカとテストと白銀(ぎん)の姫君

作者:相模
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
< 前ページ 目次
 

序曲~overture~
   ~プロローグ~

窓の外は暗く、今にも雨が降り出しそうな雲行きだった。
暗い部屋の中を灯しているのは目の前にある机の電灯ただ一つ。

「千早様……」
「ごめん、史。すこし席を外しておいてくれない。」
「……承知しました。」
扉が閉まる音を最後に、また部屋の中から全ての音が掻き消えた。
僕は不登校を続けていた。きっかけは些細な事だったのだと思う。
僕の何かが彼らの憤りに触れてしまったのだろう。
実際の社会なら、そんな奴は気にもかけなければいいだけの話。
そりが合わない奴とは逢いさえしなければどうってことは無い。
でも、閉鎖された「学校」という空間は違う。
嫌な奴だって毎日顔を合わさなければならないし、何よりも周囲にいる全員は、「教師」や「成績」といったでたらめな「定規」が生み出す「比較」の被害者だろう。

共通の話題を持たない、言葉が見下しているように聞こえる、容姿が女みたいになよなよしている。
そんな風に疎外される要素を何個も持つ人間であり、さらにはそもそも友達づきあいの良い方ではなく、周囲の人間に対して一歩引いて身構えているような態度。
そのためだろう、級友との関係の「転落」はあっと言う間だった。
クラスメイトとの不和は無視に変わり、そしてそれが嫌がらせへと発展するのには、さして時間はかからなかった。
僕はますます学校で孤立し、その無言の苦痛が何ヶ月も続いた挙げ句にとうとう学校に行かなくなってしまっていた。

コンコン
「……千早ちゃん、入りますよ。」
「母さん。」
「千早ちゃん、あなたはいつまでそうしているのですか?」
「……」
明確な答えなど持っていない。
答えられる訳がない、そもそも家にいつまでも引きこもっていること自体、ただ苦しみから逃げているだけ、なのだから。
そんな自分に腹が立つ。
「千早ちゃん……」
「このままでは、あなたは前に進むことも出来ないのよ?」
「……」
「決めました。あなたは文月学園に編入し、そこを立派に卒業するのです。もしそれさえ出来ないのであれば……」
「……ならば?」
「あなたを勘当します。いいですね。絶対に通い抜くのですよ。」
こうして、二年から僕は文月学園に転入することが決まった。
この時、僕はまだ事態を甘く見ていたのかもしれない。
「っ……、分かりました。」
間違いに気づいたのは文月学園の近くのマンションへの引っ越しが終わり、母さんが様子を見に来たときのこと。

「これが千早ちゃんの制服よ、サイズが合っているか袖を通して見てもらえないかしら。」
そういって渡された包みをもって奥の部屋で着替えるために引き返すまではよかった。

