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Dies irae~Apocalypsis serpens~(旧:影は黄金の腹心で水銀の親友)

作者:BK201
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第十八話 死者と真実

 
前書き
螢ちゃんはアホの子。 

 
―――夜・海浜公園―――

どうしてこうなったのだろうと俺は原因となった目の前の状況を見つめる。トバルカインが神父を攻撃し続ける。俺たちは三騎士を斃す為に櫻井にも同盟を持ちかけようとしただけなのに争いになっている。

「櫻井、アイツを止めてくれ!」

「……無理よ……私には出来ないのよッ!」

櫻井は声を荒げて否定する。櫻井ではトバルカインを止めることが出来ないらしい。止められるのはシスターだけだと櫻井は言う。だが、シスターは既に殺されている。神父は手を貸せという。しかし、そんなことをして櫻井が味方になるのか。

「何をしているのです。早くしなさい!私は防ぐことは出来てもこちらから対抗する手段は持っていないのですよ!」

声を荒げてそういう神父。そう、神父の異常なまでの堅さを知ったからこそ、攻撃するための手段が必要だった。そのために俺は手を組んだ。だったら、今の現状でしなければいけないことは分かってる。けど、

「櫻井、お前はそれで本当に良いのか?」

止めるわけでも無く、かといってこっちを手伝うわけでもなく悩んでいる櫻井。今ここで目の前にいるトバルカインを斃して、果たして櫻井はこちらの交渉を聞き入れるのか。否、おそらく目の前の彼《・》は櫻井にとって重要な人物だ。死者の蘇生を認めるわけではないが、その理論を押し付ける気は無い。俺と櫻井は水と油のような存在だ。俺の意見なんて水掛け論にしかならない。

「……良い訳ないでしょ……」

そう言って剣を構える櫻井。櫻井はトバルカインを庇うように俺とトバルカインの線上に立つ。

「聖餐杯猊下、それ以上彼に手出しをしないでください。続けるというのならば、私は貴方の言う交渉とやらを受け入れることは出来ません」

「そうは言われましても、別に私から仕掛けたわけではないのですが。如何すればこちらの話を聞いていただけますかね」

神父はそれこそ世間話でもするかのように話しかけている。実際、攻撃を受けても何らダメージが通っているようには見えず、受け流すこともせずに受け止めているだけ。寧ろ反撃もせずに居る様子から櫻井は押し黙ってしまう。

「フム、確かにこの場で争うのも不毛というものでしょう。ではここは彼を置いて一度離れませんか?」

「……場所はどこ?遠くまで行く気なら行かないわよ」

「彼が私を攻撃しない位置でよいでしょう。幸い、彼が私を攻撃する範囲はあまり大きく無いことでしょうし」

神父はトバルカインから距離を取り、彼が攻撃してこないであろう範囲まで逃れる。俺はそれを追いかけ、櫻井は躊躇いながらも俺たちについてくる。

「それで聖餐杯猊下、提案とは一体何なんでしょうか?」

「簡単な話です。手を組まないかという話ですよ。あなたとて三騎士の戦いを見たなら分かるはずです。彼らの実力は我々を超えており、そして我々を殺してスワスチカを開くことをよしとしている。更にはナウヨックスも全く同じです。リザを殺されるところを貴方も見たでしょう」

俺は櫻井がこの提案に乗ると持っていたが櫻井が出した答えは拒絶だった。

「その提案に乗ることは出来ません。それは貴方達も分かっていることだと思いますが?」

「櫻井ッ!何でだよ!あいつらはお前らのことを仲間なんて思って無い。躊躇い無く殺してくるぞッ!!」

「藤井君。貴方に言われなくてもそのくらい分かってるわ。でもね、その提案を呑むことは出来ないのよ。貴方も気付いてるでしょう。この町のスワスチカが既に六つ開いていることに」

皮肉気に口元で笑みを浮かべる櫻井。まるで疲れたような表情を向けながら言う。

「聖餐杯猊下。率直に問いますが貴方が開いたスワスチカは無いのでしょう?」

「確かに、私の手で開いてはいませんがそれが何か?」

「今も残ってるスワスチカの数は学校とタワーの二つ。でも私自身とカイン、聖餐杯猊下は黄金練成の恩恵を未だに受けていない。二つしかない枠に三人いる以上誰か一人はあぶれてしまうことになる。そうである以上、手を組む相手が間違っていると思いますが?」

