FAIRY TAIL 友と恋の奇跡
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第194話 最終局面へ―――!
前書き
更新遅れてスミマセンでした!紺碧の海でございます!
今回は大魔闘演舞もいよいよ終盤戦に突入!果たして、優勝するギルドはいったいドコなのか―――!?そして、行方が分からなくなったマヤを探すルーシィ達。マヤはいったいドコへ―――!?
ナレーション風に書いていきます。
それでは、第194話・・・スタート!
壁も天井も床も、石造りのドムス・フラウ。
人影の無い通路を、覚束ない足取りでマヤは歩いていた。
マ「・・地下・・・地下・・地下・・・地下・・地下・・・地下・・地下・・・地下・・地下・・・」
ハイライトが消えてしまった、マヤの虚ろなオレンジの瞳はどこを向いているのかさえも分からない。ただ、何かに取り憑かれたように、呪文を唱えるかのように、同じ単語を繰り返し呟いているだけ―――――。
すると、前方から槍と盾を持った2人の王国兵が歩いて来た。
覚束ない足取りでふらふらぁ~と自分達の横を通り過ぎようとするマヤを2人の王国兵は持っていた槍をX状に交差させマヤの行く先を阻んだ。
兵1「ドコへ行く。ここから先は関係者以外立ち入り禁止だ。」
兵2「さぁ、大人しく会場に戻れ。」
マヤはしばらく動かなかったが、両手で2本の槍の柄を掴むと、
兵1「んなっ!?」
兵2「や・・槍が・・・!?」
いとも簡単に捻じ曲げてしまった。
マヤは槍を捻じ曲げた事によって出来た通り道を潜り再び歩き出した。
兵1「おいコラ!」
捻じ曲がってしまった槍を投げ捨てながら1人の兵士がマヤの左肩を掴む―――が、
兵1「うあっ!」
マヤの左肩を掴んだと同時に、バチッ!と電撃が帯び兵士は弾き飛ばされてしまった。慌ててもう1人の兵士が駆け寄り、マヤの左肩を掴んだ右手を見てみると、兵士の右手には火傷があった。
マヤは何事もなかったかのように、覚束ない足取りで歩き続け、角を曲がった所で2人の兵士の視界から消えてしまった。
兵1「な・・なぁ、あの女、動物姫のマヤ・ララルドじゃねーか?」
兵2「あ、あぁ。ドコに行く気だ?この先には、ドムス・フラウの地下に続く階段しかねェのに・・・?」
2人の兵士は床に膝と尻餅を着いたまま、呆然とマヤが消えた道の先を見つめていた。
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ル「マヤー!マヤー!」
ハ「マーヤァー!」
同じ頃、会場の外でルーシィとハッピーがマヤの名を叫びながら走っていた(ハッピーの場合飛んでいた)。
クロッカスの街の人々のほとんどが会場に行って大魔闘演舞を観戦しているので、クロッカスの街中は不気味なほどに静まり返っており、マヤの名を叫ぶルーシィとハッピーの声も不気味なくらいに響く。
時々、遠くの方からドゴォン!バゴォン!という凄まじい爆音が聞こえてくる。
ル「(あの辺で、リョウ達が戦ってるのね・・・)」
頭の中でそんな事を思いながら叫び続ける。
ハ「マヤ、いないね。」
ル「もぉ、マヤったらぁ・・ドコに行っちゃったのよぉ。」
立ち止まり肩で大きく息をしながらも、ルーシィは視線を辺りに巡らせ、見慣れた仲間の姿を探すがドコにも見当たらない。
ル「・・・もーっ!早くしないと、ナツの活躍見れなくなっちゃうわよーっ!」
ハ「ルーシィも、リョウの活躍見れなくなっちゃうからね。」
ル「うるさい猫!」
ブーツの踵を鳴らしながら、ルーシィとハッピーは再びマヤを探し始めた。
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ナ「うォらァ!」
一方、マヤがいなくなってしまった事を全く知らないナツは炎を纏った拳を勢いよく振るい、キースとレヴルに攻撃を仕掛けて続けていた。
レヴ「だらァア!」
キー「オリオン!目の前にいる敵をその棍棒で薙ぎ払え!」
オリ「オオオオオオオッ!」
ナツの攻撃をかわした2人は、拳に星の光のような輝きを放つ光を纏ったレヴルと、右手に巨大な棍棒を持った、怪力座のオリオンを呼び出したキースが同時に攻撃を仕掛ける。
ナ「火竜の・・・咆哮ッ!!」
レヴ「くっ。」
キー「うあっ。」
オリ「ぬぉあっ。」
口から灼熱の炎の息を噴出し、攻撃しようとしたキース達をその場で押し止めさせる。
レヴ「せ・・星竜の・・・咆哮ッ!!」
ナ「!」
一瞬の隙を突いて灼熱の炎に包まれたままレヴルは、口から金銀に光り輝く息を噴出した。
星の光の息はナツを呑み込んだ。
キー「ひ・・開け・・・!天馬座の、扉ァ!・・カラスティア!」
