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ソードアート・オンライン ~深淵の藍~

作者:裏方
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第二章 ソロプレイヤー〈ナナシ〉

 
前書き
どうも、倉庫こそ我が城の裏方です。
遅くなりました。今後もこんな感じです(汗)。

感想・アドバイスなど頂ければ 

 
 2023年3月18日 第8層・墓場草原

 一面を灰色の草原の広がるフィールドダンジョン。しかし、目を凝らせばすぐに解る。生えているのは草ではなく、古ぼけた細木で作られた夥しい数の墓標。それが地平線の果てまで立ち尽くしていた。
 そんな場所を俺は疾走している。その後をしつこく追いかけて来る奴らがいるからだ。
 銅色の兜を被り、白骨の手で刃こぼれした剣を握るモンスター《アンデット・ソルジャー》。それが計三体、現在進行形で襲ってきている。
 このフィールドでは低級モンスターの部類にはいるが、それはパーティで挑んでいればの話だ。
 生憎と俺はソロ。助けてくれる仲間はいない。故に一対多の戦い方は心得ているつもりだ。
 素早く方向を転換し、モンスター達に向かって突っ込む。当然、連中も俺を殺るつもりでボロい獲物を振り上げる。馬鹿な奴と言いたげにカタカタと歯を打合せる音が酷く耳障りだ。

「疾っ!」

 鋭く息を吐き、迫る三体の動きを洞察しつつ接近する。


 ソロの戦い方 その一。『相手をよく見て、最も動作の遅い敵から攻撃する』


 こちらはすでに攻撃モーションに入っている。それに対してモンスターも反撃しようとモーションを起こす。だが一番速く動くのは一番接敵しているモンスターだ。後方にいればそれだけ反応が遅れる。そこがチャンスだ。
 俺の曲剣《ハルパーサーベル》がソードスキル発動と同時に青い光を放つ。狙いは動作の遅かった右の一体。
 カカッ、と笑う先頭の骸骨が振り下す獲物が輝く。ソードスキルだ。
 剣速はそれなりに速い。だが俺の目にはそこまで速くは見えなかった。

 ―――ザクッ!

 斬撃が防具を掠めた。命たるHPゲージに変化はないが、すべて失えば死に直結するのがこのゲームの絶対的ルール。

「まず、一体目…」

 そんな事はどうでもよかった。ただ目の前の敵を倒す。それが生き延びるための絶対的手段なのだ。
 俺の刃が骸骨の首を両断する。傷口のような赤いデータエフェクトが発生して、骸骨のHPゲージが空になった。
 途端にその体が静止。硝子塊が砕けるように爆散、微細なポリゴンの欠片となって消滅した。
 そんな事で残ったモンスターの足は止まらない。俺はそのまま駆けていた。


 ソロの戦い方 そのニ。『同じ場所に留まらない。常に動き続けろ』


 俺はこの教えに従い、ひたすらヒット&ウェイを繰り返した。
 そして、残り二体を倒したのは約一五分後の事だ。




 それからさらに一時間。このフィールドに死体の山を、墓標を築き上げた。
 代償として俺のHPバーは危険域(レッド)まで達してはいたが、回復アイテムはそれなりに準備してきた。そこまでこのデスゲームを舐めてはいない。そうでなくとも初心者プレイヤーを含めて二〇〇〇人近い命が散った。
 ふと視線をずらせば永遠に広がる墓標。この状況を見越してこのフィールドを創ったのなら、ソイツはイカれてるとしか思えない。天才の肩書きがあるからなお質が悪い。

「……帰るか」

 ここでのレベル上げは上々の成果だった。もっとも俺のような無謀なレベル上げのやり方なんざ、常人には理解できないだろう。自分のレベルよりも少しだけ高いフィールドで複数体を同時に相手にするのだ。前の層で会った同業者には「あんた、死にたいのか?」と真剣な顔で言われた。だから俺もいつも通りに言ってやった。

『そうかもな……』

 これが俺のやり方、生き方だ。俺は、そのために“ここに来た”…。


 ―――ピシッ!