「いやはや、これは随分と辛辣な意見を言ってくれますね。ですがそれならば私などよりももっと警戒すべき人達がいるでしょう。
リザを殺した張本人であるアルフレートや我々を殺すことに何の躊躇いなどもたない三騎士。彼らを前にしても同じことが言えるのですか?最早、我々は個人で自分の目標を達することは出来ない状況なのですよ?」

「それこそ今、猊下と同盟を組むほうがその確率が低いと私は見ているのですが?少なくとも私は例え一時的なものであろうとも藤井君、敵である貴方が居る限り手を組む気はありません。ですが少なくとも……今夜はこの公園にいることにします。少しでも力を温存しておきたいので」

そういって同盟の提案を断った櫻井はトバルカインのほうまで去っていく。神父に襲い掛かってきたとはいえ索敵範囲が狭いのか見える位置に居るトバルカインの傍のベンチでじっと座る櫻井。神父はそれを見ながらこう言った。

「私たちは明日の夜に仕掛けるつもりです。もしそれまでに気が変わったなら私達の下に来て下さい」

結局、櫻井を説得することに失敗した俺たちは先輩を助け出す方法を話し合うために移動する。

「ところで藤井さん。どこかに我々が話し合うために最適な場所はありませんかね?」

少なくとも俺の住んでるマンションは避けるべきだろう。幾ら手を組むとは言っても敵であるコイツを香純のいるところまで連れて行く気は無い。

「……ボトムレスピットだな。あそこならもうあいつ等にとって価値が無いからこないだろうし…司狼が生きているとしたらそこに何か置いてあるはずだ」

そういって俺たちはボトムレスピットまで移動する。



******



―――昼・海浜公園――-

アルフレートは公園でじっと座っていた。ザミエルとマキナがテレジアを保護する以上、二人が教会に訪れるのは確実である。一度互いに矛を収めたとはいえ相対すればどちらからということも無く牙を向ける可能性は充分ありうる。そして、もう一度戦うことになれば間違いなくそれを止めるためにマキナは動くだろう。そうなれば消耗しているアルフレートに勝つ手段はなく殺されるのが落ちである。

(シュライバーの魂はヴィルヘルムと僕が喰い尽くしたから赤騎士も黒騎士もシュライバーが居なくなったことに気付いては居ないだろうけど、問題はライニはともかく二人が僕を白騎士として認めるかという点について。エレオノーレはライニが認めていると知れば手出しすることは無いだろうけど今の状況でそれを確認する術はない。それなら互いに相対しないようにするのが最善というわけだ)

目立たないようにするため魂の総量を偽装する術式を敷いており、ジーンズにジャケット、更には外人という外見的特徴を目立たなくするためにニット帽をかぶるという一般人のような偽装を施していた。そんな中、海浜公園のベンチで一人姿勢を崩しながら座っていたアルフレートの前に一人の女性が立っていた。

「わざわざ誰とも会わないようにするための配慮だったんだけどな―――」

「治癒速度が他者に比べて遅い以上、今夜までに回復するにはせめて少しでもましなとこで居る必要がある。となればその場所は自然に限られ既にスワスチカの開いた場所しかない。教会はもとより遊園地、病院、博物館は封鎖されている。面倒を嫌う貴方は必然的にそこは避ける。
そして、普段から目立つのを避けるアナタはいても不自然でないこの公園で休息を取りにくると聖餐杯猊下が初日に教えてくれた情報から推測しました。私の推測は何か間違っているでしょうか?
まあ、それ以前にそもそもそのニット帽以外に以前と同じ服を着ていれば誰でも気が付きます」

取りあえず笑みを浮かべることで肯定を示すが同時に惜しい、と彼は心の中で思う。彼女の推測は半分正解で半分はずれだ。消耗していたことも治癒速度が遅かったことは事実ではあるがそれが六つ開いた今の状態でも同じというわけではない。既に魂の総量のみならば大隊長を除く団員を上回っており、それに比例して治癒速度も上昇している。である以上、別に公園で休む必要性などないのだが彼は櫻井螢がここに来ることを知っているがゆえにここで待っていた。