キースは銀色の鍵を取り出し、鍵の先端を上空に向け炎の外側に白銀の毛に翼を持った、天馬座のカラスティアを呼び出した。
キー「・・・カラス・・ティア、その翼で・・強風を・・・!」
所有者のキースの指示通り、天馬座のカラスティアは白銀の翼をはためかせて強風を起こし、灼熱の炎を吹き飛ばした。
ナ「くあぁぁあっ!」
対するナツは、身体全身から炎を噴出させ、星の光を焼き消した。
キー「オリオン、カラスティア、戻れ。」
キースは傷だらけの手で怪力座と天馬座の鍵を掴みオリオンとカラスティアを星霊界に帰らせた。
その隣でレヴルは左手で右肩を押さえながら荒く呼吸をしている。
ナ「流石だな・・・へへっ。」
傷だらけの2人の前にいるナツは平然としており目立った傷も無い。
キー「(俺とレヴル2人がかりで戦っているのにも係わらず、何であんなに余裕なんだよ・・・!?)」
レ「(技の威力、受ける代償はほとんど同じ・・・なのに、ナツさんの方がダメージが少ない・・・)」
キースとレヴルは歯を噛み締め、目の前にいる妖精を見据える。
ナ「俺もお前等も、まだ本気じゃねェ。そうだろ?」
同意を求めるように、ナツはキースとレヴルから視線を逸らさずに言う。
キースとレヴルは顔を伏せた。
レヴ「(やはり・・・“最強”になる為には、“最強の魔法”を使うしかない・・か。)」
キー「(ホントは、開きたくなかったんだけどな・・・ここまで来たなら、開くしかないっ!)
キースとレヴルが、顔を上げたのは同時の事だった。
ナ「!」
顔を上げたレヴルの右頬には金色の模様、左頬には銀色の模様が浮かび上がっており、顔を上げたキースの右手には1本の黒い鍵が握り締められていた。
ナ「(ドラゴンフォース・・・)」
レヴルは第3世代の滅竜魔道士。
ナツのような第1世代の滅竜魔道士は膨大な魔力を食する事によって発動出来るが、第3世代の滅竜魔道士は自らの意思で発動する事が出来る。
それが第1世代と第3世代の大きな違いだ。
キー「ナツさんも、一度くらいは見た事があるかと思います。13個目の鍵・・・黄道十二門を凌ぐ、未知の星霊を・・・・」
キースの緑色の瞳と、13個目の鍵の先端が怪しく光った。
キー「開け!竜座の扉・・・エレクトニクス!」
上空に巨大な金色の魔法陣が浮かび上がり、赤い瞳に黒い鱗で覆われた巨大な竜が現れた。
ナ「コイツも・・星霊なのか・・・!?」
目を見開いたナツは驚嘆の声を上げる。
ナ「ん?よーく考えてみると、剣咬の虎のユキノも、13個目の鍵とか何ちゃらを持ってた気が・・・?」
キー「“13個目の鍵”と呼ばれてる門の鍵は1つや2つだと限られていない。ナツさんが今言った、ユキノって人が持ってる黒い鍵も、俺が持ってる黒い鍵も、全て“13個目の鍵”って呼ばれてるんだ。」
ナ「ふーん。」
キースの解説にナツは興味無さそうに返答する。
キー&レヴ「これが俺達の切り札だ。」
13個目の鍵を構えたキースと、ドラゴンフォースを発動させたレヴルが言った。
切り札を出した2人に一切怯む事無く、ナツはニィッと口角を上げた。
ナ「“切り札”っつー事は、“最後”って事だな?」
ナツの言葉にキースは口角を上げて微笑み、レヴルは黙って首を縦に振った。
それを見たナツは、バフッ!と広げた左手に炎を纏った右拳をぶつけた。
ナ「面しれェ、燃えてきたぞ!」
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ウェ「マヤさーん!ドコにいるんですか~?」
シャ「聞こえたら返事しなさーい!」
ウェンディとシャルルが空を飛びながらマヤを探している。
マヤの夕日色をした髪の毛は遠くからでもかなり目立つので簡単に見つかると思っていたのだが、実際は甘くなかった。
シャ「全く。マヤの事だからいつかふらふらぁ~とどっか行ったっきり帰って来なくなるんじゃないかと心配してたけど・・・まさかホントになるとは、思ってもみなかったわ。」
ウェ「それを言ったって事は、思ってた事なんじゃ・・・」
シャルルの言葉に困ったように顔を引き攣らせたまま笑うウェンディが言った。
時々、遠くの方からドガァン!ガゴォン!という凄まじい爆音が聞こえてくる。
ウェ「ナツさん達、大丈夫かなぁ?」
シャ「大丈夫に決まってるじゃない。ナツなんて、「街中で無意識に暴れまくってたら、いつの間にか盗賊団を全滅させていましたー」ってくらいなんだから。」
ウェ「それもそうだね。」
シャルルは大魔闘演舞前に行った依頼の事を思い出しながら呟く。
ウェ「そういえばシャルル、最近予知が見えないんだね。」
シャ「そうなのよ。予知が何も見えないって事は、今年の大魔闘演舞は何も起こらないって事だからそれもそれでホッとしてるわ。」