「母さん、どうしてこれを?」
「やっぱり千早ちゃんは女の子の服を着ているほうがかわいいわよ。」
渡されたのは文月学園の女子用制服一式、夏用冬用それぞれ三着ずつだった。
「あの……、母さん?間違えてはいませんか?」
「何を言っているの?千早ちゃんはせっかくの美人さんなんだから、お洒落しなきゃいけないわよ。」
「千早様、よくお似合いでございます。そちらの服は肌の露出を押さえるために学園側に無理を言って作っていただいた物なのです。」
史、褒めているのか取り繕っているのか分からないことを言わないでくれないかな。
「母さん、何か間違っていませんか?」
先ほど問いかけた疑念を再び問いかける。すると母さんは心底不思議そうに首を傾げながらようやく答えてくれた。
「あら、千早ちゃんにはちゃんと女の子として、文月学園では過ごして貰うって言わなかったかしら。」
一瞬にして部屋の中の気温が氷点下まで下がったように感じた。
「えっ?私なにか駄目なことを言ってしまったかしら。」
「いえ、奥様。何もございません。千早様は新しい環境に適応できるか御懸念を召されているだけで、何一つ奥様に落ち度はございません。」
「そ、そ、そうですよ、母さん。心配でして、あは、あはは……」
「今からそんなことでは心配ですよ、千早ちゃんにはお父さんの後を引き継いで立派な外交官になって貰わないといけないんですからね。たかだか学校なのです、立派に友達づきあいをしなさい。いいわね。」
「分かりました。」
「じゃあ、私たちはそろそろ帰ります。」
そういって手荷物の整理をし直し始めた母さんにばれないよう、史は僕のところにやってきた。
「史、どういうこと。」
「千早様、残念ながら奥様のお言葉は嘘ではありません。既に申し上げましたがそちらの制服は千早様の物です。今学年より試験的に販売されるロングスカート型の制服ですが、実質的には御門家から提案され、千早様の為に作られた制服です。」
「そんな、バカなことがあってもいいのか……」
「千早様の心中、お察し申し上げます。しかし今回の奥様のご様子から拝察しまして、通い通せなければ勘当は確実のものと思われます。」
「史、帰りますよ?」
「はい、奥様。千早様、申し訳ありません。」
玄関まで出ていって、二人を送り出した後の部屋の中は何もかもが静かで。
ようやく自分の状況がとんでもない状態になっていると認識した僕に出来たのは、ただ自分の行いをしばらくの間悔やみ、絶対に学園の人間にばれてはいけないと、昔教えられた女性らしい仕草を研究することだけだった。


こうして、二年から僕は(女装して)文月学園に転入することに成ってしまったのだ。
無情にも女装での学校生活は刻一刻と迫りつつあった。






ご主人様の悩み、侍女の悩み1

私は御門家に仕えている侍女の一人で、今は千早様付きを仰せつかっております、渡會史と申します。
侍女として、千早様のお望みを可能な限り叶えることが私の使命だと心得ています。
千早様は物事にこだわりなさるととことんまで極め抜いてしまわれる方で、そんな千早様のことを私は尊敬しております。
ですが……
「ねぇ史、どれぐらいの方がいいと思う?」
「千早様は細身であらせられますから、大きくしますとすぐに上のクラスに成ってしまうかと。」
「…うーんDかEか…」
バストの大きさ(パッドの大きさ)まで真面目に考え成さらなくともよろしいかと存じます。

千早様がこだわりなさり始めたのは恐らく、奥様の講義の後ぐらいだったでしょうか。
「いい?千早ちゃん。お化粧には確かに技術もセンスも必要だけれど、大切なのは心の中から綺麗になることなのよ。」
「いや、母さん……僕に女性の心構えを教えられても困るんですが」
「何を言っているの!やるなら基本から徹底的にです。ちゃんと全部できるまでみっちり鍛え上げますから!」
そういって奥様は千早様の頬をぐにぐにと指で玩びなさっています。
「………はぁ」
「自分の肌の状態はいつも気にしていなさい。朝顔を洗うにしても、肌の健康状態に合わせて方法を変えるぐらいの努力はは必要ですよ。それだけでベースメイクの乗りがそれだけで違ってきてしなうのだから。」」
「マジ、ですか」
千早様がぐったりするのと反比例するように、奥様は微笑みなさいます。
「はい、大マジです…じゃあまず、朝起きた時に顔がかさかさだった時ね。これは……」
スキンケア、ヘアケア、メイク、コーディネイト。とてもでは無いにしろ一日で覚えられる許容量は超えている気がします。
「ふふっ、それにしても千早ちゃんは教え甲斐がある子ねぇ……」
「嬉しそうですね、母さん……」
「だって嬉しいわ。母さん千早ちゃんも好きだけど、もう一人ぐらい女の子が欲しかったし……」
「………」
「でも良いわね。千早ちゃんこんなに綺麗なんですもの☆」
「…ですから、そんなことを言われても全然嬉しくないです!」

何か引っかかるものがありますが、私としては親子仲のとても良いお二人だと改めて思いました。


 
 

 
後書き
どうでしょうか、次の話からは文月学園が中心の話となっていきます。
感想、お聞かせ願います


因みに千早様が最初にお選びになったのはGだったかと、史は存じます。 
< 前ページ 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