「良く出来ました。念のため聞いておくけどトバルカインと君以外にはいないよね?」

「私が知覚できる限りでは。ですがそういったことは既に貴方が確認しているのでは?」

「こういうのは相互の認識を確認しておくことが重要なんだよ。それで…君は何が聞きたいのかな?」

彼女が彼に何を持ちかけてきたのか。それを確かめるべく言葉を発する。幸い病院でトバルカインに傷つけられたことは根に持っていない様子であり櫻井からしても話しかけやすいといえた。

「貴方は以前、スワスチカを開く気はないとそう仰ったはずです。しかし、貴方はバビロンを殺して開いた。何故ですか?」

「真面目な話さぁ~、リザ・ブレンナーは僕にとって邪魔な存在だったんだよ。そんな中でね運よく彼女は殺されても仕方なの無いような不敬を働きかけた。ああ、いや実際に不敬を働いたわけじゃないけどね。でも、あの屍体愛好《ネクロフィリア》がもし生きていて真実を知ったなら今頃ヴァレリアよりも危険な裏切り者になった事だろうさ」

櫻井はその話を聞いて驚愕する。ヴァレリアが裏切っていることに気が付いてることも、それを止めようとしないことにも、彼がリザ・ブレンナーという存在をヴァレリアよりも高く評価していたことにも。しかし、それらを全てを含めても彼女は彼がいう真実という言葉に嫌な予感を感じていた。知れば何かを失うことになる。でも、彼ならそんな破滅を笑いながら否定する発言をしてくれるに違いない。そう思い尋ねる。

「少佐殿……真実、とは…?」

「言葉通り、聞けば引き返せなくなる黄金練成の秘密だよ。五色の色彩によって黄金を生み出す。つまり黄金の象徴である永遠によって死者は蘇り、生者は不老不死を得る。
そんな都合の良い妄想をまさかとは思うけど人を殺すという対価だけで出来るとは思っていないよね?」

そう言って嗤みを浮かべるアルフレート。櫻井は忘れていた。ヴァレリアが始めに言っていたであろう警告を。例えどれ程、戦場で経験を積もうとも所詮彼女は二十歳にも満たない若者である。知らず知らずのうちに彼女は彼が必ずしも味方をしてくれると勘違いをしていた。そんな甘い見通しが通用するはずもなくかれは言葉を紡ぐ。

「始めに忠告も助言もしたよね。前提が違うとも、望むなら手伝うとも。君はね良くも悪くも愚直だ。言われたことを疑うということが出来ない。だから利用され、騙され、捨てられる。いや、彼にとっては捨てたつもりは無いのだろうけど……」

聞きたくない、止めてくれと声にならない声で叫ぶ。きっと今から聞く言葉は何よりも自分を絶望させるのだと理解してしまったから。目の前にいる彼は悪魔の影に過ぎず、自分を陥れるであろう人物だから。

「この黄金練成は総てがラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒのエインフェリアになることが前提だ。つまりは城の法に囚われて永劫戦い続ける羽目になる。それは君にとって残酷な地獄への招待状ということなんだよ」

「あ、ああ……ああッ……」

聞かれたからこそ容赦なく答えを与える。行いには相応の対価を、答えを求めようと思うなら真実を知った上でも許容し行動できる強さを得るべきなのだ。それが出来ないなら彼女はこの戦いの場にいる者として相応しくないということになるがゆえに。
涙を流し、嘆き苦しみ、絶望に打ちひしがれるが故に壊れたかのように乾いた笑みを浮かべて笑う。最早、道化であり自分の生きる価値すら見ることが出来ない。

「さて、知った上で如何したい、螢ちゃん?」

それは悪魔が囁くように、地獄へと彼女を連れ去るかのごとく彼は彼女を己の都合の良い方に誘惑する。知ってなお突き進むか、一矢報いるか、それとも彼に救いの道を教えてもらうか……
間違ってもその先は地獄よりもある意味では恐ろしい道であろうが、絶望を知った彼女は視力を失った子供のようにその安易な道に縋り付こうとする。
彼は微笑む。それは他者からみれば酷く歪で残酷な表情であるだろう。彼にとってはこの甘言によって誘導する彼女は慰み物(・)であり玩具なのだ。
だが、果たしてこうなることを予想した人物はいないのだろうか。彼がある意味では高く評価していた人物はこのことを止める手立てを何ら用意していないといえるだろうか。そして、その答えは否であった。