肩越しから言うウェンディの問いに、シャルルは肩を竦めながら答える。
シャ「(私が何も見ていないんだから、きっとショールも見てないはずだわ。)」
シャルルは何も見ていない。
それに対して、ショールは見ている。
その事を知っている者は誰一人として存在しない。
知っているのは、ショールだけだ―――――。
ル「ウェンディー!」
ハ「シャルルー!」
自分の名を呼ぶ声が聞こえ、声が聞こえた方に視線を移すと、街中でルーシィとハッピーが手を大きく振っているのが見えた。
ウェンディとシャルルはルーシィとハッピーがいるところまで急降下し、地面に近づくと綺麗に着地した。着地したウェンディとシャルルにルーシィとハッピーは駆け寄って来る。
ル「マヤ、見つかった?」
ウェ「いいえ。ルーシィさん達も?」
ハ「全然見つからないよ。」
シャ「全く、ドコ行ったのかしら?」
ルーシィが問い、その問いにウェンディが答えた後再び問い、ハッピーが答え、シャルルが腕組をしながら言う。
ウェ「もしかして、もう会場に戻って来てるんじゃ・・・!」
ル「有り得るわね。でも、ここから行くのも大変だしなぁ・・・」
ウェンディの言葉にルーシィも頷くが、今ルーシィ達がいる場所からドムス・フラウまで戻るのにかなりの時間が掛かる。
ハ「オイラが行って来るよっ!」
シャ「私も行くわ。アンタ1人じゃ心配だもの。」
ハッピーとシャルルが翼を広げながら言った。
ル「もしマヤがいたら、どちらかが知らせに来て。そしたらショールとトーヤとフレイも連れて戻るから!」
ハ「もしマヤがいなかったら?」
ウェ「その時も、会場にいた方が良いんじゃないでしょうか?マヤさんが戻って来たらすぐに分かるように。」
シャ「そうね。」
ル「それじゃ、お願いねーっ!」
ハッピーとシャルルはルーシィとウェンディをその場に残して飛んで行くと、あっという間に見えなくなってしまった。
ル「さて、私達も探そうか。」
ウェ「そうですね。また分かれて探しますか?それとも、一緒に探しますか?」
ル「うーん・・・日も暮れ始めてきたし、効率良く探したいから、またバラバラに探しましょ。」
ウェ「分かりました。」
ルーシィとウェンディはその場で別れ、再びマヤを探し始めた。
空は薄っすらとオレンジ色になり始めていた。
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高台では、女同士の激しい戦闘が繰り広げられていた。
ウラ「水神の・・・滝落としっ!」
ウララは高く跳躍すると、エルザの頭上から黒い水を滝のように落とす―――が、
ウラ「!」
艶のある、緑を基準とした色合いの鎧―――海王の鎧に素早く換装したエルザはウララの攻撃から身を守っていた。
ナデ「フラワーメイク、槍騎兵ッ!!」
エ「くぁっ!」
ウララの攻撃から身を守る事だけに集中していたエルザはナデシコの攻撃をかわすのに遅れてしまい、ナデシコの攻撃をまともに食らってしまう。
カオ「束縛の香り。」
ナデ「うっ・・!」
カオリはナデシコの背後に周り込み、ナデシコの身体を束縛すると、
カオ「爆発の香り。」
ナデ「キャアアアア!」
小瓶のコルクを開けたのとほぼ同時に、ナデシコを巻き込んで爆発が起こった。
煙が晴れるとナデシコは気を失っており戦闘不能。
幸福の花のリーダーであるナデシコを倒した為、ピッと音を立てて銀河の旋律のポイント数に5ポイント追加され、銀河の旋律が1位、妖精の尻尾が2位になった。
それと同時に、幸福の花は全滅(6位)。
ウラ「神の水が・・・防がれた!?」
自身の攻撃をいとも簡単に防がれたのを見て驚嘆の声を上げるウララに、翼の生えた、黒を基準とした色合いの鎧―――黒羽の鎧に換装しながらエルザは淡々と呟いた。
エ「神を倒せても、妖精はそう簡単には倒せないぞ。」
凛とした声で呟きながら、エルザは剣を振りかざした。
黒羽の鎧は一撃の破壊力を上げる鎧。その鎧を纏ったエルザの攻撃をまともに食らったウララは戦闘不能。
白い柳のリーダーであるウララを倒した為、ピッと音を立てて妖精の尻尾のポイント数に5ポイント追加され、再び銀河の旋律と順位が並んだ。
それと同時に、白い柳は全滅(5位)。
エ「・・・・・」
カオ「・・・・・」
戦場に残ったのは妖精の女と銀河の女。
2人は見つめ合ったままその場から1歩も動かず、瞬き1つさえしない。2人の間を、静かに風が吹き抜けた。
エルザは換装を解き、いつも身に纏っている鎧姿に戻りながら口を開いた。
エ「やはり、お前が残ったか。」
カオ「残らないと、あなたと戦えませんから。」
エルザとカオリは口元に薄い笑みを浮かべる。