 そんな事を思い耽っていると小気味良い音が響いた。しかもその音源は俺、厳密には防具たるコートからだ。

「なんd―――」

 最後まで言い終わる前にコートが薄い硝子板が壊れるようにデータの破片となって爆散した。

「………」

 呆気に取られた俺はそれを見ていることしか出来なかった。
 別に大層高い防具でもない。第4層で買った防具を今まで更新(メンテナンス)もしないで使い続けたせいで耐久値が無くなって消滅したのだ。
 頃合かと、納得して俺は転移結晶を使って町へと戻る事にした。レベル上げついでの“依頼”も済んだしな。
 戻ったら新しい防具を買わなくては…。

「転移、アイオール!」

 第8層の町の名前を発声すると結晶が発動。俺の体は光に包まれ、フィールドから消えた。









 第8層・アイオール

 この町の特徴と言えば鈍色の大岩を削り出して造られた建物だろう。独特の色合いと幻想的な外観はゲームならではと言ってもいい。
 町の転移門広場に戻ってきた俺が最初に向かったのはNPCショップ……ではなく、

「いるか?」

 とある雑貨屋。町の裏通りみある小さなプレイヤーショップだ。だがショップとは名ばかりで店の中は閑散としている。
 何も商品は物だけではからだ。

「……いるわ」

 店のカウンターには店主が静かに佇んでいた。獣皮のローブを着てフードを目深く被った人間。声からして女性プレイヤーだ。

「……依頼の方は?」

「あぁ、これだ」

 俺はメニューウィンドウを呼び出し、あるデータを彼女に渡した。
 それはさっきまで戦っていた《アンデット・ソルジャー》の固体データだ。
 どんなゲームにも存在するモンスター名鑑。彼女はモンスターのステータス、獲得出来る経験値、ドロップアイテム等の情報収集を依頼してくる情報屋だ。基本的にその情報はプレイヤーに売っているのだろう。

「……たしかに依頼は完遂されました。これ、報酬金」

 メニューを操作して、〈フラン → ナナシ〉と俺の所に金が振り込まれた。

「……頼んでおいてアレだけど、よくこんな依頼受けたよね」

「まぁ、レベル上げついでだと思えば大した事じゃない。それに唯一コンプできる可能性があるからな」

「……それにしては、無茶な戦い方をしているようね」

 その言葉を聞いて俺はつい目の前の店主、フランを睨み付けていた。

「悪いか?」

「……いいえ、悪くはないわ。ただ一対多の状況を故意に作ってまでしてレベルを上げる意味が理解できないだけよ。だったら、パーティを組んだ方がよっぽど効率が良いもの」

「いつから俺のやり方を詮索するようになったんだ?」

「……誤解だわ。情報が勝手に入ってくるだけ」

 そう言ってフランはぷいっ、と小さく背けた。フードで表情は見えないがたぶん怒っている。彼女なりの気遣いを咎めてしまったんだと理解するのにそう時間はかからなかった。
 どうしたものか……。

「あ~、悪かったよ。お詫び代わりにこれ置いていく」

 俺はメニュー画面を操作して手に入れたばかりのアイテムをオブジェクトとして実体化させカウンターの上に置いた。

「……これって」

 置かれた物を見てフラン言葉を詰まらせる。
 それは一本の剣。剣と言っても浅黒い骨が脊柱のように連なった形状の武器だ。形状と見た目が俺の趣味ではなかったため、ストレージの肥やしになるはずだった物だ。譲っても構わなかった。