彼女の懐に入れてあった仮面はトバルカインと化し、そしてそのまま雷撃が迸り、アルフレートごと地面を穿とうとする。とっさに気付いたアルフレートはいかに人が少ないとはいえ周囲に喧騒を起こさないようにするために消音と隠匿の術式を展開させる。だが、そのよう周りへのの配慮を顧みないトバルカインは剣を振り下ろしアルフレートを吹き飛ばした。

「…聖、餐杯……コロ…ス」

(やられた。リザ・ブレンナーは少なくとも誰かが彼女を利用することを考慮してそういった行いをする人物が聖餐杯であると認識させるように命令したということか。だが故に……)

「それは自殺行為だったということを教えてあげよう。言っておくが僕は君を許したつもりは無いんだ。手を出さなかったのは螢ちゃんがそこに居たからだ」

そういって彼はある者を目覚めさせるための詠唱を紡ぐ。

「彼ほど立派な奴隷も、 彼ほど見下げ果てた主人もいない (Es gibt weder Sklave als herrlich,den wer ist, ein Meister ist ganz hinunter angesehen worden. )
故に、いつまでそうして寝ているつもりだ。小さな軍靴(カリグラ)らしく一兵士として目を覚ましなよ」

トバルカインが動きを止める。その身が何かに縛られるかのように、その身が何者かに奪われるかのように。

「黒円卓(ヴェヴェルスブルグ)の聖槍(・ロンギヌス)は櫻井の家系にしか興味を示さず、櫻井の家系でしか扱うことが出来ない。じゃあそれを奪おうとするなら如何すればいいと思う?」

当然すぎる状況の変化に対応し切れていない螢は混乱の最中、突如動いたトバルカインをじっと見つめながらアルフレートの質問を聞き顔を向ける。

「どういう…こと?」

「君は聞いてばかりだね。自分で物事を考えようとは思わないのかい?聖遺物に干渉しようとする際、最も簡単な方法は聖遺物によって干渉することだ。分体が持っている聖遺物は実は形がはっきりと決まっているわけじゃない。
本来干渉できない聖遺物に干渉するために聖遺物を使う。カリグラの聖遺物はいうなれば聖遺物専用のハッキングツールとでも言うべき物かな?無論、持ち主の意志があれば干渉することなんて当然出来ないだろうけど彼は幸いなことに動くだけの死体だからね。病院で彼の雷《インドラ》を受けたときは流石に怒りがこみ上げていたものだけどそのときの反撃の際に折角仕掛けを施したのだから我慢したさ。その結果に彼の聖遺物の所有権はカリグラのものとなり、彼はその上でアレの呪いを聖遺物で押さえ込める」

それはつまる所、櫻井螢に対して櫻井戒の存在を奪うという行為に等しかった。彼女の望みが現時点で既に叶わないということを知った上でも許せる行為ではない。故に螢の行動は迅速ともいえた。
緋々色金を構え炎が散りばめる。絶望に打ちひしがれようとも諦めようとはしない。例えどれだけ、どれほど、誰であろうとも彼女は止まる気は無い。止める気は無い。時間は有限、アルフレートのいうカリグラによるトバルカインの支配が完了するまで。それでも彼女はそれを止めるために剣をアルフレートに構える。
笑みを浮かべるアルフレートは螢との戦いを前にして謳いあげるように言う。

「そう、君が認めたくないのなら立たねばならない。此処は戦場であり誰も泣き言なんか聞きはしない。意に沿わないなら捻じ伏せろ。気に入らないなら楯突いていけ。向かってくるなら牙を剥いて喰らいつけ。僕たちはこの国で言う、出る杭という奴なんだ。だからこそ打ってくるやつは殺してしまえばいいんだよ。だからこそ事実を認められないなら僕を斃して事実を変えて見せるがいい」

そう言った直後、螢は叫びながら彼に向かっていった。
 
 

 
後書き
実際、聖遺物で聖遺物奪うとか出来たら嬉しいよね。まあ、元からそういった能力に使用と思わないと絶対出来ないんだろうけど。 
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