カオ「突然ですがエルザさん、問題です。私の魔法はいったい何でしょうか?」
エ「えっ?」
言葉どおり、突然すぎる問題にエルザは驚嘆の声を上げ目をパチクリさせる。しかも、その質問はビックリするくらい簡単すぎる。
エ「・・香り魔法・・・だろ?」
カオ「正解です!」
拍手をするカオリを、エルザは首を傾げながら見つめる事しか出来なかった。
カオ「それでは次の問題!」
エ「ま、まだあるのか・・・!」
突拍子も無い事を言い出すカオリにエルザは呆れ顔。
この隙に倒そうか、という考えが頭の中をよぎったその時―――、
カオ「私の、もう1つの魔法は何でしょうか?」
エ「・・・えっ?」
エルザは自分の耳を疑った。
さっきとは違う驚嘆の声を上げ、さっきとは違う意味で目をパチクリさせる。
カオ「・・・はい、時間切れです!」
呆然としているエルザを無視してカオリは話を進めていく。
カオ「正解は―――――」
カオリはキャラメル色のショルダーバッグから小瓶を1つ取り出した。すると、小瓶が見る見るうちに形を変えていく。
エ「・・・!ガハッ・・!」
小瓶に呆気に取られていたエルザの右肩を銃弾が貫いた。
カオ「変換武器です。」
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フ「マヤー!ドコだーっ!」
ト「マヤさ~ん!」
人間の姿になったフレイとトーヤが家々が建ち並ぶ路地を並んで歩きながらマヤの名を叫んでいた。
つい先程まで、2人はバラバラに行動していたのだが、偶然この路地で出会わせて一緒に探す事になったのだ。
ト「見つかりませんね、マヤさん。」
フ「ったく、人騒がせな奴だぜ。」
トーヤは不安そうに視線を泳がし、フレイは頭を掻きながらぶっきらぼうに呟く。
すると、トーヤと契約している双子の幽霊、ユウとレイがふわふわと飛んで来た。トーヤに言われてユウとレイもマヤの事を探していたのだ。
ト「ユウ、レイ、お帰り。マヤさんは見つかった?」
トーヤの手の上に乗ったユウとレイは首を左右に振る。どうやらマヤは見つからなかったらしい。
ト「そうか・・・ユウ、レイ、ありがとう。ゆっくり休んで。」
そう言うとトーヤはユウとレイを妖霊界に帰らせた。
時々、遠くの方からドガァン!ガゴォン!という凄まじい爆音が聞こえてくる。
ト「皆さん、激しく戦ってるみたいですね。」
フ「あぁ。」
音が聞こえた方を見て呟くトーヤの言葉に、フレイは素っ気無く答えた。
ト「フレイさん?元気ないみたいですけど、どうかしましたか?」
トーヤが不思議そうにフレイの顔を覗き込む。
フレイは右手を顎に当てて考え込んでいるような仕草をしていた。薄っすらと、フレイの額には冷や汗が滲んでいた。
フ「・・・100年目・・・・」
ト「えっ?」
フレイの呟きにトーヤは首を傾げる。
フ「今思い出した事なんだけどよ・・・鳳凰が消えた日は、ナツやウェンディの親と同じ、777年の7月7日なんだ。」
ト「偶然なのか必然なのかは分かりませんが、竜と鳳凰が消えた日は一緒なんですよね。」
ナツもウェンディもマヤも、姿を消した自分達の親を今でも探し続けている。
フ「俺はマヤの親、つまり、鳳凰の使いとして300年近く従えているから知ってて当然の事なんだけどよ・・・」
そこまで言うと、フレイは黙ってしまった。
トーヤは急かさず、フレイが再び話し始めるのを黙って待ち続ける。それがトーヤの良い所なのだ。
ようやくフレイが話し始めたのと同時に、トーヤは開いた口が塞がらなくなってしまった。
フ「100年に一度、鳳凰は『闇』に心を支配される事があるんだ。」
ト「・・え・・・」
トーヤの口からはか細い声しか出なかった。
フ「そして不運にも、竜と鳳凰が消えた日、大魔闘演舞最終日の7月7日が・・・その100年に一度の日なんだよ。」
ト「!」
トーヤの紫色の瞳が驚きで見開かれた。
フ「もちろん、『闇』に支配された時の対処法はあるんだけど・・・何か悪い事が起こらなければいいんだけどよ・・・」
フレイの燃え盛る炎のような赤い瞳には、“不安”という名のハイライトが揺らいでいた。トーヤはこんな瞳をしたフレイを初めて目にした。
ト「し・・心配ありませんよフレイさん!鳳凰はマヤさんのお母さんなんですよね?あの年中無休テンションMAXのマヤさんを育てた方が、『闇』に心を支配される事なんて絶対ないですよ!万が一『闇』に支配されたとしても対処法があるんですから、きっと大丈夫です!鳳凰さんを信じましょう。」
フレイを元気付けるように言ったつもりだったが、トーヤの声にはあまり迫力が無かった。それはトーヤ自身も心底不安だからだろうか―――――?