「……これ、《凶骨剣 ネクロマンシィ》。レアドロップ武器の一振り」

 レアアイテムだったか。だが、出した物を引っ込めるのもアレだ。

「じゃーな。また何かあったらよろしく頼む」

 そう言って入り口に向かおうとした。が、即座に腕を掴まれた。その手は思った以上に小さい。

「何だ、それじゃ足らなかったか?」

「…………ない………」

「何だって?」

 蚊の鳴くような声で聞き取れない。それから彼女はもう一度、今度はハッキリ言った。

「……こんな凄いアイテム、簡単に受け取れない!」

「いや、俺必要ないし。今回のデータ収集の一巻だと思って―――」

「……依頼したのは固体データだけ。ドロップしたアイテムまでは貰えない。ワタシだって情報屋の端くれ、依頼以上の物は求めないわ」

 その時、彼女の瞳が一瞬だが見えた。フードの奥に覗く碧玉のようなその瞳は本気である事を俺に訴えかけていた。
 しかし俺とて『解かったよ』なんて言って引き下がれるほど器用ではない。
 さて、どうしたものか……。
 そんな煮え切らない俺にフランは一つの提案を出した。

「……なら、交換(トレード)しましょう」

「交換?」

「……そう。と言ってもこれに見合った品を私は持ち合わせていない。不服なら持って帰って競売にかけた方が得だわ」

「面倒だからここで済ませる」

「……解かったわ。それで、何と交換する?」

 そう言われても今欲しい物なんて特には……………あっ!

「防具だ」

「……防具? そう言えば今日はやけに薄着ね」

「耐久値がなくなって壊れた。ここの報酬で新しいのを買うところだったからな」

「……そんな物でいいのなら、これなんてどうかしら?」

 フランがアイテムストレージからオブジェクト化したのは、一着のコート。俺も見た事がない。
 特に目を引くのはその色合いだ。

 それは深い青。吸い込まれそうな程に深い青。不覚にも、見入ってしまった……。

「……アイテム名は《ダークブルー・スカイレイカー》。俊敏性重視の貴方にピッタリの性能よ」

「『夜空を見晴らす者(ダークブルー・スカイレイカー)』……か」

 実際に手に持ってみると直感が確信に変わった。これは気に入った、と。

「交換だ」

「……いいの?」

「あぁ」

 フランがメニュー画面を操作すると、俺の前に小さな画面が展開した。『交換に同意しますか? Yes/No』と表示されたそれに、俺は迷い無く『Yes』を押していた。










「……着心地はどうかしら?」

「悪くない」

 早速コートを装備すると、内心感動している自分がいた。
 ゲーム内で着心地も何もないのだが、何故か落ち着く。


「…………………………(似合っているわ)」

「何か言ったか?」

「……何も言ってない」

「いや、お前。絶対何か言―――」

 そこで言葉を遮ったのは俺の鼻先まで迫った銀色のナイフ、その切先だ。
 向けているのは他でもない店主フランだ。

「……何も言ってないわ。えぇ、何も言ってない。それでも何か聞く?」

「………OK.俺の聞き間違いだ」

「そう」と言ってフランはナイフを収めた。
 言ったような気がしたんだが、空耳か?
 何とも納得がいかないが、これ以上は今後に関わりそうだと無理矢理に自分を納得させた。

「それじゃ、今度こそ行くぞ。またよろしく頼む」

「……こちらこそ」

 素っ気無く見送られ、俺は店を後にした。










『……そうよ。私と彼は顧客(ギブ)と情報屋(テイク)の間柄。それ以上はないわ』

 ワタシはそうやって納得するしかなかった。
 だって彼は、戦いの中に身を置く事しか出来ない不器用な人だから……。

「本当に似合っているわよ。ナナシ……」

 それだけはワタシの素直な気持ち。
 
 

 
後書き
いかがだったでしょう? 元々情報屋は男だったんですが、いつの間にか女の子になっていましたw
早いタイミングで言いますと、彼女はヒロインではありません。原作の鼠の様なポジションです。

それとお気付きでしょうが、この作者はアクセル・ワールドも好きです。普通にネタで使いますよ、えぇ。

次回はオリ主の紹介しようなんて考えちゃってます。見切り発車にご注意ください。

それでは m(_ _)m
 
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