優しいトーヤの気遣いに気づいたフレイは口元に笑みを浮かべると、わしゃっとトーヤの銀色のクセ毛を撫でた。
ト「わっ!」
フ「ありがとな、トーヤ。」
さっきと裏腹の笑顔を浮かべるフレイを見てトーヤは目を見開いたものの、すぐにトーヤも目を細めて微笑んだ。
フ「おしっ!気を取り直してマヤを探すぞっ!」
ト「はい!」
威勢の良い声と共にフレイはガッツポーズをし、トーヤは元気よく返事をしながら敬礼をすると2人同時に駆け出しマヤの名を叫んだ。
フ「(そうだ・・・トーヤの言うとおり、心配する事なんてねェんだ。鳳凰が、『闇』になんか負けるはずねェんだ。)」
マヤの名を叫びながら、フレイは自分に言い聞かせるように心の中で呟く。
フ「(それに、鳳凰はもう――――――――――・・・)」
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ハル「雷拘束!」
ユ「うっ・・!」
ハルトは7属性の武器の1つ、雷の槍の先端をドスッ!と地面に突きつけると同時に、ユモの足元に黄色い魔法陣が展開しユモの身体の自由を奪った。
ユ「(身体が・・動か、ない・・・!)」
動かそうとしても自分の身体が言う事を利かない。唯一動くのは目と口だけだ。
イレ「白光拳、連!」
白い光を纏ったイレーネの拳が連続でユモの身体に叩き込まれていく。
ユ「うああああああっ!」
ユモは痛みに悲鳴を上げ顔を顰める。それでもイレーネは殴り続ける。薄っすらと目を開けると、ハルトも槍の先端に球状に圧縮させた雷を宿らせていた。
ユ「(どうにかして・・身体の、自由を・・・取り戻さ、ない、と・・・!)」
ユモは必死に頭を高速回転させ、この窮地の突破口を探る。
そして見つけた、突破口を―――――。
イレ「えっ・・・!?」
ハル「雷拘束が・・・!」
自由を奪われたユモの両足から冷気が出て、足元の黄色い魔法陣が凍りついた。魔法陣はまるで硝子のようにパリィン!と音を立てて割れ、ユモの身体に自由が戻った。
解放されたユモはすぐさま両手を構え冷気を溜めると、
ユ「アイスメイク、柱ッ!!」
ハル「ぐあぁぁああ!
イレ「キャアアアアアア!」
冷気を溜めた両手をバンッ!と地面に叩きつけた。すると、地面から巨大な氷柱が突き出しハルトとイレーネの身体を宙高く突き飛ばした。
ユ「アイスメイク、爆弾ッ!!」
再びユモは両手に冷気を溜めると、無数の氷の爆弾を造形し一斉にハルトとイレーネに向かって投げつけた―――が、
ハル「雷の槍は、ただ雷を自由自在に操るだけじゃないんだからなァ!」
ハルトは怒鳴りつけるように言うと、雷の槍を両手で横に持ち、新体操のバトンのようにくるくると器用に回し始めた。
氷の爆弾はくるくると回る雷の槍に弾き飛ばされ、地面に当たって爆発する。
氷の爆弾はハルトはもちろん、イレーネにも1つも当たらなかった。悔しそうに顔を顰めるユモとは対照的にハルトはニィッと口角を上げて微笑んだ。
ハル「ユモと戦うのはすっごく楽しいが、そろそろ終わりにしないとな。雷拘束、硬雷!」
再びハルトは雷の槍の先端をドスッ!と地面に突きつけユモを拘束し、ユモの身体の自由を奪った。
ユ「こんなの、さっきと同じように凍らせれば・・・!?」
動かない両足から冷気を放出させ、魔法陣を凍らせようとするが、いつになっても魔法陣が凍りつかない。もちろん、魔法陣には亀裂も入らない。
ユ「そんな・・・!何で・・・!?」
ハル「その雷拘束はさっきの雷拘束の100倍頑丈なんだ。凍らせただけじゃ割れねェよ。」
驚嘆の声を上げるユモにハルトは槍の先端を突きつけながら言う。
イレ「ユモには悪いけど、ここで終わりよ。」
ハル「優勝するのは、俺達海中の洞穴だっ!」
両手の中に球状に圧縮させた白い光を放とうとするイレーネと、槍の先端に球状に圧縮させた雷を放とうとするハルトが言った。
ユ「(身体が動かないんじゃ、避ける事も防ぐ事も出来ない・・・2人の攻撃を正面からまともに食らったら、私は・・確実に、負ける・・・!)」
イレ「白光球!」
ハル「雷球!」
白い光と雷の球体が放たれた。
それと同時にユモは顔を背けてギュッと固く目を瞑った。
ユ「(皆・・ゴメン・・・!)」
ドガガガガガァァァン!と凄まじい爆発音が轟いた。
ハルトとイレーネは腕を顔の前で交差させ被害を最小限に抑えた。砂煙が舞い上がる。
ハル「・・や、やった、か・・・?」
イレ「た・・たぶ、ん・・・」
肩で大きく息をしながらハルトとイレーネは短く言葉を交わした。
砂煙が徐々に晴れていくと、黒い人影が砂煙の中に浮かび上がった―――が、
ハル&イレ「!!?」
砂煙の中の黒い人影はユモではなかった。
砂煙が晴れていくうちに、その姿は明らかになっていく。風に揺れる紺色の髪の毛、首元でキラリと光る銀色の十字架のネックレス、服を着ていない、傷だらけの上半身―――――。
グ「情けねェなぁ、氷上の舞姫さんよォ。」
ユ「グレイ!?」
ハルトとイレーネ、身動きが出来ないユモの間に立っていたのはグレイだった。
グレイの前には8枚の花弁のような形をした氷の盾があった。どうやらハルトとイレーネの攻撃を盾で防いだらしい。
グレイは両手を構え冷気を溜めると、
グ「アイスメイク、槍騎兵ッ!!」
ハル「うあっ!」
イレ「ひゃわぁ!」
無数の氷の槍を造形しハルトとイレーネに向かって一斉に放った。
ハルトとイレーネは飛んでくる無数の槍を壊したりかわしたりする。すると、魔法陣が硝子のようにパリィン!と音を立てて割れ、ユモの身体に自由が戻った。
ユ「グ・・グレイ、何でここに?初代の読みだと、リオンとシェリアが相手なんじゃ・・・?もしかして、もう倒したのぉ!?」
グ「一編に言うな。」
一度にたくさんの事を聞くユモをグレイは宥めると、困ったように頭を掻いた。
グ「実はな・・・」
話し難そうに遠まわしに言いながら、グレイは肩越しから自分の後ろを指差した。グレイの指差した方に視線を移したユモは青い垂れ目を見開いた。
グ「連れて来ちまった。」
リオ「グレイ!もう逃げられないぞっ!」
シェ「いい加減大人しく倒れてよ~!」
ユ「えぇーーーーーっ!?」
申し訳無さそうに言うグレイの背後には構えた両手に冷気を溜めているリオンと、両手に黒い風の渦を纏ったシェリアがいた。
ハル「アンタ等は、蛇姫の鱗の・・・」
イレ「リオン・バスティアさんと、シェリア・ブレンディさん。」
リオ「そう言う貴様等は、確か・・海中の洞穴の・・・」
シェ「ハルト・パーカーとイレーネ・ザンビア!」
ハルトとイレーネが呟いたのと続くように、リオンとシェリアも呟く。
同じ場所に3つのギルドの2人の魔道士が集結した。
リオ「グレイを倒せる故に、4人全員倒せば、ポイントはかなり加算される。」
シェ「一石二鳥だね。」
ハル「4人全員倒せば・・・!」
イレ「逆転出来るかもしれないわね。」
リオンは再び両手を構え冷気を溜め、シェリアは再び両手に黒い風の渦を纏い、ハルトは雷の槍を構え、イレーネは両手に白い光を纏いながら呟いた。
リオンとシェリアは右から、ハルトとイレーネは左から攻めて来る。背中合わせになったグレイとユモは挟み撃ちにされてしまった。まるで袋の鼠・・・いや、袋の妖精だ。
ユ「4人同時に倒さないといけないなんて・・・」
今まで経験した事の無い状況にユモはすっかり自信を無くしてしまっている。
それを見兼ねたグレイがユモの左手を掴んだ。驚いて振向いたユモが口を開く前に、グレイが小さな声で呟いた。
グ「俺がついてる。」
言った相手がジュビアだったら一発で倒れるだろう。
言い掛けた言葉が言えなくなったユモは、赤くなった顔を見られないように慌てて逸らし伏せた。しばらくユモは顔を伏せたままだったが、口元に小さな微笑を浮かべるとグレイの手を握り返した。
グレイとユモは同時に目を閉じる。
リオ「シェリア、行くぞ!」
シェ「うん!」
イレ「準備は出来た?ハルト。」
ハル「いつでもOK!」
リオン、シェリア、ハルト、イレーネの4人は一斉に地を蹴り駆け出した。
グレイとユモは同時にカッ!と目を開き、繋いでいた手を離すと両手を構え冷気を溜めた。
グ「行くぞユモ!」
ユ「全力で行くよ、グレイ!」
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ハッピーとシャルルはやっとの思いでドムス・フラウに戻って来た。
応援席に着いた時にはもうヘロヘロだった。
ロメ「ハッピー、シャルル、大丈夫か?」
レビ「いくら何でも飛ばしすぎだよ。」
リサ「そんなに慌てなくても大丈夫なのに。」
ロメオ、レビィ、リサーナの順に言う。
ハ「だ・・だって・・・皆がすごく心配してるって、マヤに・・伝え、たかっ・・たんだ、もん・・・」
マカオ「それが理由かよ。」
ワカ「ハハハ、マヤもとんだ迷惑少女だな。」
マカオ「言えてるぜ。」
ワカ「だろぉ?ハッハッハーッ!」
マカオとワカバはしょうも無い話をして肩を組んで笑う。
シャ「で、マヤは・・・?」
ラキ「まだ戻って来てないわよ。」
ウォ「マヤってトイレ長いんだなー。」
マッ「んな訳ねーだろ!」
シャルルの問いにラキは首を左右に振り、真顔で呟くウォーレンにマックスがツッコミを入れる。
アス「マヤおねーちゃん、ドコ行ったの?」
アル「それが分からないんだ。」
ビス「今ルーシィ達が街中を探してるから、きっともうすぐ見つかるわよ。」
マカロフに肩車されたアスカが首を傾げ、アルザックとビスカが答える。
エル「お前等、まだ探しに行くのか?」
ハ「ううん。ルーシィとウェンディに「ここにいて」って言われたんだ。」
シャ「マヤが戻って来たら、すぐにルーシィ達に言えるようにね。それに、少し疲れたから休みたいしね。」
ハ「あい!ナツー!頑張れーっ!」
シャ「エルザー!頑張んなさいよーっ!」
エルフマンの問いに答えた後、ハッピーとシャルルは並んで座り、映像魔水晶の映像に映るナツ達に向かって声援を掛けた。
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噴水の広場に、2匹の男がいた。
1人は鋼鉄のように硬い岩を自由自在に操る魔道士。1人は3本の聖剣を振るう魔道士。
互いが聖十大魔道のリョウとジュラの戦いは、これまでにない激しい攻防戦が繰り広げられていた。
リョ「3剣流・・・銀天嵐切ッ!!」
リョウは助走をつけて高く跳躍すると、銀色の光に包まれた『銀覇剣』を、淡い水色の光を纏った『天力剣』を、吹き荒れる風の渦を纏った『嵐真剣』を大きく振りかざした。
ジュ「岩錐!」
ジュラはしるしを切り、地面から円柱形の岩の柱を出しリョウの攻撃から身を守った。
ジュラは再びしるしを切ると、地面から無数の円柱形の岩の柱を出しリョウに攻撃を仕掛ける。
次々と飛び出してくる岩の柱を避けたり足場にしながら、リョウはジュラに近づくと、
リョ「うォらァッ!」
ジュ「ぐっ・・!」
右肘でジュラの顔面を殴った。
ジュ「はぁっ!」
リョ「ぐはっ・・!」
リョウに殴られバランスを崩したジュラだが、負けじとリョウの頭に平手打ちをする。リョウは顎を地面に強打する。
リョ「オオオオオオオオオッ!」
すぐさま起き上がったリョウは銀色の光に包まれた『銀覇剣』と淡い水色の光を纏った『天力剣』を地面に突き刺した。すると、ジュラの足元の地面に亀裂が入り、そこから銀色と水色に光り輝く光の渦が現れジュラの身体を呑み込んだ。
ジュ「ぬっ・・!」
突然の事にジュラも咄嗟にかわす事が出来ずにリョウの攻撃をまともに食らってしまった―――が、
ジュ「鳴動富嶽!」
リョ「ぐああああああああああっ!」
昨年の大魔闘演舞の競技で、MPFにて“8544”という数値を出した技を、リョウはまともに食らってしまった―――――。
ジュ「(・・・ちっとやりすぎてしまったか。)」
口元の血を拭いながらジュラはリョウがいた場所に視線を動かす。
ジュラが着ている白い着物は所々破れ、頬や腕には大きな傷があり血が流れている。呼吸も少し荒い。
ジュ「(やはり聖剣を6本も所有している事から、只者ではない事に間違いない。しかし・・・あの鳴動富嶽をまともに食らえば、流石のリョウ殿でも―――――!!?)」
リョ「だァらァア!」
ジュ「ぬおっ!」
砂煙の中から傷と血だらけのリョウが飛び出した。
傷だらけの右手を硬く握り締め、ジュラの右頬を殴った。
リョ「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」
リョウも相当ダメージが大きかったのか、立っているだけでも辛そうだ。
ジュ「言葉に・・出来ん・・・!」
ジュラの顔にも笑顔が浮かんでいる。
リョ「こ、こんなに・・自分がしぶてェとは・・・思ってもみなかったぜ・・・・」
再び開いてしまった腹部の傷を押さえ、痛みに顔を引き攣らせながらも、正面から茶色い瞳で目の前にいる“最強”を真っ直ぐ見据えた。
リョ「ここまで来たら、当たって砕けてやる!
ジュ「来い!魔力、体力、気力が共に朽ち果てるまで、この戦いは終わらぬ!」
栄光なる魔の頂は目と鼻の先!勝利の女神が微笑むのはいったいどのギルドか―――――!?
大魔闘演舞は最終局面へと向かう―――――。
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落ち着いた足取りで、ショールは人影の無い通りを歩いていた。
ショ「(あの時の・・・マヤの慌てっぷり、覚束ない足取り、虚ろな瞳・・・マヤに何かあったのか?)」
マヤがいなくなる直前まで「自分の名を呼ぶ声がする!」と叫んでいたマヤと、その後のマヤの様子をショールは頭の中で重ね合わせる。
ショ「(マヤを呼ぶ声・・・マヤはその“声の主”に何かを言われて、俺達の前からいなくなったんじゃ・・・?)」
ショールは足を止めゆっくりと目を閉じた。人影の無い通りは、音1つしない。
ショ「(あの覚束ない足取りと、虚ろな瞳・・・あれは、“声の主”に操られているからなんじゃ・・・!)」
鮮血のような赤い瞳をカッ!と見開いた。
ショ「マヤが危ない・・・!」
主観的にそう思ったその時―――、
ショ「!」
予知が見えた―――――。
ほんの一瞬だったがショールには今まで見てきた予知の中で一番はっきりと見えた。
ゴツゴツした岩が並ぶ、薄暗いドムス・フラウの地下――――――――――。
銀色の台座に置かれた巨大な黒い大砲――――――――――。
その黒い大砲に、覚束ない足取りで近づくマヤの姿――――――――――。
導火線に火を点けるマヤの姿――――――――――。
黒い大砲から放たれた白銀の閃光――――――――――。
今見た予知の内容に、ショールは息を呑む事しか出来なかった。
ショ「い・・今のは、いったい・・・?」
ショールはしばらく呆然とその場に立ち尽くしていたが、拳を硬く握り締めると足に風を纏いドムス・フラウに向かって走り出した。
ショ「(あの予知が何を示しているのか分からないけど・・・!マヤがドムス・フラウの地下にいるという事は分かったんだ!)」
足に風を纏っている事で、ショールは風のような速さで街中を駆け抜ける。
ショ「(それに、あの大砲とマヤは、いったいどういう関係があるんだ・・・?もしかしたら、マヤは“声の主”に言われて、ドムス・フラウの地下にある大砲の所に行ったんじゃ・・・!)」
問答しながら、ショールは全速力で走る。
ショ「嫌な予感がする・・・!」
1秒でも早く・・・!そう願いながらショールは1人ドムス・フラウへと戻るのだった。
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ドムス・フラウの地下深く。
銀色の台座に置かれた黒い大砲。黒い大砲の中央部に書かれている赤い術式は休まずに刻々と時を刻み続けていた。
『『極悪十祭』まで、残り1日 09時間13分57秒』
後書き
第194話終了です!
・・・長い。長すぎてめちゃくちゃ疲れました。
次回は大魔闘演舞、いよいよ最終局面に突入です!そして、大魔闘演舞終了と共にナツ達に襲い掛かる悲劇が明らかに―――――!
それではまた次回、お会いしましょうー!
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